2023.05.02

【八村塁マンスリーレポート〜自分らしく】大きい試合でこそ強みが出てくるメンタリティ

"プレーオフ塁"と呼ばれるほどに大きな舞台に強い八村[写真]=Getty Images
ロサンゼルス在住。1995年に渡米、現在は通信社の通信員として、MLB、NBAを中心に取材を行っている。

八村塁が移籍したロサンゼルス・レイカーズは第7シードでプレーオフへ進出、メンフィス・グリズリーズとの1回戦を勝ち越しセミファイナルへと駒を進めた。ゴールデンステイト・ウォリアーズとのセミファイナルを控えた今、八村は何を考え、そしてコートに向かうのか。LA在住ライター、山脇明子氏がレポートする。

文=山脇明子

 

“キング”レブロンが認める「塁は重要な存在」

 レイカーズの八村塁が躍動している。

 第7シードで出場を決めたプレーオフの1回戦、相手は第2シードのメンフィス・グリズリーズで、敵地から始まった。その大事な初戦でチームを活気づけたのが、八村だった。序盤から快活に走り、精力的に動いた。前半だけでダンクを含む8得点し、第3クォーターには4点ビハインドで迎えた残り4分44秒に左コーナーから3ポイントシュートを決めると、約3分の間にさらに3本の3ポイントシュートを追加してチームにリードをもたらした。

 このクォーターだけで12得点するなどで、自己プレーオフ最多、チーム最多の29得点、3ポイントシュートは自己最多の5本を成功(5/6)させて、レイカーズを勝利に導いた。

 プレーオフでベンチから出場して挙げた得点としては、1988年のマイカル・トンプソンに並びレイカーズ史上最多。この試合では、前半終了を前にアンソニー・デイビスが右腕を痛めたため、ハーフタイムの間、チームではデイビスが戻れなかった場合を想定して「次の選手が代わりを果たす精神で臨もうと話していた」と八村。

 幸いデイビスはすぐに回復し、後半もプレーしたが、相手にリードを許して始まった第3クォーターでの八村の活躍は、チームにポジティブなエナジーをもたらし、オースティン・リーブズも「塁の存在が大きかった。彼のスキルセットはクレイジーだよ。僕らがもともとも持っているすべての才能に塁が加わると別の側面をもたらすことができる」と笑顔を見せた。

プレーオフ1回戦グリズリーズ戦に出場する八村[写真]=Getty Images

 同じようなことは、レイカーズが大敗した第5戦でもあった。24点ビハインドで迎えた第4クォーター残り9分17秒にダービン・ハムヘッドコーチは、ディアンジェロ・ラッセルアンソニー・デイビスを投入し、スターター4人と八村というラインナップで臨んだ。試合後、あの場面で、なぜ主要メンバーをコートに出したのかと聞かれ、ハムHCは「3ポイントシュートを決めることで、いい勝負に持ち込めるかもしれないからだ」と答えた。

 その先陣を切って、タイムアウト後に3ポイントシュートを決めたのが、八村だった。この試合では、第1クォーターに3本のフィールドゴールすべてを決め6得点していたものの2ファウルを取られたことで、第2クォーターから第3クォーター中盤までベンチを温めていたため、その後オフェンスのリズムを崩したが、八村の3ポイントシュートを突破口にレイカーズは残り4分には、12点差まで追い上げていた。

3ポイントシュートを沈めチームの突破口となる八村[写真]=Getty Images

 プレーイン・ゲームでティンバーウルブズに勝ち、プレーオフ進出を決めた際、八村に「今の自信のレベル」を訊ねると、「こういう大きい試合というのは、僕が一番活躍できる時だと思っているので、プレーオフでももっと活躍できると思う」と話していた。29得点したプレーオフ、グリズリーズ戦の第1戦後も「大きい試合でこそ僕の強みが出てくる。そういうところを意識して、昨日の夜寝る前にそういうふうに考えましたし、今日朝起きてからも、今日はやるぞという感じで出来たのが良かった」と堂々と語った。

 第2戦では、チームは敗れたものの八村は20得点、5リバウンド、2アシスト、1スティールの活躍で、レイカーズ史においてプレーオフでベンチからの出場で2試合連続20点以上を挙げた1996年のマジック・ジョンソン以来の選手となった。2021年のウィザーズ時代に遡ると、これでプレーオフ出場の全試合で2桁得点で、4試合連続20点以上。しかも、そのうちの3試合は、プレーオフでは難しい敵地での試合。

