近年、NCAA(全米大学体育協会)には「金の亡者」というレッテルが貼られてきた。アメリカのカレッジスポーツは一大ビジネス化しており、その収益は米4大スポーツリーグのMLBに匹敵するほどとまで言われている。
しかし、学生アスリートという都合のよい言葉を建前に、大学から選手には一切の金銭が支払われていない(なお、大学単位で黒字化に成功している学校は全体の1割程度)。それでいながら、選手たちはメディア対応を強制されるなど、サラリーなしでプロと同様の振る舞いを求められており、これにはベン・シモンズ(フィラデルフィア・セブンティシクサーズ)をはじめ、多くの選手が不満を抱いてきた。
今年4月、NCAAは長く問題視されてきたこの構造を改善するべく、選手にスポンサー契約を容認し、学校外部における活動(仕事)を容認する方向だと発表。これが実現すれば、選手たちはナイキやアディダスをはじめとするメーカー各社や、その他大手企業とスポンサー契約を締結し、収入を得ることができるようになる。
しかし、ドレイモンド・グリーン(ゴールデンステイト・ウォリアーズ)は、このNCAAの対応が十分に行き届いていないことを非難している。
GSWの#23は、「ESPN」の名物スポーツジャーナリスト、ザック・ロウに対して「システム全体が崩壊しているにもかかわらず、彼ら(NCAA)はそのわずか一部を改善しようとしている」とコメント。実は、グリーンは現在、コネチカットの民主党議員クリス・マーフィーとともに、大学アスリートに公平な給与が支払われるよう働きかけを行っている。
グリーンは、このあとも熱弁を続けた。
「誰しもが、この問題を口にしている。でも、誰も改善の一部になろうとしていない」
「僕がマーフィー議員に申し出たのは、リップサービスでも何でもないんだ。OKをもらうだけでは不十分。現状を変えるために何ができるかが大切なんだ」
グリーンの意見に重ねて、同席していたマーフィー議員も持論を展開した。
「私たちは、カレッジフットボール(アメフト)やカレッジバスケットボールが、NFLやNBAのために存在する、無賃のマイナーリーグであるという認識を持たなければなりません。選手たちは、一切の支払いを受けていないのです。これには嫌悪感を感じています」
彼らの意見は、もっともかもしれない。なぜなら、カレッジフットボールおよびバスケットボールが、巨額の富を生んでいることに疑いの余地はないからだ。例えば、著名なコーチは、年間数億円クラスの契約にサインしている。また、カレッジフットボールの主要リーグ(ACC、SEC、ビッグ10、ビッグ12、パックトゥエルブ)は、参加大学の間で年間71億円もの利益を分割。しかも驚くことに、この金額にはボウル・ゲーム(全米チャンピオン決定トーナメント)などの収益は換算されていないのだ。
グリーンは、学生を1人のアスリートとして扱うべきだと主張する。
「NCAAは、“学生アスリート”というワードを使うが、真実はかけ離れている。彼らは、たまたま学生なだけであって、1人のアスリートなんだ」
「彼らに(大学外で)仕事をする時間はなく、自立することもできなければ、実家にお金を送ることもできない。その一方で、NCAAは1兆5000億円のビジネスでいながら、労働者は支払いを受けていないんだ」
正論に聞こえる反面、問題も…
ただし、NCAAも収益の全額を懐に入れているわけではない。充実した設備の用意や大会の運営はもちろんのこと、現在、大学生アスリートには、給与の代わりとして奨学金が支払われている。もし、これをプロと同様の給料制にするのであれば、複雑化は避けられない。全大学で選手への支払額は一定にするのか、それとも特定の選手はより大きな契約を結ぶことができるのか。このシステムが、その先のリクルーティングに影響を与えることはないのか。リソースの少ない学校が、潤沢な資金を有する学校に追いつくことはできるのか。選手と従業員の線引きはできるのか。グリーンたちの意見は正論に聞こえる反面、多くの問題を残す。
現段階では、選手たちが自身の肖像権を利用して収入を得るという対策が、最も現実的かもしれない。しかし、グリーンとマーフィー議員は、NCAAにより良い環境づくりを今後も要求していくだろう。
文=Meiji