NBAのアダム・シルバーコミッショナーから名前を読み上げられた瞬間、八村塁（ゴンザガ大学）は人差し指で天を指し、日本からやってきた家族と喜びを分かち合った。壇上でシルバーコミッショナーにドラフト用のワシントン・ウィザーズ用のキャップをかぶらせてもらい握手を交わし、ESPNをはじめとするアメリカのテレビ局によるインタビューを終えた後、八村は記者会見場に到着。メディア対応を行ったのだが、明らかに表情が柔らかくなった印象を受けた。
前日会見で大挙押し寄せた日本のメディアに「ようこそ」と笑いを取った八村だが、その表情からはどこか堅さを感じされた。明成高校時代、3連覇を果たしたウインターカップの優勝インタビューで「バスケは楽しいです」とコメントした時に見せた屈託のない笑顔をなかなか見ることができなかった。
昨年の夏には日本代表として初めてコートに立ち、ワールドカップ本戦出場のきっかけとなったオーストラリア戦勝利の時も、メディアの前では笑顔が見られない。ユーモアに富んだコメントはそのままだが、どこか拒絶したような表情を見せていたことを思い出す。
しかし、ウィザーズに9位指名を受けた時から、呪縛から解かれたようにあの人懐っこい笑顔が戻っていた。その記者会見の模様をお伝えしたい。
笑顔で答えた「日本の皆さん、やりました！」
指名後に行われた記者会見でも笑顔が絶えなかった [写真]＝バスケットボールキング
指名を受けた瞬間を問われると、「本当に夢のようでした。家族が周りにいたのですけど、何か不思議な感覚に包まれました」と、八村は振り返る。「9位指名は想定内」と答えたが、現実に名前を呼ばれた時は、これまでにない感覚に襲われても当然だ。
「何とも言えない気持ちです。初めてバスケを始めた時、奥田中学（富山市）の坂本穣治コーチに『お前はＮＢＡに行くんだって言われて』。その言葉を信じてここまでやってきて、夢がかないました」
どのような点を評価してもらえたかに対しては、「見ている人は見ているので、僕が小さい時からバスケをしてきて、伸びしろを見て、今からでもまだ成長できる部分があるので、練習もハードにしますし、そういうところを見て、選んでくれたのではないかと思います」と明確に答えた。
さらに「自分の持ち味はオフェンスだけでなく、ディフェンスもできること。リバウンドをキャッチしてそのままボールをプッシュして、パスもできるし、シュートも狙えます」と、自身を評価。そしてルーキーイヤーでは、「チームにどれだけ貢献できるかを目標にしたいと思います。具体的な数字は考えていませんが、とにかくチームに貢献したいと思います」と、抱負を語った。
日の丸のピンバッチをつけて晴れの舞台に臨んだ八村。「日本人とベナン人のハーフとして、日本でずっと育ってきて、それが一番のアイデンティティです。それをしっかりスーツに込められればと思いました。選んだ後にスーツの色が明成だったなと思いました」と明かす。中国メディアから今夏、中国で開催されるワールドカップ出場について問われると、「もちろんです！ 本選出場のために予選にも出ましたし、チームに貢献できました」と明言。日本代表の誇りを持ち、NBAプレーヤーとして世界の舞台に初めて立つ。
指名直後の地元テレビ局のインタビューで、「日本の皆さん、やりました！」と笑顔で答えた八村。日本を離れて戦ったプレッシャーからも解き放たれた瞬間だったのだろうあの笑顔がよみがえっていた。
その笑顔を今度はNBAのコート上で見せてほしい。八村塁を目標にNBAを目指す子供たちへのエールとなるように。
文＝入江美紀雄