Bリーグで一番小さなホームアリーナ、それが長野県千曲市にある戸倉体育館。そこを主戦場にするのは、B2中地区で戦う信州ブレイブウォリアーズである。プレシーズンから昨シーズンとは違う姿をファン・ブースターに披露し、さらにはあのアンソニー・マクヘンリーが加入し、期待感満載のシーズンを戦い始めているのである。
超大型の台風が近づく中の10月22日に開催された9日間で5試合を戦うという過密スケジュールでのゲーム、迎え撃ったのはB3リーグから昇格を果たし、現在西地区首位のライジングゼファー福岡。強力な戦力を誇り、今シーズンの優勝候補の一つと言っていいだろう。
前日の大接戦から一転、このゲームは最終的には福岡が21点差の大差を付けて、94-73という結果で開幕から無傷の8連勝を果たした。一方の信州は4勝4敗と5割に勝率を下げてしまう結果となったのである。
ポイントになったのはオフェンスリバウンドの差、そして福岡が信州のお株を奪う激しいディフェンスから非常に素早い展開のバスケットを展開したというところ。加えて福岡の選手たちのIQの高さ、そして試合展開へのアジャストメントの高さを現場で思い知ったゲームでもあった。
ゲーム序盤から福岡のインサイドプレーヤーであるエリック・ジェイコブセンがゴール下を完全に支配した。オフェンスリバウンドやそこからのセカンドチャンスをものにし、前半だけで16得点8リバウンドと活躍し、チームをけん引。そのうちオフェンスリバウンドは6つとゲームの主役となったのである。
それでも信州は前日からの好調さをキープし、チームでボールをシェアしながら得意のアウトサイドを中心に得点を重ね、福岡に食い下がっていく。マクヘンリーを中心としてゲームを組み立てながら、スピードスターの武井弘明が要所で豪快なカットインや美しいダブルクラッチを披露して、1102名のファン・ブースターの集まったアリーナのボルテージを上げ、前半は43-43の同点で折り返す。
後半になって、福岡のディフェンスのトーンが一気に上がり、徐々にゲームのペースを握っていく。そこには、実はハーフタイムに河合竜児ヘッドコーチが選手たちに伝えた言葉があった。「前半は悪いゲームだった。ハーフタイムに選手たちに対して、悪かったがそれでも前半同点に終えることができた。もう一度自分たちのやるべきゲームをしよう。そういうことを伝えたら、選手たちが自らお互いに話をして後半に修正してくれた」。ゲーム後のインタビューにおける談話にすべてが詰まっていた。
指揮官の檄をしっかりと受け取った選手たちはボールマンに激しくプレッシャーを掛けて、信州のボールをシェアしながら展開していくオフェンスを行わせない。相手のミスを誘い、小林大祐を中心に早い展開でのオフェンスで得点を重ねていく。その小林は第3クォーターだけで11得点とスコアラーとしての役割を完璧に実行し、リードを一気に突き放した。
その流れを切ろうと信州はゾーンディフェンスを展開していくが、そのディフェンスにも動じなかったのが福岡。第4クォーターから5連続でディフェンスのギャップを付いて3ポイントを鮮やかに沈めていき、点差は広がっていった。
一度付いた点差を追いつきたかった信州であったが、持ち味のチームでボールをシェアするオフェンスが全く展開できず、苦しい展開になってしまう。マクヘンリーも「前半は良かったのだが、後半になってチームとして戦えず、個々でバスケットを展開してしまった」と反省するコメントを残したように、チームとして悪い部分が出てしまった。
最終的には大差が付いたゲームではあったが、信州の小野寺龍太郎HCは全く下を向いておらず、むしろポジティブにこの2ゲームを振り返った。「前節からの秋田(ノーザンハピネッツ)、そして今週の福岡と強豪との戦いでの4連敗だったが、この序盤でこういう強豪と戦っていい部分もたくさんあった。負けてしまったのは非常に悔しいけど、むしろ序盤に戦えて、自分たちの課題や、やるべきことが見えたという意味では良かった。これを繰り返さないようにして、上を狙っていきたい」。この4連戦がチームにとって大きな財産になっていくのかもしれない。
一方の福岡も破竹の8連勝を全く意識していない。河合HCは「連勝は大切だが、20ゲーム過ぎて各チームのバスケットの質が上がってきてからの連勝の方が非常に大切」と語れば、この日22得点と大活躍した小林も「8連勝という部分に関しては全く意識していなくて、自分たちがB3リーグから上がってきて自信はあったが、過信していないかという不安もあった。なので、一つひとつのゲームをしっかり戦ってB1に上げるためにやるだけ」と「勝って兜の緒を締めよ」という感じのコメントを残した。
信州が所属している中地区は大混戦、そして福岡は現在西地区をけん引。両チームともに今シーズン、リーグの中で面白い存在であることは間違いない。
ここからの戦いもしっかりと注目していきたい。
文=鳴神富一