2020.06.16

中村太地がアジア枠でKBLの原州DBプロミに入団「韓国で学びたい夢が実現。挑戦あるのみ」

日本人選手として初めて韓国リーグへ挑戦する中村太地[写真]=will Co.,Ltd
スポーツライター。『月刊バスケットボール』『HOOP』編集部を経て、2002年よりフリーランスの記者に。国内だけでなく、取材フィールドは海外もカバー。日本代表・Bリーグ・Wリーグ・大学生・高校生・中学生などジャンルを問わずバスケットボールの現場を駆け回る。

韓国行きを決意した「師匠」の存在

中村が師匠と仰ぐイ・サンボム監督[写真]=小永吉陽子

 高校時代から温めてきた思いが実現した。昨季まで京都ハンナリーズに所属していた中村太地(22歳、190センチ)が「Korean Basketball League(以下KBL)」の原州(ウォンジュ)DBプロミ(以下DB)に初の日本人選手として入団することが決定した。韓国に2020-2021シーズンから導入されたアジア枠(初年度は日本人選手のみ適用)での移籍となる。

 DBは優勝3回、準優勝6回を誇る名門で、かつて『韓国の大統領』と呼ばれてアジアを代表する選手だったホ・ジェや、長年にわたり韓国代表のセンターを務めたキム・ジュソンが所属していたチームである。2017年に親会社の企業グループ名『DB』に改名したが、それ以前は『東部(トンブ)』のチーム名で来日していたことから、馴染みのあるファンも多いだろう。DBの発表によると、契約期間は1年で年俸は5000万ウォン(約500万円)。KBLでは契約内容がすべて公表されるのでここでも発表したが、KBLのアジア枠の契約は1年ごとに更新されるルールで、選手登録は「타이치」(たいち)として申請中だ。

 中村のKBL入りは、自身が『師匠』と仰ぐDBのイ・サンボム監督(51歳)との出会いから始まり、みずから「監督の下でプレーしたい」と伝えたことから事は動いた。

 イ・サンボム監督は2011-12シーズンに安養KGCを初優勝に導いた指揮官。2012年にはロンドン五輪世界最終予選(OQT)で韓国代表のヘッドコーチとして采配し、2013年からの2年間は韓国代表のアシスタントコーチを務め、2014年には韓国・仁川市で開催されたアジア競技大会の優勝に尽力している。アジア競技大会後からの3年間はKBLから退き、勉強を兼ねて指導の場を日本に移していた。そこでアドバイザーとして技術指導に携わったのが、当時NBLの東芝(現川崎ブレイブサンダース)や福岡大学附属大濠高校だった。

 とくに大濠ではシーズンを通して指導しており、そのときの最上級生が、今春大学を卒業した中村太地牧隼利琉球ゴールデンキングス)、増田啓介川崎ブレイブサンダース)らであり、彼らは1年間指導を受けている。韓国では人名をフルネームや役職を用いて呼ぶ文化が根付いているが、中村はイ・サンボム監督のことを、親しみを込めて「イーさん」と呼んでいる。その隣の国からやって来たイーさんが教えるピック&ロールに高校生の中村太地は感銘を受けた。

「イーさんはスクリーン一つで起こるパターンとボールムーブをみっちり教えてくれました。その頃の日本はピック&ロールは主流ではなく、韓国ではこんなに緻密なことをやっているのかと驚きました。大濠は自由にフリーランスの中で1対1をするのがメインだったんですけど、イーさんに教わってからはシステマチックにボールを回してチャンスを作ることもやりました。ただ、その頃は頭で考えすぎてしまって、小手先でやろうとしてうまくいかなかった。でも、今は伸びている選手が多いので、必要な技術を教えてもらったのだと感謝しています」

直談判の熱意がKBLへの扉を開ける

中村はかねてから海外挑戦に興味を抱いていたという[写真]=小永吉陽子

 中村は法政大学1年のときからBリーグの特別指定制度を活用しており、「誰もやったことがないことをやるのが好き」というチャレンジスピリッツを見せていた選手。また、海外リーグに興味があると発言をしており、とくに師匠である「イーさんの下で学びたい」という思いを高校時代から抱いていた。昨年5月にBリーグとKBLとの間で交流とアジア枠の導入を目的とした提携が結ばれ、11月にはBリーグにアジア枠の導入が決定。しかし、韓国には受け入れ体制がなく、中村の夢は願望のままだった。

