「別に頼んでもないのにFIBA(国際バスケットボール連盟)が自分に有利なルール変更をしてくれて、こちらに風が吹いているなって思いました」
そううそぶいたのは10月16日から行われた男子日本代表合宿に初召集された宇都直輝(富山グラウジーズ)だ。“うそぶく”という表現は不適切かもしれない。知己の記者との会話の中でリップサービスのつもりで語った言葉だろう。しかし、宇都らしい不敵な一言だった。
やはり「意外」という表現がしっくりくると思う。宇都は今回が日本代表候補に初召集なのだ。現役で考えれば、田臥勇太(栃木ブレックス)や富樫勇樹(千葉ジェッツ)のように決して大きくないサイズのポイントガードが代表の司令塔を務めてきた。それよりも大きくなると五十嵐圭(新潟アルビレックスBB)や柏木真介(名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)を思い浮かべるが、世界的に見れば大きいとは決して言えない。最近では188センチの石崎巧(琉球ゴールデンキングス)の名前を挙げられるが、宇都はまた違うスタイルだ。
191センチのサイズを持つ宇都は、そのサイズを感じさせないプレーぶりで、高校時代から注目を集める存在だった。高校卒業後は専修大学でそのオフェンスを力に磨きをかけ、2014年2月にアーリーエントリー制度を利用して、NBLトヨタ自動車アルバルク東京(現アルバルク東京)に入団。さらにBリーグ開幕を前に富山に移籍し、Bリーグ初年度はアシスト王に輝いた。
日本代表のフリオ・ラマスヘッドコーチは「宇都にはとてもいい印象を持っているし、実際能力も高い。ゲームをクリエイトするスキルも持っており、それを自然とスピーディーにプレーできるのが特徴」と評価。今回、現在ベストの24名を集めたというラマスHCの思惑に合致し、晴れて日本代表候補に選ばれた。
宇都の武器と言えば切れ味鋭いドライブだろう。それを止めるにはファウルで対応するしかない場面もあるが、今シーズンから変更されたルールにより、それ自体がアンスポーツマンライク・ファウルとなるため、相手ディフェンスはその対応に手を焼いている。第3節終了時点で、得点では日本人トップの1試合平均15.3得点を挙げ、同6.3アシストは富樫に次ぐリーグ全体2位だ。
「いつかは選ばれるだろう」と思っていたという宇都だが、今回の選出に「思ったよりも早かった」と感じたという。この合宿では点を取ることよりも周りを活かすのを心がけ、「アシストは自分の武器なので」と、冒頭のコメントとは裏腹に控えめな姿勢を見せた。
今シーズンは好調を維持しているが、その原因をメンタルの成長と語る。
「これまで試合でレフェリーと戦ってしまうこともあったけど、今はチームリーダーをとして周りを引っ張る存在にならなければいけない。BT テーブスアシスタントコーチからも司令塔はいちいち表情に出すものではないとアドバイスを受けていて、それを実践することで精神的に成長したのではないかと思う」
ラマスHCの指導にも積極的に耳を傾ける宇都。
「いろいろなコーチに教わることに拒否反応はない。物事には裏表があって、ものの見方によってはどちらも正しいもの。新しいことを学びたいし、今回の合宿でも楽しみにしていた。この経験をチームに戻ってからも活かしていきたいと思っている」
12名のエントリーの中、ポイントガードには2~3名が振り分けられるだろう。現在、5名の司令塔候補がしのぎを削っているが、満を持して代表候補に選ばれた宇都は、やはり楽しみな存在であると思わずにいられない。
文=入江美紀雄
写真=山口剛生