試合終了のブザーがまだ鳴りやまぬ中、ケビン・デュラントの放ったジャンプシュートがゴールの間に吸いこまれていった。
わずかに0秒を過ぎているようにも見えたが、会場は賑やかな音楽が鳴り響き、スタンドは歓喜に溢れ、ゴールデンステート・ウォリアーズの選手達はデュラントを囲んで喜び合っていた。そんな中、ヒューストン・ロケッツの選手達は不満げな表情で、とぼとぼ出口へ向かって歩いていった。
ほとんどのロケッツの選手の姿が消えた時、審判からシュートがノーカウントであることを告げられた。するとジェームズ・ハーデンが走ってコートに戻り、CP3ことクリス・ポールらが続いてコートで抱き合った。
ハーデンとポールというゴールデン・デュオのデビュー戦は、おかしな幕切れだった。しかし「自信につながる1勝」だとポールは言った。左ひざを痛めながらの出場で、全く本調子ではなかった。しかし11アシストを決めてチームを盛りあげ、第4クォーター開始時の13点差を中盤に4点差まで持ちこんだ時には、デュラントからスティールを奪ってクリント・カペラのレイアップにつなげている。
そのあとのタイムアウトでベンチに退いたが、「あの時、エリック・ゴードンがベンチにいたんだぜ。あいつこそがやってくれる存在だ。このチームでは自分が無理しなくても十分戦っていける戦力がそろっている」と声を弾ませた。「もちろん今日の勝利はたったの1勝であり、先は長いけれど、とてもエキサイティングだし、楽しい」とポール。
実はロサンゼルス・クリッパーズ時代のチームメート、ポール・ピアースから「偉大な選手をしっかり見ろ」と言われたという。今のポールにとって、その“偉大な選手”とはハーデンだ。「今、僕はジェームズという才能ある選手を見ることができる。ジェームズは特別だ。今でも時々彼のプレーに驚いてしまう。早く慣れないと」と話し、「彼をもっと助けることができれば良かったと思う。ずっとこういうことを言っている気がする」と続けた。今季13年目で頼りがいのあるポールのこういう姿は新鮮だ。
この夏誕生したデュオは、サマーリーグのドリューリーグに一緒に出場し、数都市でピックアップゲームにも参加、練習もともにしてケミストリーを築いてきた。
だからこそ、ポールが本調子じゃなかった中でも、チーム力で昨季の王者から勝利を得たことは大きかった。
目標は、クリッパーズで達成できなかった6年間と同じだ。だが、新天地に移ったポールはここ数年見たことがないような、希望に満ちた表情をしていた。
それは、敗戦が一転して勝利に変わった奇妙なシーズンの幕開けがあったからかもしれない。
文=山脇明子