チームがピンチのときこそ、準備に励み、ステップアップできる選手がいる――川崎ブレイブサンダースは11月11日に千葉ジェッツを97-94で破った。振り返れば、マティアス・カルファニが負傷し、前節の琉球ゴールデンキングス戦はホームで2連敗。さらにジョーダン・ヒースまでケガという手負いの状況であったが、敵地で6連勝中の相手に逆転勝ち。「コーチがスカウティングした内容をもとに良いパスが回って、結果的に辻と増田が多くの得点を決めてくれました。チーム全体で取れた点数だと思っています」と川崎の佐藤賢次ヘッドコーチは語る。ここで名前の挙がった辻直人は27得点のシーズンハイの活躍を見せ、さらにニック・ファジーカスと並ぶ23得点をたたき出した増田啓介が大きな貢献を果たしたのだ。
過去2シーズン、川崎で特別指定選手としてプレーした増田は筑波大学を卒業した今シーズンがプロ1年目だ。いわゆる『八村(塁)世代』の一角として各年代で活躍してきたが、内外角をこなした学生時代から、現在は194センチのスモールフォワードとして発展途上にある。この日は4本の3ポイントシュートを沈め、富樫勇樹とミスマッチになるやいなやゴール下で押し込んだ。彼は試合後、「前節は2連敗して、さらにマティアス選手やヒース選手もケガをしています。今日の試合は人数が少ないのですが、ケガをしている2人の分も含めてチームでハッスルして勝利をしようと臨みました。それが試合の結果につながって良かったです」と振り返った。攻撃のみならず、守備でも球際で激しく争い、シャノン・ショーターにも食らいついた姿を見れば、彼は任された29分間を文字通り全うしたと言える。
もっとも前節は第1戦こそ20分の出場時間を手にしたが、第2戦はわずか3分。少なかったプレータイムを言及すると苦笑いを浮かべたが、巡ってきたチャンスで結果を出したことを思えば、ひたむきに練習へ励んでいることの証だ。「常に川崎は準備を大切にするチームです。自分自身も前節(の第2戦)は出られなかったのですが、その試合も準備をしていましたし、今日の試合も準備をして臨みました」と話す。また佐藤HCも「すごくIQが高くてコート全部が見えている選手ですが、彼は今とにかく一生懸命に自主練をしているので、その成果もあるかと思います」と、活躍の背景を記者会見で明かしていた。
そう言えば昨シーズンも出場時間が無しに終わった翌日、ケガ人が出たことや先輩のファウルトラブルでチャンスが巡ってきた試合があった。1月25日の京都戦――この日は4本のスティールや、デザインプレーのフィニッシャーを務めるなど13得点の活躍。
当時も「川崎には“BE READY”という目標(2019-2020シーズンのスローガン)があります。常にコートの中でも外でも相手より準備することが強みだと思いますので、心の準備はしていたつもりです」と、クラブの目指す姿勢を体現。この日は長いシーズン、いやキャリアの中での1試合にすぎないかもしれないが、キャリハイの結果には特別指定選手の頃から意識し続けたことが、ルーキーイヤーに受け継がれていることを改めて感じさせてくれるものだった。
次節川崎は勝ち星で並走する東地区3位の富山グラジーズをホームに迎えるが、ケガ人の早期復帰は難しく総力戦を余儀なくされる。そんな中で、指揮官や先輩から期待の厚い増田は、チームを支えるピースになる。ただ、23得点も本人にとって「まだまだだと思っています」と、手ごたえと呼べるものではなかった。「前の試合は全然、出ることができませんでした。今日のように長く出してもらえるときもあれば、短いときもあります。短いときもコートでアグレッシブに攻めて、ディフェンスでハッスルしてチームへ勢いを与えような選手になりたいですし、長い時間出てもそれが継続できる選手になりたいです」と、レベルアップを誓う。ホームのとどろきのファンの前で、準備の成果を発揮するときがやってきた。
文=大橋裕之