9月29日、平日夜にも関わらず3304人のファンが詰めかけた川崎市とどろきアリーナで開催された、Bリーグの2017-2018シーズン開幕戦。名古屋ダイヤモンドドルフィンズは、昨年度準優勝の川崎ブレイブサンダースを相手に77-76の僅差で勝利を収め、シーズン初戦からリーグ屈指の強豪を倒す幸先の良いスタートを切った。
開幕戦独特の緊張感がみなぎる中、最初にシュートを沈めてチームに自信と落ち着きをもたらしたのが、名古屋Dの司令塔笹山貴哉だ。
現在24歳の笹山は、180センチ77キロのポイントガード。京都の名門洛南高校、筑波大学を経て、2014年に三菱電機ダイヤモンドドルフィンズ名古屋(現名古屋D)へ入団した。在籍3シーズン目の昨季は、レギュラーシーズン全60試合に先発出場し、1試合平均10.4得点2.9アシスト1.3スティールと攻守に渡る活躍を見せ、司令塔として、若いチームをけん引した。
昨シーズン序盤の名古屋Dは、若さ溢れるアグレッシブなバスケットボールを展開し好調を維持。笹山、中東泰斗、張本天傑の3名は日本代表候補合宿に招集を受けるなど、若きタレント集団として注目を集めた。しかし、シーズン中盤以降、チームの中心であるジャスティン・バーレル、ベテランポイントガード石崎巧(現琉球ゴールデンキングス)がケガで離脱すると、チームは一気に失速。序盤の評価とは一転し「若さが出た」と「試合が落ち着かない」などのゲームレポートも散見されるようになった。
結局後半戦で挽回することができず、27勝33敗、勝率4割5分、西地区4位でシーズンを終了。チャンピオンシップ進出を逃す悔しい結末を迎えることとなった。
Bリーグ元年のリベンジに燃える今季だったが、チームは9月15日、笹山の負傷を発表した。左大腿部肉離れで、全治2週間程度の見込みと報告。笹山は万全とは程遠い状況で2シーズン目の開幕を迎えることとなった。
それでも、迎えた開幕戦、笹山は先発出場を果たし、非常に落ち着いたプレーを披露。ケガの影響でプレータイムは15分弱と限られたものになったが、重要な場面での4得点に加え、3アシスト4スティールと、強豪川崎を破るチームの原動力として頼もしい活躍を見せた。
手に汗を握る接戦を制した笹山は試合の感想を問われると「最後はジャスティンがビッグショットを決めてくれたので勝つことができたが、できるだけ今回のような展開にしたくないですね」と話し、「相手がアジャストしてきたときに、それ以上のプレーをできなかったことが、点差を詰められた原因だと思っています。でも、まずはこの1勝は大きいと思いますので、自信にしたい」と薄氷を踏む思いで手に入れた試合を振り返った。
開幕直前のケガの具合については「ケガはまだ完全ではなく、プレータイムの制限はあるが、制限がある分だけ、その時間内に落ち着いて周りを使うことができている」と話し、「ケガ明けということもあり、『自分が行こう!』というよりは、落ち着いて周りを見て試合に入ろうと、周囲と話し合っていたので、結果として、『ケガの功名』となった」と開幕直前のピンチが一転し、重要な試合での勝因となったのではないかと分析した。そして、「100パーセントに体調が戻ったときに、同じようにプレーができるようになりたい」とにこやかに述べ、さらなる成長を誓った。
最後の最後はバーレルのシュートで川崎を振りきることができた名古屋D。前半リードしている時間帯はチーム全体がアグレッシブにディフェンスを仕掛け、選手個々の自主性や積極性も見ることができたことは大きな収穫だ。
一方で、笹山が「相手のミスがあったり、たまたま自分たちの方にボールが転がってきたことで、今日は僕らに運があった。自分たちで第1クォーターでできたことを継続し、前半の点差を保ったまま試合を終わらせることを目標としたい」と語ったとおり、攻守のリズムが悪くなると、パスをする相手を探して、積極性が影を潜めてしまうなど、課題が見える試合でもあった。
収穫と課題を得ながら、貴重な金星を挙げた若きタレント集団がどれだけ高くジャンプアップできるのか、Bリーグの2シーズン目に注目したい。
文=村上成