2018.07.30

「ビッグイベントが目白押しのアジアでFIBAとウインウインの関係を構築する」アジアリーグCEOマット・ベイヤー氏インタビュー

ベイヤー氏は現在30歳。CBAでプレーするアメリカ人プレーヤーのエージェントを務めている[写真]=アジアリーグ
バスケットボールキング編集部。これまで主に中学、高校、女子日本代表をカバーしてきた。また、どういうわけかあまり人が行かない土地での取材も多く、氷点下10度を下回るモンゴルを経験。Twitterのアカウントは @m_irie3

7月、ライジングゼファー福岡が出場した「サマースーパー8」は、アジアリーグが主催する大会。日本のBリーグをはじめ、中国、韓国、台湾、フィリピンの4つの国と地域のリーグから8チームが参加した。昨年に立ち上げられたアジアリーグは「ザ・スーパー8」を開催(千葉ジェッツが優勝)、そして、今年「サマースーパー8」と「テリフィック12」と2大会にアップグレード。今後も様々な施策を繰り出していくというアジアリーグの創始者でありCEO(最高経営責任者)のマット・ベイヤー氏にアジアリーグを立ち上げた理由や今後を聞いた。

取材・文=入江美紀雄

アジア全体の底上げを図るために誕生したアジアリーグ

日本のメディアの取材に対応するベイヤー氏


――今回初めて開催した「サマースーパー8」はどのような大会ですか?
ベイヤー
 東アジアのバスケットボールの底上げを狙って作りました。東アジアのどのリーグもオフシーズンには試合をする機会がなく、特にレギュラーシーズンで試合に出られない選手や各国の代表以外はプレー経験も多いとは言えません。そのような選手にチャンスを与えたいと思い、この大会を作りました。今年は8チームでしたが、来年は16に出場チームを増やす予定です。

 FIBA(国際バスケットボール連盟)が目指す目的の1つに“バスケットボール全体の底上げ”がありますが、そのサポートもできればと考えています。今年はその一環としてコーチクリニックを行いました。アジアで唯一のFIBA公認のクリニックであり、コーチの質を上げることはバスケ界の底上げには欠かせないものですから、開催できてとても良かったと思います。今後はシューズやウェアのメーカーやエージェントなどが交流を持てる場にしたいと思っていますし、NBAのサマーリーグのようににぎやかにできればと考えています。

――今後はオーストラリアやニュージーランドのリーグが加わるのですか?
ベイヤー
 それは考えていません。なぜなら遠いからです。

――基本的には東アジアの国にフィリピンを加えた形になりますか?
ベイヤー
 そのつもりです。マカオ特別行政区スポーツ庁の支援もいただいていますし、この5つのエリアのどこからも約4時間で飛んでこられるという地理的な理由もあり、マカオでイベントを開催する予定にしています。なので、オーストラリアやニュージーランドはエリアから外れてしまうわけです。

――9月に行われる「テリフィック12」について教えてください。
ベイヤー
 各リーグの上位チームがベストなロースターをそろえて、がちんこの試合をすることになります。外国人選手も入れて、本当の意味でのチャンピオンシップにしたいですね。将来的にはサッカーでいうところのAFC(アジアサッカー連盟)チャンピオンズリーグのようにホーム&アウエーで戦うスタイルにしたいですし、FIFA(国際サッカー連盟)とAFCのように、我々もFIBAとの関係を構築したいと思っています。どう思いますか?

――約20年前にも同じように東アジアの国々でいわゆる“アジアリーグ構想”というものがありました。しかし、当時の日本にはプロリーグでもなく、消極的だったと聞いています。
ベイヤー
 その話を私も聞いています。ただ20年前に比べて機が熟したのかもしれません。CBA(中国プロバスケットボールリーグ)やPBA(フィリピンプロバスケットボールリーグ)は順調に成長を遂げています。日本にはBリーグが誕生して、信じられない成長を始めようとしています。各国のリーグがケーキだとしたら、アジアリーグはそれに乗っているチェリーのような位置付けになればと思っています。それにサッカーよりもバスケットボールの方がスポーツとしてのテンポが速く、いろいろアクティブなので今の若者には合っているのではないかと。

