2021.04.14

中村太地が韓国挑戦1年目を語る…「KBLで戦うためには常に自分のフルマックスのパワーが必要」(前編)

日本人として初めてKBLでプレーした中村太地 [写真提供]=KBL
スポーツライター。『月刊バスケットボール』『HOOP』編集部を経て、2002年よりフリーランスの記者に。国内だけでなく、取材フィールドは海外もカバー。日本代表・Bリーグ・Wリーグ・大学生・高校生・中学生などジャンルを問わずバスケットボールの現場を駆け回る。
 韓国プロバスケットボールリーグ(KBL)に挑戦していた中村太地が4月9日に帰国した。今シーズンよりKBLでもBリーグと同様にアジア枠が導入されたことを機に、福岡大附大濠高校時代に指導を受けたイ・サンボム監督率いる原州DBプロミへ直談判する熱意の交渉の末に入団。所属する原州DBプロミは残念ながら10チーム中9位(3チームが7位同率で並び得失点差で9位)で上位6チームによるプレーオフ進出には至らなかったが、中村はレギュラーシーズン54試合のうち37試合に出場(17試合エントリー登録外)、平均15.48分4.6得点1.9リバウンド1.9アシスト、3ポイントシュート成功率32.9パーセントのスタッツを残して初年度を終えた。

 シーズン序盤は、主力の負傷が相次いだことから長時間起用されたが、負傷者が戻ってきた中盤以降はプレータイムが減少。過密日程やフィジカル面で対応できず、12人のエントリーから外れてトレーニング期間を命じられる挫折も味わった。それでも、シーズンを通して見れば、タイムシェアをしているとはいえ17試合において先発を務め、2度のゲームMVPを受賞するなど、手応えを感じたこともある。異国の地で様々な経験を積んだ中村にKBL初年度を振り返ってもらった。

手応えと悔しさを感じた初めてのシーズン

――KBLで1シーズンを終えた率直な感想を聞かせてください。
中村 大きなケガをすることもなく、無事に1シーズン過ごせたことは手応えとしてありますが、なかなかプレータイムが安定せず、さらに登録から外れて試合に出られない期間があったのは悔しかったです。

 KBLでは常に自分のフルマックスのパワーで戦わないとチームに貢献できないと感じました。実際には、KBLでやるべきことの10分の1くらいしか学んでいないのではと思います。日本にいたら経験できなかった競争の激しさがあり、競争を勝ち抜くには何をすべきかを考えるようになりました。

――常にフルマックスのパワーで戦わなくてはいけない中で、一番大変だったことは何ですか?
中村 体力やフィジカルの面でついていけなかったことです。正直に言うと、韓国に行く前はもっと試合に出られないイメージがあったんです。初めて海外でプロ生活を送る責任感に押しつぶされて、どこかで気持ちが折れてしまうかも……と想像したこともあります。それが、プレシーズンのKBLカップと開幕戦で自分の力をある程度見せられたことで『結構やれるじゃん』というのが最初の手応えだったんですね。主力にケガ人がたくさんいたこともありますが、まさか自分が30分も試合に出してもらえるとは思っていなかったので、意外とイケるんじゃないかと思い、勢いでシーズンに入ることができました。

 でも、途中で身体が持たなくなりました。最初に苦労して、徐々に試合に出ていたらまた違ったと思うんですけど、その逆で、最初からぶっ飛ばしたというか、自分の持てるすべてを毎試合出していたら、途中から身体が持たなくなってしまったんです。

 KBLのスケジュールは日本よりもタフです。Bリーグも土日連戦は大変ですが、同じ場所で試合しますよね。KBLはホームとアウェーを毎試合行き来するので、土日に連戦する場合でも移動するんですよ。それにシーズン中のオフも少なくて、試合と練習と移動を繰り返すので、シーズンが凝縮されているイメージで本当にハードでした。チームのために自分のコンディションをどれだけ合わせることができるか、勝つためのコンディションをいかに毎試合ごとに高めていけるかが、すごく勉強になりました。

2度のゲームMVPを受賞するなど、手応えを感じたのも事実 [写真提供]=KBL


――シーズンを通して戦うコンディションが作れないために、12月中旬以降は登録メンバーを外されました。またシーズン終盤にも新人を鍛えるために登録を外れることもありました。このときはどう自分と向き合いながらトレーニングをしていたのですか?
中村 今思えば、韓国で戦うだけの身体もメンタルも足りなかったと思えますが、まさか登録を外れるとは1ミリも考えていなかったので、『ケガをしていないのに何で?』と悔しさやショック、焦りがありました。気持ちのアップダウンはかなりあったのですが、モチベーションを下げないように、“何のために自分はここにいるのか”“何のために海外に来ているのか”という初心を忘れないように、何度も何度も思い直しながら、1日3部練のトレーニングをしていました。韓国に渡る前の気持ちを思い出すことによって、自分がどう成長していくかを毎日考えられるようになりました。

――BリーグとKBLの大きな違いは外国籍選手がオンザコート1であること。外国籍選手が一人少ない戦いで感じたことは?
中村 外国籍選手が一人少ないからといってKBLの競技力が低いとはまったく思いません。外国籍選手に任せてしまうことはもちろんありますが、全体的に見ればKBLは国内選手ファースト。どのチームにも試合を決める国内のエースが必ずいて、とくにインサイドをやる選手が各チームに必ずいるし、フォワードの選手はサイズがあって質が高い。国内選手の質とサイズは日本より圧倒的だと感じました。

 Bリーグでは日本人のガードはスピードでガンガン行きますが、韓国のガードは体ががっちりしていて、インサイドとミスマッチで守るときも、押し込まれないとまでは言わないですが、耐えられる選手なんです。フルコートプレスはそんなにすごいとは感じなかったけど、ハーフコートでの圧力がすごくて、そのマッチアップも大変でした。

――韓国はアジアの中でもフィジカルコンタクトが強いことが特長。実際に現地でプレーしてみて、その理由やどのように鍛えているか判明したことはありますか?
中村 それは難しくて、全部は分からないのですが……韓国は(陸続きの)大陸で、日本は大陸じゃない差が根本的にあるんじゃないかと、ちょっと思っています。アップでダンクする人も多いし、ご飯をよく食べる人は胃腸が強くて、パワフルな選手が多いです。以前から、KBLでプレーする選手は学生時代から“バスケエリート”というのは聞いていて、そういう前提があるからか、“自分がやってやろう”“アイツを負かして上に行ってやろう”という気持ちがすごく強い。そこがフィジカルの強さになって、体作りにも影響しているのかなと思います。とくに下半身がしっかりしています。地に足がついているというか、体がフワッと浮くことがなくて、ずっと姿勢を低くして当たっている感じがあります。一見して太くない選手でも体が鍛えられています。体を鍛えなきゃいけない、まだまだ鍛え方が足りないと痛感しました。

取材・文=小永吉陽子

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