2023.05.17

カーHCが感じるウォリアーズに生じた中心選手と若手の壁「信頼が失われた」

2014年からウォリアーズを率いるスティーブ・カーヘッドコーチ [写真]=Getty Images
某ストリートメディアのシニア・エディターを経験後、独立。ひとつのカルチャーとしてバスケットボールを捉え、スポーツ以外の側面からもNBAを追いかける。

 ゴールデンステイト・ウォリアーズが築き上げた王朝にヒビが入ったのは、誰しもが認めるところだろう。それは、チームを指揮するスティーブ・カーヘッドコーチが最も如実に感じているのかもしれない。

 今シーズン、カーHCは2014年の指揮官就任以来、プレーオフに進出した年で初めてNBAファイナル進出を逃した。ましてやウェスタン・カンファレンス・ファイナルにも駒を進めることはなく、カンファレンス・セミファイナルでロサンゼルス・レイカーズに苦渋を舐めさせられたシーズンは、本人にとっても不本意と言わざるをえない。

 カーHCはシーズン終了後のインタビューに出席。メディアの前で今シーズンの“失敗”の原因を以下のように分析した。

「一定の信頼が失われると、プロセスは困難を極めます。我々はその一定の信頼を失いました。私はできる限り素直に言葉を選んでいます。我々は本当に信頼できる環境があり、互いに依存しながら高め合うというかつて成功したグループに戻らなければいけません」

 信頼に亀裂を入れた最大の要因は、ドレイモンド・グリーンがジョーダン・プールの顔を殴った一件である。流出すべきではないショッキングな映像は、メディアにも拡散された。チームリーダーであるグリーンはのちに過ちを謝罪。1週間の謹慎期間が設けられたが、カーHCは背番号23の復帰以降もチームムードが回復に至らなかったことを認めた。

「隠すことはできません。シーズン開幕からまもなく起きたドレイモンドとジョーダンの事件が影響したのは明らかです。あの一件がチームに影響を与えないほうが難しいでしょう」

 ウォリアーズはプール、ジョナサン・クミンガ、モーゼズ・ムーディーという次世代のコアを育成しながら、ステフィン・カリークレイ・トンプソン、グリーンのビッグ3を維持している。しかし、両世代の中心選手同士の衝突により、カーHCは橋渡しの計画を再考せざるをえない状況になった。

ウォリアーズ一筋のカリー。今シーズンは苦難の1年になっただろう [写真]=Getty Images

「組織は関係を築く必要がありますが、他の人間関係と同様、それは一朝一夕にできるものではありません。時間が掛かるものなのです。我々はこうした関係性を成長させ続けなければいけません。しかし、我々は経験を共有するのみならず、それぞれが感じたのを伝えることで意図的に関係を作る必要があります」

 文化の再構築は、一筋縄でいかないだろう。そして、ウォリアーズは今夏に向けて、さらに2つの大きな課題を抱えている。

 そのうちの一つは、ボブ・マイヤーズジェネラルマネージャーの進退だ。リーグ屈指の敏腕GMは、2023年6月末をもってウォリアーズとの契約が満了。グリーンの獲得、カーHCの抜擢、トンプソンの残留など、2度の役員賞を受賞した彼の決断は、ウォリアーズの将来設計にも大きな影響を及ぼすことになるだろう。カーHCもマイヤーズGMの復帰については「切望している」とし、球団は今夏の最優先事項と認識している。

 もう一つが、渦中のグリーンとの契約だ。彼は2023-24シーズンに2760万ドル(約37億7400万円)のプレーヤーオプションを保有しているが、『Andscape』によるとオプション行使の決断は今後、代理人と時間を掛けて向き合うつもりだという。さらに、グリーンの動向には、マイヤーズGMの決断も大きく作用する可能性がありそうだ。『ESPN』は「グリーンは自身を獲得してくれたGMの進退を非常に懸念している」と報じており、意思決定はマイヤーズGMとウォリアーズの未来が確定後になるとの見解が強まっている。

 それでも、カーHCのグリーンに対する絶大な信頼は変わらない。ともに4度のNBA制覇を経験したチームの歯車は、ウォリアーズが再び頂点に登り詰めるうえで不可欠なピースと考えているようだ。

「ドレイモンドが戻ってこないのであれば、我々はチャンピオン候補ではないだろう。それは理解しています。彼は勝利するうえで、そして我々にとってそれほどまでに重要な存在です。私は絶対に彼に戻ってきてほしいと思っています」

「10月に起きた出来事によって、立場をわきまえざるをえなくなったことも理解しています。だから、彼が来年、チームに合流するためには、長い間培ってきた信頼と尊敬を取り戻す必要があるのです」

 順風満帆な10年を過ごしてきたウォリアーズの前に立ちはだかる大きな壁。“ダブネーション”は短い夏で山積みの課題を解決し、再び心を一つにできるのだろうか。

文=Meiji

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