「47都道府県すべての場所にクラブを」大河正明チェアマンが明かす未来構想

大河正明氏がBリーグチェアマンに就任して1年が経過。日本バスケ界の未来を託された男が今後の展望を語った [写真]=山口剛生

清潔感のあるスタイリングと、ゆっくりと落ち着いたしゃべり方は、それだけで不思議と好感が持てる。答えにくい質問をぶつけると「難しいなあ」と白い歯を見せ、かと思えば聞き手の目をしっかりと見て、リーグやクラブの未来像を熱く語る。川淵三郎初代チェアマンより、日本バスケットボール界の将来を託された男と言ってもいいだろう。しかし、柔らかい口調からはその重荷とプレッシャーが感じられない。会って話すのは初めてだが、開幕戦でスピーチした時と全く変わらず自然体に見える。今回、40分話して抱いた印象は「周囲に安心感を与える好人物」。だからか、人柄に誘われるように開幕戦には放送各局や報道各社が集まった。最初の「“空中戦”」は成功した。大きな花火が打ちあがった。では、その火種を消さないために次はどんな“空中戦”を繰りだすのか。日本バスケ界を先導する大河正明チェアマンが改革のロードマップを開示した。

インタビュー=安田勇斗
写真=山口剛生、Bリーグ、Getty Images

――9月22日、23日の開幕戦についてお聞きします。2日間を終えての収穫や課題はありましたか?
大河 収穫は2日間ともおかげさまで会場を満員にできたこと。それと代々木第一(国立代々木競技場第一体育館)だけでなく、テレビ、SNSなどを通じて全国の皆様にエンターテイメント性のあるバスケットボールというスポーツをご覧いただけたことです。中でも、僕らが若い世代をターゲットとしていた中で、実際に年齢の若い方々に見ていただけたのは非常に良かったなと。一方で課題はいろいろあると思いますけど、一つはバスケットの質でしょうか。両チーム(アルバルク東京琉球ゴールデンキングス)の選手たちは緊張感のある中でがんばってくれましたが、その質をもっと高めていく必要があると思います。

――当日の進行面や運営面などは期待どおりの出来だったのでしょうか?
大河 日本のバスケットでは1万人規模の試合や大会はなかなか経験できません。まだ先の話ですが、東京オリンピックなどを見据えて、その予行演習と捉えても良い出来だったと思います。公式戦では世界初となる全面LEDコートも、想定どおりの演出でうまくいったと感じていますし、担当したスタッフ、協力してくださった放送各局の皆様に感謝しています。

――先ほど若い層にリーチできたとおっしゃいましたが、検索ワードの上位を占めるなどSNSやネット上の盛りあがりは想像以上でした。
大河 一年前からTwitterやFacebook、InstagramなどのSNSを活用することを決めて、目標値を設定していました。そこに向けて戦略を練り、それが結果として表れました。『B.LEAGUE BIBLE』という集英社との雑誌企画もそうですが、ある意味で今までスポーツ界にはなかったアプローチの仕方にチャレンジして、それが若い方たちを振り向かせる一つの要因になったという手応えはあります。

――一方で生中継したフジテレビの視聴率は5.3パーセントにとどまりました。
大河 視聴率をどう見るかは難しいところで、近視眼的に捉えないようにと思っています。年代別で言うと、50歳以上の男性を指すM3層では確かに苦戦しましたが、12歳以下の男女、そして20歳から34歳までの男性を指すM1層などの若い層を中心に、他のスポーツのビッグゲームと比べても良い数字が出ています。このあたりは自信を持って良いことですし、この方向で行くべきだと改めて感じています。

――若い方をターゲットとしているという点で、そこも狙いどおりなのでしょうか?
大河 そうですね。例えばM3層でしたら、今回のBリーグ開幕戦を見た方は、他のメジャースポーツの4分の1から5分の1程度です。でも多くの若者が見たというデータがあるので十分満足しています。僕らはナショナルブランドとローカルブランドを分けていて、ナショナルでは若い方々にリーチできたという点で良かったですし、ローカルでも沖縄では視聴率が20パーセントを超えているので県民の多くの方々に関心を持っていただけたのかなと。これからも若い方を積極的に呼びこむこと、各地のファンに興味を持ってもらうこと、欲張りですけどこの2つを追求していきたいと思っています。

