大混戦のウインターカップ男子閉幕から1週間、新興勢力台頭が目立つ中、来年度は伝統校復活なるか

2016年のウインターカップを制した福岡第一 [写真]=大澤智子

 女子同様、インターハイと同じ顔合わせとなった男子決勝戦。しかし、そこに至る過程は女子とは全くと言っていいほど違った。それは群雄割拠、本命不在、大混戦という前評判を裏付けるものだった。

 全50試合のうち、5点差以内の試合は11試合と、女子より6試合多い。しかも、女子では1試合もなかった1点差での決着も3試合あった。延長戦も、女子の1試合に対して4試合。一方、20点差以上の試合は14試合にとどまり、こちらは女子より11試合少なくなっている。

 いかに激戦だったかを象徴するのが、優勝を果たした福岡第一高校(福岡県)の戦いぶりだ。初戦の中部大学第一高校(愛知県)戦は第3ピリオドまでの劣勢をひっくり返しての4点差。続く広島皆実高校(広島県)戦は逆に、リードしながら第4ピリオドに32失点と追いあげられた。準決勝では帝京長岡高校(新潟県)と再延長の熱戦を演じ、決勝の東山高校(京都府)戦もわずか3点差。インターハイとの2冠を達成した事実だけを考えると、抜きんでた存在と捉えることもできるが、決して楽に勝ちあがったわけではなかったのである。

 なぜ福岡第一は厳しい道のりを乗り越えることができたのか。それは心身両面のタフさがあったからだ。重冨友希と周希の双子はオールコートのバスケットを展開するチームを最後まで引っ張り続け、決勝は2人そろって40分フル出場。特に友希は、再延長となった前日の準決勝も50分フル出場と、驚異的な体力を示した。土居光や松崎裕樹、蔡錦鈺といった他のスターターも、広島皆実戦以外はほぼ30分以上出場している。初戦からスターターに頼らざるを得ない展開だったとはいえ、決勝までの5連戦を限られた人数で乗りきるには人並み外れた体力が必要。そして何より、どちらに転んでもおかしくない試合をことごとく制したのは、彼らに強いメンタルが備わっていたということに他ならない。

福岡第一を優勝に導いた重冨友希 [写真]=大澤智子

 優勝と準優勝は結果的にインターハイと同じだったが、準決勝で敗れて3位決定戦に回った2チームは、いずれも新たに台頭してきた歴史の浅いチームだ。3位の北陸学院高校(石川県)はまだ創部4年目。2年目に早くもウインターカップ初出場を果たし、3年目はベスト16、そして今回はベスト4と着実にステップアップしてきた。2年生ながらエースの大倉颯太が大舞台の経験を積み、来年度はさらに上を狙えそうだ。

北陸学院をけん引した2年生エースの大倉颯太 [写真]=大澤智子

 また、帝京長岡も2大会前に初出場と、チームとしては若い。同じくここ数年で一気に強豪校の仲間入りをした開志国際高校と県内でしのぎを削り、インターハイは惜しくも敗れたが、ウインターカップ予選では見事リベンジ。そして、開志国際がインターハイで残したベスト8という結果を上回った。ディアベイト・タヒロウと遠藤善がチームの軸だったが、司令塔の祝俊成は2年生。こちらも来年度の飛躍に期待が掛かる。

帝京長岡のディアベイト・タヒロウは卒業後、アメリカのポートランド大学に進学 [写真]=大澤智子

 新たな強豪が現れた影響で、かつて大会をにぎわせた古豪の存在感が薄くなってしまった感は否めない。今回は東山の後塵を拝した洛南高校(京都府)は3回戦で延岡学園高校(宮崎県)に1点差の惜敗。その延岡学園は、続く帝京長岡戦で30点差の完敗だった。多数の名選手を輩出してきた北陸高校(福井県)も、福岡大学附属大濠高校(福岡県)との接戦は制したが、東山に敗れてベスト8入りならず。スコアラー杉本天昇を擁して上位進出を期待された土浦日本大学高校(茨城県)は北陸学院に屈した。そして、大会3連覇中だった明成高校(宮城県)が1回戦で敗退したのは今大会のビッグニュースの一つだ。

初戦で姿を消した明成

 47回目の開催で初めて能代工業高校(秋田県)が出場を逃した今大会。ニューウェーブの到来は喜ぶべきことではあるが、かつて一時代を築いた名門が早い段階で次々と姿を消すのは、やはり寂しくもある。そこで期待したいのが下級生。前述の北陸学院の大倉颯太らに加えて、東山のカロンジ・カボンゴ・パトリック、そして明成の八村阿蓮も2年生だ。彼らが新チームを引っ張りあげ、来年度は伝統校と新興勢力が切磋琢磨してほしい。

来年度の活躍が期待される明成の八村阿蓮

 今後という点で言えば、3年生にとって最後の大会となるウインターカップが終わると、彼らの進路も気になるところ。その中で興味深い進路を選んだ1人について触れておきたい。帝京長岡のディアベイト・タヒロウはアメリカのポートランド大学に進むことが決まっているが、これはバスケットを続けながら経営学を学ぶのが大きな目的。母国マリで手広く事業を手掛ける家庭に生まれた彼は、急死した父、祖父の後継者として大きな期待を寄せられているのだ。コートの中でもクレバーだが、コート外でも5カ国語を操る頭脳の持ち主。勉学に力を入れることになるが、「アメリカで八村塁(明成→ゴンザガ大学)に勝つ」という目標もあるのはうれしい話だ。可能な限り文武両道を実践して、また日本のバスケットファンにその名をとどろかせてほしい。

文=吉川哲彦

モバイルバージョンを終了