――東アジアの各リーグが刺激をしあい、成長するのは素晴らしいと思います。
ベイヤー
 昨年の千葉ジェッツが優勝した「ザ・スーパー8」で準優勝した浙江ライオンズは、千葉と戦うことで自分たちの課題が明確に分かったと聞いています。それまでは5位や6位の成績だったのが、昨シーズンは2位まで躍進しました。千葉の早いパス回しに苦戦したライオンズは、それを克服しようと練習に取り入れました。それに対応できるようになり、チーム強化につながったと聞いています。

――なるほど。Bリーグのチームにはどんな印象を持っていますか?
ベイヤー
 プロ意識が非常に高いと思いますが、ちょっと練習しすぎてはないかと。他のチームがホテルやカジノでのんびりしているのに、日本のチームは練習することが常に頭にある。遊ぶというのは言い過ぎかもしれませんが(笑) ゲームを振り返ったり戦術的に頭で考える時間を持ってもいいと思います。練習も大事だけど、それも必要ではないかと。でも、日本のチームは試合が終わってもすぐにシューティングを始めてしまいますからね(笑)

2018年から5年間はアジアでバスケのビッグイベントが目白押し

「サマースーパー8」は5つの国や地域から8チームが出場。若手の成長の場としての役割を持つ


――日本に来られたことはありますか?
ベイヤー
 何度かBリーグの試合を見たことがあります。結構、沖縄にも行っていますよ。琉球ゴールデンキングスが地元と密着な関係を持っていることはすぐわかりました。地域貢献や独特の演出で会場の盛り上がるは素晴らしいですね。それにグルメも堪能できる。キングスの木村(達郎)社長や安永(淳一取締役)さんはいい仕事をしていると思います。

――あなたはCBAでエージェントをしていますが、アジアのバスケをNBAやヨーロッパと比べてどのように見ていますか?
ベイヤー
 私はCBAで10年ぐらいビジネスに関わっていますが、ヨーロッパに比べて20~30年、NBAに比べて40年ぐらい遅れといると見ています。アジアのバスケはまだ赤ちゃんのようなものです。ただそれだけにポテンシャルしかありません。アジア全体の成長スピードが速いので、早いタイミングで追いつくと思っています。そのためにもいいコーチを育てなければいけないわけです。

――来年は中国でワールドカップが開催され、再来年には東京オリンピックが控えています。今後、アジアのバスケットボールがどのように発展していくと思いますか?
ベイヤー
 人々の関心が高まることは非常に大切で、それが放映権やビジネスの話に直結します。それでいい循環が生まれますから、ポジティブに考えています。東京オリンピックの後にはフィリピン、マレーシア、そして沖縄でワールドカップがあります。これから5年間、FIBAのメインイベントのほとんどはアジア開催です。FIBAは代表チームに注力すると思いますが、私たちがクラブチームを成長させるお手伝いができれば、お互いにウインウインの関係が築けると思います。

――最後にアジアリーグのミッションを教えてください。
ベイヤー
 東アジアで最高峰となるクラブ同士が対戦するプラットフォームを作ることです。

――FIBAやFIBAアジアも同じようなことを考えていますね。
ベイヤー
 FIBAアジアは組織的には大きくなく、人数も少ない。ましてや今はレバノンに本部があります。これから5年間でワールドカップを2回、オリンピックを1回オーガナイズするには基本的に人が足りていません。その状況の中、我々がパートナーとしてクラブとクラブの関係を一緒に作っていくっていうそういう考え方ですね。

――何もないところから立ち上げて、今年2年目でFIBAの公認にもなっている。ここまで作り上げるには相当なパワーが必要だと思いますが、バイタリティーの源は何ですか?
ベイヤー
 正直お金にはあまり興味がありません。もちろんないよりあった方がいいんでしょうけど、やっぱりバスケットボール業界自体やバスケ産業全体を変えたいですね。加えて、スポーツに対するパッションも持っているので、そういったものでみんながハッピーになればいいなと思います。

来日経験もあるベイヤー氏。琉球の取り組み方が特に印象に残っているという

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