大会初出場の一関工業、3ポイントシュート中心の攻撃に感じた“前のめりな潔さ”

51本もの3ポイントシュートを放った一関工業(写真は嶋田)[写真]=兼子慎一郎

 どんなに点差を離されようとも、どんなにシュートが決まらなくても、最後まで前のめりに己のスタイルを貫き通した。初出場の県立一関工業(岩手)が洛南(京都)を相手に見せた戦いぶりは、一種の美学を感じさせる清々しいものだった。

 195センチの佐藤脩緒を擁するものの、その他の選手にそれほどサイズはない。後藤靖宏コーチは「シュートは絶対躊躇するな」と言い続け、選手たちは忠実にそれを遂行した。磨いてきたのは距離の長い3ポイントシュート。「ゴールに近づけば近づくほど大きい選手のほうが有利な競技なので、長い距離から高確率で決められる選手を育ててきました」と意図を説明する。

 実際、前半は佐藤陸が3本、菅原隼輔が2本の3ポイントを決め、強豪・洛南を相手に好勝負を展開。後半は相手のディフェンスの変化に戸惑い攻撃の足が止まったことが、激しいディフェンスを繰り出す足にも影響してしまった。頼みの3ポイントも決まらず、49-87と大差で敗北を喫した。

佐藤(陸)はチーム最多となる25本もの3ポイントシュートを放ち、6本を成功させた[写真]=兼子慎一郎

 一関工業が洛南戦で放った3ポイントは実に51本。そのうち決まったのは9本にとどまったが、後藤コーチはこれを否定しない。

 「いろんな方が『もうちょっと(やり方があるのでは)』と思われているでしょうが、うちはあれでやってきて、あれで勝ってきたましたので。終盤はちょっと打ち急ぎすぎではありましたが、責めません。言ったとおりに戦ってくれました」

 全体的な戦術としては2つのユニットを入れ替えて戦う「ツープラトン」を採用。生きのいい下級生ユニットを先発させ、流れが悪くなった時に3年生のユニットがそれをカバーする。「選手には『1分のゲームを40回頑張ろう』というように伝えています。1分、数秒という短い時間を全力でやりなさいというときに、ツープラトンだと分かりやすいみたいです」。

 3年生は当然、控えとして出場することに抵抗感があった。キャプテンの嶋田奎介は「当初は嫌だなと思った」と振り返ったが、「下級生のダメなところを3年生でカバーしていこうと思えるようになりました」と続ける。タイムアウト中に選手たち自身で話し合うことを心掛けたのも3年生たち。直前まで出場していた選手は着席して参加するのが常だが、一関工業は15人全員が立ち上がって熱く意見を交わした。

ベンチから下級生をカバーするようになったキャプテンの嶋田[写真]=兼子慎一郎

 下級生たちが主力として経験を積んだ一関工業は、来年度のインターハイ初出場、ウインターカップの連続出場にも期待がかかる。後藤コーチが掲げた「3ポイント以外の攻撃バリエーション」という大きな課題を克服し、今度こそ一勝を挙げられるか。スタイルが変化しても、前のめりな潔さは変わらずにあってほしいというのは、筆者の勝手な願いである。

文=青木美帆

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