8月29日~9月1日、車いす女子日本代表の国際強化試合「日本生命 WOMEN’S CHALLENGE MATCH 2019」が、東京都調布市の武蔵野の森総合スポーツプラザで開催された。
大会ではアジア・オセアニア地区のライバル・オーストラリア代表を相手に3試合が行われたが、大会前日の8月28日、大会日程に試合が組み込まれていない8月31日にも別会場で練習試合が設定され、全5試合を戦った。
オーストラリア代表は昨年8月の世界選手権以降、6名が代表を引退し、来年の東京パラリンピック、さらには2024年のパリ・パラリンピックも視野に入れ、チームビルディングが始まったばかりの新生チーム。今年5月に開催されたU25世界選手権では銀メダルを獲得したが、そのU25世代の選手4人が今回のメンバーに名を連ねた。それだけに、日本としては「負けてはいけない」相手だった。
日本は4勝1敗という結果で連戦を終えたが、5試合それぞれが印象的な試合となった。中でも、6,000人を超える観衆の中で大逆転劇を演じ、劇的勝利をおさめた最終戦。あの緊張感とプレッシャーの中で勝ち切れた経験はとても大きい。しかもそれが、来年の東京パラリンピックで車いすバスケットボールの試合会場であったことも大きな意味を持つ。まるでパラリンピック本番のような大勢の観客を前に勝利したことは、確実に来年につながるだろう。
今回、チームに大きな自信をもたらしたこの勝利の裏には、指揮官とキャプテンの信頼関係があった。最終戦、試合時間残り4.0秒で1点ビハインド。その緊迫した状況で、岩佐義明ヘッドコーチが下した判断は「勝っても負けても最後は藤井で終わろう」ということだった。
岩佐HCは就任前まで、宮城県を拠点に活動するクラブチーム「宮城MAX」で監督を務めていた。藤井郁美もまた宮城MAXに所属しており、その師弟関係は10年以上にも及ぶ。「藤井のシュート力、フィニッシュの精度は、これまでの信頼関係から分かっていました。絶対入れてくれると思いました」
仮に、そこで勝つことができなかったら、もう一度反省して、もう一度練習すればいいと、指揮官の信念がブレることはなかった。この信頼こそが劇的勝利という結果を生んだ。そして、藤井が決め切れたのもまた、キャプテンとしての責任や指揮官への信頼に応えたいという強い思いが後押ししたからに違いない。
そして、もう一人。忘れてはならないのが、山﨑沢香アシスタントコーチの存在だ。山﨑ACはこの試合の前、選手たちにある“課題”を与えていた。
「この舞台を、パラリンピックの決勝だと思いなさい」
ファイナルでメダルを獲るイメージを持ちながら、選手たちは重圧に押しつぶされることなく、強いメンタルで戦い抜いた。
また、山﨑ACは悔しい負けを喫した2試合目の夜、チームがこの悔しさをひきずってしまわないように、普段行う選手ミーティングを行わず、「一人一人、頭をクリアにしなさい」と一人の時間を設けさせた。
その結果、翌日の試合で選手たちは気持ちを切り替えリセットして、やるべきことに集中して試合に臨めたのだった。こうした影の立役者の存在もチームにとって大きな財産である。
「信頼」が結果を生み、それが「自信」へと変わり、チーム力を高めた。
車いす女子日本代表の次なる戦いは、11月末から開催される「アジアオセアニアチャンピオンシップ」。東京パラリンピックでのメダル獲得のためには、絶対に越えなければならないアジア・オセアニアの壁。その壁をチーム力で打ち破り、アジア・オセアニアのチャンピオンを目指す!
文・写真=張理恵