横浜アリーナに1万2005人の大観衆が詰めかけ、アルバルク東京の初優勝で幕を閉じた「B.LEAGUE CHAMPIONSHIP 2017-18」ファイナル。A東京の選手たちがトロフィーを掲げたその陰で、千葉ジェッツのベテランセンター、伊藤俊亮が静かにコートを去った。
現役ラストゲームとなるファイナルでタイトルを獲得して、華々しい最後を飾りたかったはずだ。「素晴らしい舞台をBリーグが用意してくださったのですごくありがたかった。それだけに悔しい」。率直に無念さを表したが、やりきったからか、その表情は清々しくも見えた。
試合の大勢が決まった残り41秒でコートに入った。シュートを1本放ったが、ネットを揺らすことができず、チームも60-85と敗北を喫して終了のブザーを聞くことになった。プレー中は感傷に浸ることがなかった伊藤も、「バックヤードに引き上げる時に一番心が動いた」という。プロバスケットボールプレーヤーとして終止符を打った瞬間だった。
千葉は今年1月に天皇杯2連覇を達成。BリーグレギュラーシーズンでもA東京を抑えて東地区首位に立った。チームとして勢いがあり、だから、ファイナルも千葉優勢と見ていた。しかし、大一番で勝利を手繰り寄せることができなかった。A東京のタイトなディフェンスに苦しめられ、千葉らしいアップテンポのバスケットに持ちこめなかった。
リーグタイトルには手が届かなかった。悔しさはひとしおだ。それでも、伊藤にとって千葉で戦った経験は大きな「財産」になった。選手生活は終えるが、来シーズンから「財産」を糧に、千葉のフロントスタッフに転身してリスタートを切ることが決まっている。「またこういう舞台に選手たちを連れていき、今度こそ表彰台の上に行けるようにチームを支えていきたい」
富樫勇樹をはじめ個性派ぞろいの千葉は今シーズンのホームゲームで、Bリーグ最多となる1試合平均5196人を動員。すでにリーグ屈指のクラブとしての地位を確立しているが、伊藤は「まだまだ伸びしろのある期待値の大きいチーム」と評する。そのクラブをどう進化させるかはフロント陣の手腕にかかっており、先頭を走る人気クラブの発展は、そのままリーグの発展にもつながる。伊藤はステージを変えて、また大きなミッションに挑むことになる。
コート上では204センチの高さと鍛え抜いたフィジカルを駆使して黙々と役目を務めあげ、SNS上では変幻自在にキャラを変え、多くの人々を魅了する。千葉在籍わずか2シーズンにしてファンの心をつかんだ“イートン”に、約1年前、「千葉をどういうチームにしていきたいか」と質問すると、こう返ってきた。「愛されるチームを作りあげたい」
Bリーグファイナル終了後、フロントとしてどう取り組んでいくかと問うと、「自分の目指す“ジェッツ像”があるので、(島田慎二)社長とコミュニケーションを取りながら、一緒にチームを作りあげていきたい」と答えた。では“ジェッツ像”とは――。「皆さんに愛されるチーム」。あの時と同じ想いを、今もブレずに抱いている。そして伊藤はこう続けた。「そのために選手たちの顔が見えるように、それぞれがしっかりキャラクターを売りこんでいけるようにサポートしていきたい」。まさに自身が実践してきた方法だ。
選手として活動しながら、Twitterをとおして様々な企業や団体とのコラボレーションを実現してきた伊藤。フロント業に100パーセント集中した時、いったい何が生まれるのか。その身長同様のビッグなプロジェクトを推進していくことだろう。今からその活躍が楽しみだ。
文=安田勇斗