――開幕戦を行うにあたって特に重視していた点はどんなところですか?
大河 場所や対戦カードももちろん大事ですけど、テレビなどの生中継があるかどうかは大きな要素ですよ。せっかくLEDコートを準備しても、テレビでの情報拡散がなかったらここまで盛りあがらなかったと思います。会場に来てくださる方々を楽しませることは当然ですが、今後を見据えてテレビの生中継があるかないかは重要な要素の一つでした。

――最終的にはフジテレビ、NHK(BS)、スポナビライブが放送しました。
大河 いろいろありましたし、交渉も大変でした(笑)。各局にお声がけいただけて本当に心強かったですし、放送が決まってようやく先が見えたなという感覚でした。

――そして開幕戦に花を添えるように、元シカゴ・ブルズのホーレス・グラント氏が来場し、NBAのアダム・シルバーコミッショナーからもビデオメッセージがありました。
大河 今年1月にアメリカに視察に行き、NBAの本部にも表敬訪問しました。その流れでコミッショナーからメッセージをいただきました。

――NBAとは今後、どんな関係を築いていこうと考えていますか?
大河 選手育成などいろいろな形で力を借りていければと思っています。逆にNBAの日本でのプロモーションなどは我々が協力する形で、良い関係を築いていきたいですね。実際、8月にはDリーグからトライアウトのBリーグとしての特別枠をもらって3選手を派遣しました。そういう交流を発展的に継続して行い、関係を深めていければと思っています。

――2015年9月にチェアマンに就任して1年が経ちました。できたこと、できなかったこと、それぞれどんなことがありますか?
大河 まず何とか開幕することができました(笑)。今年の秋というゴールが決まっていましたけど、準備期間はJリーグの5年と比べるとわずか1年。それほど長くありませんでした。僕は「ゼロゼロスタート」と言っているんですけど、あの時は人もゼロで収入もゼロからのスタートです(苦笑)。そこからよく開幕までいけたなと。これだけ素晴らしい人材、気持ちを持った人材が集まって、いろいろな企業に支援いただき、もちろん川淵(三郎)さんの力は絶大でしたけど、その後押しもあってみんなが同じ方向を向いて進んでいくことができました。

――NBLとbjリーグ、2つのリーグを1つに統合することも大変だったと思います。
大河 会議を続けて、議論を重ねていく中で、各クラブの代表の皆さんも同じ方向を向いてくださるようになったんです。過去のしがらみなどは抜きにして、リーグを成功させようと。そこは本当に良かったです。ただ、こうして開幕はできましたけど、できなかったことというか、これからもっとやっていくべきは、お客さんに継続的に入ってもらうこと、それと日本代表を強くすることです。2019年のワールドカップ、2020年の東京五輪に向けて、自力で予選を突破できるチームを作っていかないといけません。

――日本代表の強化を推し進めていくにあたって、Bリーグのチェアマンとしてはどういうアクションを起こしていくのでしょうか?
大河 日本バスケットボール協会と協力してやっていく必要があると思います。6月に技術委員会を立ちあげましたが、これからも選手や指導者を強化していくトップリーグの評価部会などを作っていかないといけないですね。NBAでフィジカルトレーナーをされていた佐藤晃一さんのような世界トップクラスのノウハウを持っているスタッフを迎え入れていくことも大事ですし、代表の活動をどうしていくか仕組みも作らないといけない。代表の強化合宿を毎月実施するとか、そういったことも視野に入れて着実に強くしていきたいと思っています。