 事態が大きく動いたのは今年5月。「韓国にアジア枠が導入される」という情報が日本に飛び込み、中村は京都との契約が満了になることを機に、日本を飛び出すことを決意する。だが、その時はKBLの理事会で承認される前。そこで中村は「KBLにアジア枠ができることを信じ、自分からも、エージェントを通じても、ダメ元でイーさんに『DBでプレーしたい』と直談判してみました」と行動に移す。熱意が実を結び、イ・サンボム監督も「太地を教えたい」という意志のもと、5月27日のKBL理事会での承認を経て、獲得に向けて動くことになる。

 ただ、契約に関してDB側が気にかけていたのが中村の年俸だった。アジア枠選手の年俸は国内選手のサラリーキャップ(25億ウォン=約2億5000万円)に含まれるため、選手層が厚いDBのキャップ内に収めるには、中村が京都で得ていたサラリーよりも大幅に下回ることになる。だが中村は「若いから経験することが大事。どんな条件でもチャレンジしたい」と返答。熱意がKBLアジア枠第一号の扉をこじ開けたのだ。

「太地を育てたい」とイ・サンボム監督

入団が決定した原州DBプロミの本拠地[写真]=小永吉陽子

 イ・サンボム監督はDBに就任して3シーズン目で、2年目以外は上位争いをしている。就任初年度はレギュラーシーズン1位でプレーオフ準優勝。昨季の成績は28勝15敗でソウルSKナイツと同率1位。新型コロナウイルスの影響でレギュラーシーズンが早期終了になったが、優勝候補の筆頭だった。

 フランチャイズスターはベテランフォワードのユン・ホヨン(元韓国代表)と、『韓国の大統領』の異名を持つホ・ジェの長男でシューティングガードのホ・ウン(韓国代表歴あり)。昨季はKBL最高年俸(約1億2790万円)に跳ね上がった韓国代表のキム・ジョンギュもチームの顔だ。

 そして中村のライバルとなるポイントガードの層はとても厚い。昨季の途中に兵役から復帰したメイン司令塔のドゥ・ギョンミン(韓国代表歴あり)をはじめ、試合のクロージングを務めたベテランのキム・テスル(元韓国代表)、そして著しい成長を見せるキム・ヒョノもいる。得点力あるガードのキム・ミングが移籍したために、中村としては1、2番兼任できるガードとして挑みたいところだ。

「太地とはいい出会いがあって、今回このような入団になりました。私は彼の長所と短所を誰よりもわかっているし、何よりも彼の可能性をいちばん知っている。その可能性を信じて彼を一人前のガードに育ててみたい。太地は『コーチとして育てたい』という気持ちを湧き上がらせてくれる選手です」と師匠は愛弟子の合流を心待ちにしている。

 KBLは10月9日に開幕予定で、6月1日からはチーム練習が開始している。まずは安全に移動してチームに合流することが先決で、現在は渡航に必要なビザを申請している段階。通訳がつくとの条件だが、指示を出すガードゆえに韓国語を覚え、新しい環境に慣れなければならず、乗り越えるべき試練は多いだろう。それでも今は前しか見ていない。

 DBの公式リリースで中村太地はこのようにコメントしている。

「アジア枠という制度を導入していただいたKBL、Bリーグ関係者の皆さんに感謝したいと思います。この契約が至る経緯で関わっていただいた株式会社willさんをはじめとする関係者皆さんにも感謝しています。そして、僕の夢でもあったイ・サンボム監督の下でプレーすることにとてもワクワクしています。自分の可能性を広げてくれた師匠のような存在なので、色んなことを吸収したいと思います。韓国バスケットボールファンの皆さんに早く顔と名前を覚えてもらえるように活躍して、その活躍が日本の皆さんにも伝わるぐらい頑張ります。日韓でのバスケットボールの発展に貢献できるよう、前例のない挑戦になりますが全力で頑張ります!」

文=小永吉陽子