【NBA COLUMNS from LA】逆境を跳ね返してきたパトリック・ビバリー、“攻撃”でメッセージを伝える

子どもたちと交流するビバリー [写真]=山脇明子

 NBAの注目ルーキー、ロサンゼルス・レイカーズのロンゾ・ボールが、開幕戦の対ロサンゼルス・クリッパーズで、パトリック・ビバリーからプロの洗礼を受けた。

 ビバリーは、インバウンズ・パスを受けようとするボールに体をピッタリつけて挑発したり、ボールがパスを出そうとした時にドンと体をぶつけて床に突き倒したり、攻撃的な態度を続けた。

 ビバリーがボールに対して行ったのは、そういった喧嘩腰なものだけではない。昨季オール・ディフェンシブ・ファーストチームに選ばれた守備の名手は、これからNBAで揉まれていくルーキーを最高のディフェンスで迎え、わずか3点に抑えたのだ。

[写真]=Getty Images

 特にボールの場合、息子のことを豪語することで有名な父親、ラバー・ボールの発言がたびたびメディアで取りあげられるため、本来の自分とは違うイメージを持たれることも多い。それもあり、ビバリーはボールに対し、釘を刺したのだ。「試合後、彼に言ったんだ。あの親父のお陰で多くの選手から標的にされるから覚悟しておけってね」とビバリー。「94フィート(約28.65メートル)のコートを存分に使ってガードしてやった」と続けた。

 実際ビバリーは、ボールのように話題を集めたルーキーではなかった。2009年のドラフトで、2巡目42位でレイカーズから指名されたあと、マイアミ・ヒートへトレードされた。しかしNBAデビューを果たしたのは、ヒューストン・ロケッツと契約した2013年だ。それまで、ヒートからの解雇も海外でのプレーも経験している。

[写真]=山脇明子

 そんなビバリーに話を聞いたのは、ビバリーが地元の子どもたちを招待した“パンプキンパッチ”という場だった。子どもたちからバスケについて、また成績について相談され、一人ひとりの目を見て答えていたビバリーは、逆境を跳ね返してきた自らのキャリアについて、「だから諦めちゃダメなんだ。な、DJ」と言って、そばにいた子どもを抱きしめた。あっという間に子どもの名を覚え、「ダンクができるようになりたい」、「成績で『A』を取りたい」など、それぞれと話した内容を覚えていた。

「僕がこの子たちに伝えたいことは、この先、どんな人生が待っているかわからない。事態が好転することだってあるのだから、希望を捨てるなということだ」と言った。

 それが、ボールに伝えたかったことなのかと聞くと、「あれは、楽しんだ試合の一つに過ぎない」とだけ言って、子どもと遊びに行ってしまった。

 競争心が人一倍強いビバリーに、ライバルに親切なことをしたのかと聞いて素直な返事が戻ってくるわけはなかった。

[写真]=山脇明子

[写真]=山脇明子

 しかしボールは、次の試合で29得点11リバンド9アシストを記録し、デビュー戦の屈辱を晴らした。

 ビバリーからのメッセージは、ボールに確実に伝わっていた。

文=山脇明子

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