5月20日にB.LEAGUE CHAMPIONSHIP 2016-17のセミファイナル第2戦、第3戦が川崎市とどろきアリーナで行われ、アルバルク東京はNBL時代からのライバルでもある川崎ブレイブサンダースと対戦した。
前日の第1戦を落として後がないアルバルク東京は、ファウルゲーム(意図的にファウルをして、相手チームに時間を使わせない戦術のこと)を仕掛けざるを得ない状況に追いこまれたが、劇的な逆転で78-77と1点差で勝利。続く5分ハーフの“第3戦”で18-26と力尽き、ファイナル進出を逃したものの、好ゲームを演出したのがA東京のエース、ディアンテ・ギャレットだ。
ギャレットは第2戦で22得点7アシスト3スティールと攻守にわたってチームをけん引。数字に見える活躍よりも目を引いたのが、味方のアウトサイドシュートが決まらない時でも、審判の笛に納得できない時でも、我慢強くプレーを続ける姿だ。
ギャレットはBリーグの中でも頭1つ、2つ抜きんでたテクニックの持ち主で、そのボールハンドリングを見るだけでもアリーナに足を運ぶ価値がある。小気味いいリズムから繰りだすレッグスルーやビハインドザバック(背中側に回して、ドリブルチェンジする技)、クロスオーバードリブル(ボールを素早く左右に切り替え、ディフェンスを揺さぶるドリブルのこと)の切れ味は、“加速装置”さながらに一瞬でディフェンスを置き去りにする。一方で、A東京の誇る世界水準のテクニシャンが垣間見せる欠点は、シーズン中に度々見受けられた、メンタル面の不安定さだった。
審判のジャッジやラフなディフェンスに対して苛立ちを隠さず、無理なドリブルで仕掛けてチームのオフェンスリズムを崩すこともあり、執ように審判に食い下がりテクニカルファールを受けることも少なくなかった。この姿勢が変わったのは、4月2日に敵地で行われた栃木ブレックス戦だとA東京の伊藤拓摩ヘッドコーチは語る。
首位栃木を2ゲーム差で追っていたチームにとって負けられないこの一戦。2点のビハインドを背負う第4クォーター残り5分19秒、3ポイントシュートを狙う古川孝敏にギャレットがディフェンスしたところ、シューティングファウルをコールされて3本のフリースローを与えた。納得のいかないギャレットは激昂して審判に詰め寄ると、テクニカルファウルをコールされる。結局、この4本をすべて決められて6点差に広がり、勝負は決することとなった。
ギャレットはジャッジ云々に関わらず、自身の振る舞いによりチームの追撃ムードを断たれたことを猛省。「俺はテクニカルファウルを取られるようなプレーをしないと決めた」と伊藤HCに話したという。
以降、ギャレットはメンタル面でも安定。Bリーグ元年に初めてバスケットボール観戦する人々を魅了しつつも、重要な局面でチームのオフェンスを冷静にクリエイトし続けてA東京をCS進出へと導いた。
伊藤HCはギャレットに対して最大限の賛辞を送る。
「本当に誇りに思う。今日に限らずここ何試合か見てもらえばわかると思うが、彼は成長した。スター扱いされて注目されたにも関わらず、シーズンを通して成長してくれた。元NBA選手という看板に関係なく、技術面でも精神面でも。次の彼のキャリアにつながるシーズンになったと思う」
ギャレット自身も、初めて戦った日本でのプレーを「本当に長いシーズンだったが、(所属するA東京は)自分のキャリアの中でも素晴らしいチームだったし、ベストのチームだった。ここでプレーしたことは忘れられない」と振り返った。
やり残したことについて問われると、「今日の試合に勝ってファイナルに駒を進めたかった。ファイナルは絶対行きたかったからね。優勝候補の1つだったし、残念ながらあと一歩だったが、これは仕方ないね」と苦笑しつつ、悔しさをにじませた。
2016年9月22日の記念すべき開幕戦で日本のバスケットボールファンを魅了したギャレットは、残念ながらファイナルの舞台に上がることなく、Bリーグ元年の幕を閉じることとなった。さらなる成長を遂げた彼のプレーを来季のBリーグでも見ることができるのか、A東京のファンでなくても気になるところだ。
文=村上成