ファイナル進出決定を告げるブザーが川崎市とどろきアリーナに鳴り響くと、篠山竜青は大きく両手を振りあげてコートサイドを駆け回った。「とどろきであんな大声援を受けたのは初めてだったので、ファンの皆さんと一緒に喜びを分かち合いたかった」
5月20日に行われたB.LEAGUE CHAMPIONSHIP 2016-17のセミファイナル第3戦、川崎ブレイブサンダースはアルバルク東京を破り、頂点へあと1勝に迫った。
1勝1敗で迎えた第3戦、前半は田中大貴に連続得点を許すなど主導権を握られ、3点のビハインドを背負う。しかし、川崎は後半にニック・ファジーカスとライアン・スパングラーがそれぞれ8得点ずつを挙げる大爆発。A東京の得点を7点に抑えるなどディフェンスも奮闘し、26-18で勝利を収めた。
CSでは初の第3戦突入で、NBLを舞台に戦っていた両チームにとって未知の領域。篠山が試合後「(第2戦のラストプレーで)辻(直人)が自分たちの形でしっかりシュートまで持っていった。結果的に入らなかったが、(第3戦に向け)焦りはなかった」と語ったように、試合終了残り13秒に逆転の3ポイントを与えて惜敗した第2戦のショックはなかった。
この日に行われた2試合で得点を量産した両外国籍選手以上にキーポイントとなったのは、篠山と藤井祐眞の両ポイントガードだ。篠山がスターターとして出場し、藤井とプレータイムをシェアするのが川崎のオーソドックスなスタイルだが、この日は2人が一緒にコートに立つ時間が長く、ツーガードの陣形でA東京へプレッシャーを掛け続けた。篠山と藤井の同時出場の効果を北卓也ヘッドコーチはこう語る。
「2人ともディフェンスが特長なので、しっかりと守れる。それと、お互い1番(ポイントガード)、2番(シューティングガード)をこなせるので、どちらがボールを運ぶことになってもドライブとアウトサイドからのシュート、両方の展開に持っていけるのは大きい」
藤井は、第3戦では得点こそなかったものの、前半残り1分3秒に辻直人に代わってコートインすると、持ち味の守備力で相手オフェンスを寸断。後半残り23秒には見事な出足によるスティールから、A東京の希望を打ち砕くスパングラーの得点をお膳立てし、4得点1アシストの篠山とともに川崎の勝利に大きく貢献した。
北HCは「(第2戦から続けて試合が行われることで)辻の出場時間が長く、シュートも短くなっていた。辻を藤井にスイッチすることでディフェンス面も強化できた」と狙いどおりの采配であったことを明かし、「(後半は)辻を投入しようと思ったが、流れがよかったので代えなかった」と口にした。
持ち前のスピードとテクニックで変幻自在のオフェンスを繰りだすツーガードだが、「(役割分担など)北HCからは特に指示を受けていない」と篠山は話す。「相手のディフェンスを見て、どちらがアタックするのか臨機応変にプレーしている」(篠山)、「竜青さんに負担を掛けないように、(篠山の)動きを見ながらオフェンスではアグレッシブさを忘れずプレーしている」(藤井)と、互いのインテリジェンスの高さが成しえる阿吽の呼吸で相手ディフェンスを翻ろうしている。
2013-14シーズンから昨季までの3年間で2度のNBL優勝。まさに“常勝”の名にふさわしい川崎だが、今シーズンはさらにレベルアップ。「去年はニックと辻のチームだったが、今季は他のメンバーが成長してくれた。どこからでも崩したり、得点が取れるようになった」と北HCは評したが、特に篠山と藤井の成長は著しい。「一緒に(佐藤)賢次アシスタントコーチのワークアウトを受け、2人で成長できた。2人で出ることで辻の負担も減らせるので、チームの力も上げることができた」と、ポイントガードが二人三脚で進化したことを篠山は強調した。
ファイナルの相手は昨季NBLセミファイナルで激突した栃木ブレックス。栃木はホームのブレックスアリーナ宇都宮で敗れた雪辱に燃えている。篠山は「しっかりとした形を持っている。自分たちのバスケットができるかで勝敗が決まると思う」と語り、藤井も「(第2試合のように)重たい展開になっても点を取らせないバスケットができる。自分たちらしさを出せば勝てると思う。個人的には泥臭いプレーでチームに貢献していきたい」と自信をのぞかせた。
記念すべきBリーグ元年、初代チャンピオンまであと1勝。ファイナルは27日、国立代々木競技場第一体育館で行われる。
文=山口晋平