「なぜ、そんなに敵地で活躍できるのか?」と聞くと、今度は「僕は、敵地で戦うのは結構好き。相手のチームとかファンが、『あーっ』となる反応とかが好きで、そういうのが僕のモチベーションというか、リズムを掴む源となっています」。 “プレーオフ塁”が、大舞台や負けられない状況の中で力を発揮できるのは、そういうメンタリティが大きく影響しているようだ。

アウェーの地で笑みを見せる八村[写真]=Getty Images

 八村は、第3戦でも16得点、5リバウンド、1スティールで、またもチームの勝利に貢献。第4戦からの3試合は一桁得点で、プレーオフデビューから続いていた自己連続2桁得点は8試合で止まったが、シリーズの出だしにグリズリーズに与えたインパクトは強く、「相手もしっかりと僕のことを抑えるようになってきた。オフェンスで脅威な存在になることによって他のチームメイトがオープンになれる。チームにも、僕がコート上にいることが大事だと言われました」と八村。

 センターのジャレン・ジャクソンJr.、デスモンド・ベイン、ポイントガードのジャ・モラントら相手に好ディフェンスも見せ、「ディフェンスのところでも活躍できている。そういうところで、よりプレータイムを貰えていると思うので、そこはしっかりと意識してやっていきたい」と自信たっぷりに話した。

 飛躍のきっかけとなったのは、4月2日のロケッツ戦。第1クォーターからアグレッシブに攻め、20得点、12リバウンド、1アシスト、3ブロックショット。レイカーズ移籍後初のダブルダブルを記録し、リバウンドとブロックショットで自己最多に並んだ。

 この試合で、これまで積み重ねてきた努力が開花、同試合以降、レギュラーシーズン終了までの5試合とプレーオフ進出のかかったプレーインのティンバーウルブズ戦、そしてプレーオフ第1ラウンドの最初の3試合までの9試合中8試合で二桁得点を記録、しっかりボックスアウトをするなどで、リバウンドも安定して取るようになった。

 3月終盤までは、なかなか本領を発揮できずにいた。その八村が、ここまで自信を持ってプレーし、レイカーズの頼れる戦力となったのは、「ずっと一緒に取り組んでくれて、いつも僕にプレーがどうなるか、どのようにショットを打つか、どのように僕がこのチームで大事な選手になるかを話してくれました。だからメンタル的にこの舞台でプレーするための準備が出来ていました」というフィル・ハンディアシスタントコーチ、そして「一緒に練習しているだけでも学べるし、僕に自信をもたらしてくれる」と話すチームの2人のリーダー、レブロン・ジェームズアンソニー・デイビスの存在だ。「レブロンには、チームでどういうことをやったら僕が活躍できるかとか、ためになるかということをよく聞いています」と八村。

 その八村についてジェームズは、「塁には、ポジティブなモチベーション、ポジティブなメッセージを伝え、彼がどれほどこのチームにとって大切かをわからせている。このチームが目指すところにたどり着くには、塁は重要な存在」と話す。レイカーズ関係者からの情報によると、ジェームズは、八村のことを“My Guy(八村を気に入っていることを意味する)”と呼び、大事な後輩として惜しみなくアドバイスを与えているようだ。

良い関係を築くレブロン(左)と八村(右)[写真]=Getty Images

 また八村が、「どんな風にディフェンスをやっているか、ずっと見てきました。彼のブロックショットのタイミングとかも見てきて、凄く学ぶことができた」と言うデイビスは、「塁は難しいことにも真っ向から挑戦している。多くの選手はミスマッチを活用したり、ガードできる選手につこうとしたりするが、彼はフィジカルに守ろうとし、相手の傾向や陣容をしっかり学んで1番から5番まで守れるよう努めている。そして、このチームがレブロンと彼をパワーフォワード、センターとしてスモールラインナップで臨む時、塁はジャレン・ジャクソンJr.を守り、ジャ・モラントにスイッチしたりするが、相手の傾向をわかって守っている。ブロックショットもするし、好守両面において、このチームのためにすべてをやってくれている」と八村に絶大なる信頼を置いている。

ブロックショットを狙う八村[写真]=Getty Images

 レイカーズは、第7シードが第2シードを破った史上6番目のチームとなり、日本時間3日から始まるカンファレンス準決勝は、ウォリアーズとの戦いになる。第1ラウンドでともにチームを力強く引っ張ってきたジェームズとステフィン・カリーというGOAT(The Greatest Of All Time:歴史上最高の選手)対決と注目のシリーズだ。そして、その重要な鍵の1つは、この2人を支えるそれぞれのチームの選手達が、いかに役割を全うできるか。

 昨季の覇者とのシリーズは、決して簡単には進まないだろう。だが、1つだけわかることがある。

「こういう大きい試合というのは、僕が一番活躍できる時」

 八村は、この精神を持ち続けて戦うということだ。

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