2018.03.13

【NBA COLUMNS from LA】アレックス・レンをNBAへ導いた運命の一言とは?

フェニックス・サンズで5シーズン目を過ごす24歳のレン[写真]=Getty Images
ロサンゼルス在住。1995年に渡米、現在は通信社の通信員として、MLB、NBAを中心に取材を行っている。

 子どもの頃から運動神経抜群。サッカーもやったしボクシングにも挑戦した。スイミングは得意だった。身長216センチのウクライナ人アレックス・レン(フェニックス・サンズ)にとって、ただ一つ「君に将来はない」と言われたスポーツがある。それは体操だった。

 「9歳か10歳の時から始めて3年ほどやったかな。結構うまかったんだ。僕は一番体の大きなクラスの一番年下の生徒だった」とレン。そこへ一人の男がやって来て、レンに声を掛けた。「君に将来はない」。運命の一言だった。

 その男はバスケットボールのコーチだった。ふと体操クラスの前をとおりかかった時に一際背の高いレンを見て声を掛けたのだ。以降、レンはマットの代わりにコートの上に立ち、バランスを取る代わりにドリブルをした。そして、すぐにバスケットの魅力に取りつかれた。

 レンはみるみるうちに成長し、わずか3年でU16、翌年にはU18に選出され、国を代表するプレーヤーとなった。NBAにも興味が湧き、YouTubeでハイライトシーンを見まくっていたが、その時は遠い夢にしか過ぎなかったという。ところが、代表でプレーしていたレンを見て、メリーランド大学から勧誘があった。「それまではNBAなんて無理だと思っていた。でもすぐにチャンスだと思った」。レンは迷うことなく同大への進学を決めた。

 1年目は言葉の壁や文化の違いで苦しむこともあったが「NBAに近づくためだったら、どんな壁も苦ではなかった」と努力を続けた。そして、2013年のドラフトで1巡目全体の5位指名を受けてサンズ入り。即選んだ背番号は、憧れのティム・ダンカン氏(元サンアントニオ・スパーズ)とケビン・ガーネット氏(元ミネソタ・ティンバーウルブズほか)がつけていた「21」。

背番号の「21」は、憧れのティム・ダンカンとケビン・ガーネットからだ[写真]=Getty Images

 2年目のオフには、ダンカン氏と一緒に練習する機会にも恵まれた。「ダンカンは質問をすれば何でも応えてくれ、プレーのコツも惜しまずに教えてくれた」とうれしそうに話すレン。「あの経験は、僕にとって大きなモチベーションとなっている」と屈託のない笑みを見せた。実は2年前の夏には強風の中、高波に呑まれて溺れた友人の命を救ったこともある。当時、“90分間一度も休まずに泳ぎ続ける”というトレーニングをしていたレンは、足が鍛えられていたことが助けとなり、何度も波に呑まれそうになりながら、友人と後から駆けつけたライフガードをロープで岸へ引っ張りあげることに成功した。

 怖くなかったかと聞くと、「そんなことを考える暇はなかった」と振り返った。運命の一言は、レンをNBA選手にしただけでなく、そのために鍛えた足で人の命を救うことに発展した。

 レンはNBAでまだ力を発揮しきれていない。しかし、ウクライナの小さなジムで交わされたその一言に、レンの今後を期待せずにいられない。

文=山脇明子