東京2020パラリンピック開幕まで約1年と迫った8月29日、車いすバスケットボール男子日本代表国際強化試合『三菱電機 WORLD CHALLENGE CUP 2019』と同時開催の女子日本代表強化試合『日本生命 WOMEN’S CHALLENGE MATCH 2019』が開幕。3大会ぶりにパラリンピックの舞台に戻ることになっている車いすバスケ女子日本代表は、東京都調布市にある武蔵野の森スポーツプラザで世界の強豪、オーストラリアと相まみえた。
その初戦、元女子日本代表のキャプテン大神雄子氏が女子代表チームを激励に訪れた。実は今年3月、大神氏が福島市で合宿していた女子代表チームを訪問していた経緯があり、重要な試合に臨むメンバーとの再会を果たしたというわけだ。その合宿では”同級生”ということもあり大神氏と藤井郁美キャプテンが意気投合。今回、その2人の対談が実現した。
取材・文=入江美紀雄
写真=兼子慎一郎
代表チームのキャプテンを務める心構えとは
大神 結果は残念(48-77で敗退)でしたが、率直に今日の試合を振り返ってもらえますか?
藤井 実は、昨日オーストラリアと練習ゲームがあり、結構大差で勝てたんです。内容的にも良く、今日の試合を迎えたのですが、完全にオーストラリアに対応されたというか。修正してきたのに対して自分たちは逆に対応しきれなかったというところですね。
大神 本番まで1年前になると、相手チームもどんどんスカウティングしてくるし、自分たちもどの国のどの選手がどんなプレーをしてくるのかなども研究しているところだと思います。今日の試合でもいいリズムでプレーできているときもあれば、相手はそれに対して修正してくる。でも、本来のプレーを40分の中でやり切る時間が増えていけば、「これは面白いな」という私の印象です。このアリーナで来年の8月26日、(東京2020)パラリンピックが開幕します。そこで、皆さんの意気込みや日本代表としてユニフォームを着て戦うことの思いなどを教えていただけたらと思います。
藤井 ここまで強く感じていたのは2008年の北京大会を最後に、パラリンピック2大会に出られていないことが大きいなというものでした。特に大きな国際舞台での経験という面です。でも今はヨーロッパ勢が全体的に強いのですが、実際に海外遠征で試合をしてもダブルスコアのような点差で負けることはなくなりました。逆に数点差で勝てる試合などもあるのでチームとして手応えはありますし、自信もついているのも事実です。しかし、今日のように対応された時に自分たちがどのように対応するか、その応用力を上げていかないといけないなとも思いました。ただ細かいところの精度、シュートであったりパスであったりといったところを詰めていけば絶対メダルまで行けると思うし、そこを目指しているので、出るからにはみんなで上を目指しています。
大神 5人制のバスケでは2004年のアテネオリンピックに出場した後、北京とロンドンと出場を逃してしまったのですが、後輩たちがリオデジャネイロのオリンピックに出場しただけでなく、ベスト8という成績を残してくれました。そして次の東京でまた1つ上を目指す段階になっています。藤井選手をはじめとしてチーム全体で3大会ぶりのパラリンピックで「やってやるぞ」という想いがあると思うので、代表のキャプテン経験者としてだけでなく、同じ年齢でまだ現役で頑張っている藤井選手はリスペクトしていますし、チームとしてもぜひメダル獲得を達成してもらえたら、自分のことのようにうれしいです。
――代表のキャプテンをすることの心構えをお二人はどのように考えていますか?
藤井 ぜひ教えてほしいです(笑)。
大神 胸にジャパンと書かれたユニフォームを着て、スコアボードには日本と相手国の名前が記されている。そうなると、自分一人の得点ではなく、日本の得点になるんだなって思うと、それで得点が入ればチーム全体で喜べると思ってプレーしていました。それはチームメイトにも言っていたので、シュートを決めた選手に指差したり、常にハイタッチしに行くことなどを実践したのです。でも今日の試合では皆さんもそういうことを随所にされていて。やっぱりチームスポーツっていいなあと改めて感じました。
藤井 私はキャプテンになりたての頃は、チームメイト一人ひとりとたくさんコミュニケーションを取るようにしていました。「この選手には何を言ったらいいのだろう」ということを考え、メンバー間のつながりを大事にして、それらを一つずつ構築していき、信頼関係を作っていきました。そしてそれが出来上がったら、次にスタッフ陣との橋渡しというか、選手とスタッフの間に立って、今度はここも信頼関係を深めていくようにしています。
大神 それって大事ですよね! 選手だけの関係を作ることはもちろんみんなしますが、選手だけがまとまればいいという話ではありません。コーチと選手をうまくまとめることは実はなかなか難しかったりもするのですが、キャプテンの役割として、気を配らなければいけないことだと思います。
若手の成長がチーム力をアップさせる
――本番を来年に控え、車いすの代表は男子も女子も若手の成長をとても感じます。長年チームを支えてきた藤井選手はそれをどのように感じていますか?
藤井 若手がどんどん成長してくれるのはうれしいのですけど、それと同時にチーム全体でも底上げを図らなければいけないと思います。個人的にも「負けられない」という気持ちも出てくるし、「どんどん突き上げてこい」と思いますね(笑)。
大神 そうであってほしいですね。自分はもう現役を引退しましたが、同級生が頑張っている姿を見るのはうれしいです。3月の合宿にもお邪魔させていただいて、そこから久々に今日お会いできて、実際にプレーするところも見させてもらいました。同じ1982年生まれとして、みんな一緒ですから、本当にうれしいです。この年齢になると誰もが少しずつ次のことを考える、引退の時期を考える人も多くなる中で、今もこうやってコートに立って表現している仲間はほんとに必死に応援したくなります。最後に改めて東京2020パラリンピックへの決意を聞かせてください。
藤井 チームとして掲げた目標は金メダルではなくて銅メダル獲得です。もちろん選手としてはこのような場合には「金メダル」と言いたいのですけど、やっぱり実際手に届く、リアルなところを目指そうと、みんなでたくさん話をして決めました。現実として自分たちにとって高い目標でもありますが、決して届かない目標ではないと思っています。まずは銅メダルを目指して、みんなで日々成長していきたいと思っています。
大神 もうめちゃくちゃ応援します! 図々しいお願いかもしれませんが、何か困ったことがあったらいつでも相談してください!!
藤井 ありがとうございます。バスケットボールを始めたときから憧れている大神さんにそう言っていただけてうれしいです。もちろん同級生として相談させてもらいます。