第22回Wリーグが9月18日に開幕する。昨シーズンは新型コロナウイルス感染拡大の影響で今年の2月23日にシーズン中止を余儀なくされた。今シーズンもコロナ禍の開催となるが、リーグ、チームが一丸となって未知のウイルスに打ち勝ち、シーズンを盛り上げてくれるだろう。ここでは今シーズンの展望をお届けする。
文=三上太
写真=Wリーグ
トヨタ三好考案の「ベンチCAM」など新たな取り組みでファンサービス
”新しいバスケットシーン”をいかに創造するか――。
スポーツに限らず、すべての文化的なイベントに大きな影響をもたらした新型コロナウイルス。そこへの対策は9月18日に2020-2021シーズンを開幕させるWリーグにとっても大きなミッションとなる。
開幕に先立っておこなわれた11日の記者会見では今シーズンのレギュレーションが説明された。Wリーグ史上初となる東西2地区に分けたカンファレンス制を敷き、各カンファレンスで4回戦総当たりの方式が採られる。チームの移動を極力省力化し、開催地格差が出ないようカンファレンスごとに全6チームをひとつの会場に集める一極集中型で試合が行われるのも新型コロナ対策の一環だ。
プレーオフに進出できるのは各カンファレンスの上位4チーム。セミクォーターファイナル、クォーターファイナルと続き、セミファイナル、ファイナルは国立代々木競技場第二体育館が舞台となる。これまでとは異なるレギュレーションにいかに早く順応し、チームを築いていくか。“バスケットの聖地”代々木第二体育館のコートに立つためには、選手のレベルアップ、チームのブラッシュアップはもちろんのこと、スカウティングやゲームの駆け引きなど、ヘッドコーチを中心としたスタッフの力量も例年以上に試されるシーズンとなりそうだ。
一方でファンにも新しいスポーツ観戦の形を求められる。他のプロスポーツと同様に、会場に入れるのは当面アリーナ収容人数の50パーセント以下に留め、試合前後の選手との触れ合いは、たとえ家族であろうとも禁止。マスクの着用や会場入口での検温などは、もはや当たり前の大前提となっている。
直接聞こえてくるファンの声を力に変えてきた選手たちにとって、それが半減することは大きなマイナス要素だろう。それでもコートに立てば、目の前のファンと、デバイスなどを通して声援を送ってくれるファンのために全力を尽くすだけだ。トヨタ自動車アンテロープスのキャプテン、三好南穂は「どのシーズンもそうですが、今シーズンは特に見てくださるみなさんや応援してくださるみなさんに元気や勇気、感動を与えられる試合をしたい」と意気込む。
その三好が発案した「ベンチCAM(カム)」と呼ばれるカメラが各ベンチに設置され、試合中のベンチの様子が間近で見られるのは、会場に入れないファンにとってうれしい変化だろう。コロナ禍だからこその新しいバスケットの見せ方にもWリーグは挑戦している。
渡嘉敷、岡本の同級生コンビがENEOSをけん引
リーグ戦の戦いに目を移せば、やはりENEOSサンフラワーズが軸になってくるのは間違いない。昨シーズンこそ新型コロナウイルスの影響で「優勝該当チームなし」となったが、それ以前の11連覇は引き継がれ、前人未到の12連覇を目指す。吉田亜沙美、藤岡麻菜美といった経験豊富なポイントガードが抜けた穴は小さくないが、キャプテンの岡本彩也花は「(渡嘉敷来夢と)2人で引っ張っていけるよう、コミュニケーションを取ってやっています」と現状を肯定的に語り、渡嘉敷も「練習はもちろん、試合でもミスを怖れることなく、パスを出し続けることが(パスの出し手と受け手の)お互いを生かすポイントになると思います。ポイントガードには、どんなパスでも取るからミスを怖れずに出して、と伝えています」と力強く答えた。
追うチームは当然その穴を突きたいところだが、「それでもENEOSのメインはインサイドだと思います。私たちは昨年よりもサイズが小さいので、インサイドをどれだけ守れるか。チームの課題であるリバウンドをしっかり全員でやっていきたい」(富士通レッドウェーブ・町田瑠唯)、「相手どうこうよりも自分たちのバスケットをどれだけできるかだと思います。ルーカス(・モンデーロ)ヘッドコーチのバスケット――走って、思い切りよくシュートを打つことを意識して、ENEOSにぶつかっていきたい」(トヨタ自動車・三好)、「抜けた穴にフォーカスするのではなく、チームとして昨シーズン、ENEOSにはリバウンドと走り負けをしたので、そこを克服していきたい」(トヨタ紡織サンシャインラビッツ・加藤臨)と、記者会見に登場した3チームのキャプテンは自チームのレベルアップに目を向ける。
上記の3チーム――トヨタ自動車、富士通、トヨタ紡織と、ヨーロッパの強国、セルビアの代表ヘッドコーチ、マリーナ・マルコビッチ氏を招へい、さらに本川紗奈生や森ムチャら即戦力を補強したデンソーアイリス、一昨シーズンの準優勝チームである三菱電機コアラーズがENEOSを追う第1集団だろう。しかしすぐ後ろに位置する東京羽田ヴィッキーズ、リオオリンピックで女子日本代表を率いた内海知秀氏をヘッドコーチに迎えた日立ハイテククーガースも上位進出を狙っている。
シーズンを通して力をつけてくるのはどのチームか?
一方でシャンソン化粧品シャンソンⅤマジックは本川と谷村里佳(日立ハイテクに移籍)が抜け、若手中心のメンバー構成になったが、育成力のある李玉慈ヘッドコーチを再び呼び寄せることでチームの再建に踏み出している。また伊與田好彦ヘッドコーチの下でチーム力を徐々に上げてきている山梨クィーンビーズ、多くのタレントを擁しながら昨シーズンは11位に沈んだアイシン・エィ・ダブリュ ウィングスは小川忠晴をヘッドコーチに、Bリーグ・シーホース三河で長年活躍した桜木ジェイアールをテクニカルアドバイザーにそれぞれ据えるなど巻き返しを図っている。近年なかなか勝ち星に恵まれない新潟アルビレックスBBラビッツも新体制を敷いて、今年こそのジャンプアップを狙う。
いずれにせよ、カギは東西カンファレンスに分かれたレギュラーシーズンにある。女王・ENEOSのいる東地区は、各チームがENEOSと4試合も対戦できる。結果はもちろんだが、そこで得られたデータがプレーオフの大一番で役立つこともあるだろう。一方の西地区の6チームはENEOSと対戦することなく(皇后杯は別として)、プレーオフを迎えることになる。その間にどれだけENEOSをはじめとした東地区のチームにはわからない真のチーム力を築き上げられるか。
もちろんENEOSものんびりと待ってくれるようなチームではない。渡嘉敷が「走り続けて、勝ち続けます!」と高らかに宣言したように、誰が抜けようとも自分たちのスタイルを貫き、勝ち続けてきた自負はそう簡単に崩れるものではない。
開幕直前の今はまだENEOSの「1強」説が崩れていない。しかしシーズンが始まって、「あれ?」と思わせる何かが起これば、今シーズンのWリーグは新型コロナウイルスの話題さえも吹き飛ばす注目トピックスになるだろう。