2019.01.09

サバイバルを続ける渡邊雄太の現在地「チームの信頼を勝ち取ることが一番」

渡邊雄太自身、「信頼を勝ち取ることが最も大事」と自身の立場を語っている [写真]=Getty Images
ロサンゼルス在住。1995年に渡米、現在は通信社の通信員として、MLB、NBAを中心に取材を行っている。

雄太が体験する2way契約選手の現実

 昨年12月17日のウォリアーズ戦。敵地オラクルアリーナのコートに渡邊雄太が現れたのは、午後6時を過ぎてからだった。

 試合開始は午後7時半。「今日はインアクティブなんです」と言った渡邊は、手本として見ていた選手の一人であるウォリアーズのケビン・デュラントクレイ・トンプソンのオフ・ザ・ボールの動きをぜひ見たいと話していた。

 ところが、試合開始前のウォームアップの時間になると、渡邊はグリズリーズのユニフォームを着てコートに立っていた。試合開始直前になって、マイク・コンリーが左太もも裏の痛みで欠場することになり、急遽アクティブリスト入りを伝えられたのだ。

 うれしくないわけがない。しかし、インアクティブで試合前の練習も必要ないと告げられていた渡邊の体は完全にオフの状態で、「衝撃というか、びっくりした」というのが本音だった。

 だが、それが2way契約選手の実態だ。

グリズリーズでは現在4試合に出場。少ない出場時間ながら結果を出し始めている [写真]=Getty Images


 NBAチームがケガ人などで戦力不足となった時に、同じシステムでプレーしている提携チームから上がってすぐに対応できる選手として存在する。ただ多くの場合、いつ、どんな場面で出番が回ってくるかもわからないし、準備をしていても出番なく終わることもある。集中力や気持ちの持って行き方は難しいし、短時間の出場で終わることが多いため、その中でアピールすることは、決して簡単なことではない。

 しかし、その中で自分の必要性を感じてもらわなければ、契約は続かない。また故障により、2way契約選手とは違うポジションの戦力が必要になれば、それまでの自分の努力やチームからの信頼とは関係なく、そのポジションの選手の枠を空けるためにチームを出なければならないこともある。

NBAを生き抜くには信頼を勝ち取ることが大事

Gリーグのハッスルでは16試合すべてに先発出場、平均出場時間は34分と中心選手として活躍する


 渡邊のジョージワシントン大時代の先輩で、現在ジャズと2way契約を交わすタイラー・キャバノーのような例もある。

 キャバノーは2年前のドラフトでドラフト外に終わった後、ホークスでサマーリーグをプレー。トレーニングキャンプにも呼ばれたが、カットされた。だがフロントコートの選手の故障が続いたホークスと11月5日に2way契約を結ぶと、同日にさっそくNBAデビュー。19試合に出場して1試合平均13.8分出場、5.5得点、3.2リバウンド。スリーポイント成功率は40.9%とルーキーで4位にランクされた12月18日にホークスとの契約がNBA契約に切り替えられ、複数年契約に漕ぎつけた。しかしシーズンを終えた5月、今季の契約45万ドルが保証される前に解雇されてしまう。そして8月にジャズと2way契約を結び、今に至っている。

 ホークスでの成績は、39試合に出場して1試合平均13.3分出場し、4.7得点、3. 3リバウンド。決して悪くない数字だった。

 キャバノーは「本当にクレイジーだった」と、昨季を振り返る。しかし、解雇、2way契約、NBA契約、解雇、そして2way契約を経験した1年で、NBAで生き残るために必要なことを学んだ。

「このリーグでスターやオールスターになれる選手なんてわずかだ」とキャバノー。「それよりもまず、チームでの自分の役割をしっかり見極め、自らの技術向上に努め、いいチームメイトとなり、チームの勝利に貢献するためにできる限りのことをやる。そうすればこのリーグで長く留まることができる」と話した。

雄太とは大学時代のチームメイト、タイラー・キャバノー(写真左)はユタ・ジャズと2way契約を結んでいる [写真]=Getty Images

 昨季のホークスは、選手の故障に加えチームが再建中で、若手を思う存分に使ったこともキャバノーのチャンスに繋がった。一方、プレーオフ復帰を目指してベテランを補強し、強敵が揃う西で悪戦苦闘中、今は若手を試す余裕のない渡邊のグリズリーズでは、なかなか出番が回ってこず、コートに出る機会は勝敗が決まったあとというパターンだ。

 ただ、それでも渡邊の試合へのアプローチが変わることはない。

「自分ができることを最大限やろう」

 そう臨んだ同ウォリアーズ戦では、15点ビハインドの第4Q残り3分58秒にコートに立ち、残り1分49秒にNBA自己初のフィールドゴールとなるプルアップショットを決めた。冷静に、柔らかなシュートタッチで決めたシュートは、突然ベンチ入りが決まったルーキーだとは思えないほどだった。しかも10日前に脳震盪を負って以来プレーしていなかった中での出場で、渡邊の対応力の高さが浮き彫りになった。

 渡邊は、今月7日のペリカンズ戦でも勝敗が決まった後にコートに立ち、プルアップショットを決めている。

 得点を決めることが重要なことは、もちろん本人もわかっている。だが、それ以上に目指すことは、「雄太を出しておけば、ここだけは絶対にやってくれるとか、そういう風に思ってもらえる」(渡邊)信頼を得ることだ。それは、キャバノーが言ったことと一致する。

 グリズリーズの現状では、すぐにそれができるとは言えない。ただ、チーム練習も含め、グリズリーズに加わる時は、本人が言うように能力を最大限に発揮することだ。

 目立つ必要はない。ここはNBAだ。誰かが、必ず見ている。

文=山脇明子