――代表合宿を毎月行うのは日程的に可能なのでしょうか?
大河 例えば日曜の試合終わりに集合して、月曜の午前午後、火曜の午前に練習して解散、であればやれる可能性はあります。来年の11月、再来年の2月にはW杯予選があるので、今シーズンも11月と2月は週末を1回、空けています。そこに強化試合を組みこんだり。あとはユースチームを作ることも重要です。レベルの高いプロ選手を育てていくためにフィジカルやテクニックを磨けるユースチームが必要になってくると思います。

――それは各クラブに作ってもらうということですか?
大河 そうですね。2018年ぐらいをメドにU-15の設立を義務付けできればと思っています。そうすると2、3年後にU-18ができる。今のイメージでは中学校の部活との両立で考えていますが、高校年代は部活ではなくクラブのみに所属する形にしたいなと。もちろん、登録については日本のバスケットがどうすれば盛んになっていくか、学校との関係なども議論した上で、良い形にしていきたいと思っています。

――開幕戦、第2節と来場者数はまずまずの結果が出ています。これを継続させていく上で、クラブにはどんなことを期待していますか?
大河 チームスタッフにももっと投資してほしい。チームを強くすることと同時に、例えばチケットセールスのスタッフや法人営業のスタッフ、ブランド力を高める広報スタッフ、そういった方々への投資、強化もすべきだと思っていますし、それはクラブにも伝えています。

――プロのスタッフが必要ということですね。
大河 選手とヘッドコーチがプロになりました。次は審判やチームスタッフなどがプロになるべきです。Bリーグの各クラブには若い社長が多くて、皆さんがきちんとお客さんを見ています。それと本気でチームや選手と向き合おうとしているのが、見ていてよくわかる。だからそういったスタッフへの投資だったり、経営面は非常に期待しています。

――観客動員において目標数字などはあるのでしょうか?
大河 今年は昨年の約1.5倍にあたる170万人をB1の入場者数の目標に掲げています。その設定をもっと上げたいと考えていますが、そのためには“器”を大きくしないといけない。B1の各クラブが1万人規模のアリーナを持てるぐらい人気が出ればそのイメージができてきますし、僕の頭の中では近い将来の目標として「300万人」という数字をぼんやりと描いています。

――そのための施策は?
大河 まずはこれまでいろいろなところで言ってきた“空中戦”ですね。プロモーションに力を入れて、クラブや選手を押しだしていきます。あとはクラブが地道にチケットを売っていく“地上戦”。デジタルマーケティングはもちろん重要ですが、それに加えて地元の企業を回ったり、駅前でビラを配ったり。そういう地道な“地上戦”をクラブがどれだけ真摯にやってくれるか。この2つが合わさった時に初めて「300万人」という数字が見えてくると思います。

――今後はどんな“空中戦”を仕掛けていく予定ですか?
大河 開幕戦の地上波放送は一番の“空中戦”ですし、SNSの活用もその一つです。僕のミッションは、開幕戦で取り組んだようにテレビ局や報道各社の皆さんにバスケットの魅力をどれだけ訴えかけられるか、そしてリレーションを構築していけるか。そこができれば、必然的にいろいろ形でBリーグを取りあげていただける。それが“空中戦”、すなわちプロモーションにつながってくると思っています。

――最後にBリーグの最終目標を教えてください。
大河 難しいなあ(笑)。一つは、日本代表を五輪やW杯に常時出られる水準に持っていくこと。もう一つは、クラブチームが47都道府県すべての場所にできることです。そこで地域を活性化させ、例えば春夏秋はサッカー、秋冬春はバスケットを見てもらえるように、それが当たり前の“風景”になって、皆さんが日本中でスポーツを楽しんでくれるようになってくれればと考えています。

――何年後に実現したいですか?
大河 どうかな(笑)。2030年が日本バスケットボール協会の100周年なんですよ。節目という意味で、そこまでには47都道府県にクラブができているようにしたいですね。代表の強化については継続してやっていくしかない。タスクフォース(JAPAN 2024 TASKFORCE)は2024年をメドとしていますけど、終わりがない話だし、まずは2019年のW杯、2020年の東京五輪でどれだけできるか、そこから方向性が見えてくると思います。

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