予想よりも若いと感じた。大盛況に終わった、あのど派手な開幕戦の“仕掛け人”であり、Bリーグの競技運営部長に就任する前は、NBLで事務局長や専務理事を務めていたと聞いていただけに、取材場所には40代、あるいは50代のベテランが登場するものと予期していた。が、聞くとまだ33歳。正直に言うと驚きを隠せなかった。開幕戦では中心メンバーとなり、放送局3局と向きあい、LEDコートの導入、チケッティングも即完売と結果を残した。「一番大事にしているのは、非日常を味わえる空間を作ること」と言いきる増田匡彦氏の次なるターゲットは「興行自体の品質を良くすること」。開幕戦のような目に見えた成果を出せれば、3万人、さらには5万人の来場も見えてくる。Bリーグを日本スポーツ界の中心に押しだすことができるか、若き競技運営部長の挑戦が今始まった。
文=安田勇斗
写真=山口剛生、Bリーグ
――まず最初にBリーグ競技運営部長の役割、仕事について教えてください。
増田 大きく言えば、選手契約のルールを作ったり、契約書の管理をしたり、カーディング(試合日程表)や大会の組み合わせ表を作ったり。あとは各クラブが試合を運営していくための統一のマニュアルなど、スムーズな運営のための法整備や競技力やエンタメコンテンツ力向上のための「商品」でいうと品質管理や品質向上的な業務をとりまとめています。
――9月22日、23日のアルバルク東京対琉球ゴールデンキングスの、運営における責任者とお聞きしました。この両日は華々しい演出なども手伝って大盛況でしたが、そこからどんな収穫と課題を得られましたか?
増田 僕はもともとNBLにいたのですが、バスケットボールで今回のような規模の興行を行った経験がありませんでした。それがBリーグができて、各界からプロフェッショナルが集まってきて、試合当日も大きな問題もなく終えることができました。今後、オールスターやチャンピオンシップといったイベントがあり、4年後にはオリンピックも控えている中で、こういう経験ができたのは非常に大きな収穫だと思います。課題はいくつかあるものの、反省という点では、いろいろな演出を組み合わせていく中で、もう少し会場の熱に合わせた演出ができたのかな、というのはあります。
――なるほど。ちなみに開幕戦のカードや演出などは、どんな手順で進めていったのでしょうか?
増田 日本のアリーナ事情で言うと、会場は1、2年前に抑えないといけないので、まずそこからです。その後対戦カードを決めていき、演出などを決めていきました。
――一番大変だったのは?
増田 全部大変でしたが(笑)。あえて挙げるなら中継局が3つ入ったことです。国際大会ではありますけど、日本のスポーツ界では珍しいことだと思います。民放のフジテレビ、BSのNHK、ネットのスポナビライブが並列してそれぞれ画を撮るわけですが、例えば上段から俯瞰で撮るにもそこにカメラが3台並ぶわけです。その場所取りはどうするか、代表質問をするインタビュアーはどうするか、決め事がたくさんあってプレッシャーを感じましたね。
――皆さんそろって協議をしたり?
増田 各社それぞれやりたいことなどの主張はありましたけど、互いに話し合って調整してくださったので本当にありがたかったですね。
――開幕戦では前座試合として「車椅子メモリアルゲーム」が行われました。どのようなきっかけで実施したのでしょうか?
増田 表立って打ち出しているわけではないのですが、2つのリーグが1つになるということで、開幕戦は“オールバスケット”もひとつのテーマでした。協会もリーグも一丸になってやっていこうと。せっかくの機会なので、いろいろなバスケットを見てほしいと思い、大学生、高校生、女子といった数ある選択肢の中で車椅子バスケットにしました。実は車椅子バスケットは、できる体育館が限られているんです。倒れると床が傷ついてしまうことがあるので。ああいう大きな会場ではなかなかできないですし、2020年のパラリンピックを前にたくさんの方々に見てもらえるという意味でも、とてもいい機会だったと思います。
――LEDコートの演出は大きな話題となりました。実際、観戦された方々も満足されたと思いますが、あれはどういう流れで実施に至ったのでしょうか?
増田 2年ぐらい前にコービー・ブライアント(元ロサンゼルス・レイカーズ)が中国を訪れた際のイベントでLEDコートが使用されていました。その動画で見て、これはいいなと。さっそく中国に問い合わせたら、とてつもない額を言われて、一度はあきらめかけました(笑)。それが1年ぐらい前で、その時は予算規模も決まっていませんでした。それからパートナー企業などが決まり、地上波の中継も決まり、開幕戦にそれなりの投資をしようとなって実現に至ったんです。実はLEDではなくプロジェクションマッピングのプランもありましたが、ある程度暗くないと絵が映らないし、試合中はできないんですよね。今までにない演出をしたくて、最終的にはLEDを採用しました。
――以前はNBLでは事務局長や専務理事を務められていましたが、Bリーグと違いなどは感じますか?
増田 NBLであれば、代々木第二(国立代々木競技場第二体育館)をどう埋めるか、bjリーグで言うと、有明コロシアムをどう埋めるかが最大の目標だったんです。当時は想像できるのはそこまででした。だから、代々木第一(国立代々木競技場第一体育館)で開幕戦を行うことが決まった時は「1万人も入るのかな」と思うわけです(笑)。それがチケットを売りだしたら即完売で、バスケットってすごいなって思いつつも、でも野球やサッカーは平日でも3万人、5万人という観客を集めるんです。だから、1万人なんてたいしたことないんですよね。僕はどこかでブレーキというか、1万人入って良かったと感じていた部分もあったので、その先を目指さなきゃいけないなと。Bリーグはその規模を目指していかなければ行けないと思っています。
――3万人、5万人と上を目指していく中で、構想中のプランなどはあるのですか?
増田 競技運営という僕のポジションでできることは、興行自体の品質を良くすることです。競技性の強かったNBLとエンターテイメント性の強かったbjリーグが一緒になったことで、少なからず温度差はあります。そのバランスを取るのは非常に難しいことですが、それを調整していき、Bリーグのすべての興行を良くしていきたいなと思っています。僕が一番大事にしているのは、非日常を味わえる空間を作ることです。開幕戦の代々木第一はそれができたと思っています。原宿駅から歩いてきて、入口から装飾が施されて、入ったら吊りビジョンがあって、床はLDEコートで……非現実の世界を作りだせたかなと。それが全会場でできるか。すぐには難しいと思っています。ただ大半のクラブは設備投資できる環境にあるので、どんどん取り組んでいってほしいですね。映画館やディズニーランドなどは非現実世界だからこそ、お客様はお金を払ってその空間を楽しむ。それをリーグとして作りあげていくことが、僕の役割だと思っています。