2016年9月22日、ついにBリーグが開幕した。
バスケットボールという競技を愛する者にとっては待ちに待った日であった。開幕戦のカードはアルバルク東京対琉球ゴールデンキングス。A東京が勝利した試合ではあったが、戦力的に劣る琉球の猛烈な追撃は、歴史的な一戦を目撃した者の記憶に深く刻みこまれたことだろう。
一方で、Jリーグクラブのサポーターでもあり、少しでもサッカーが日本に根づくようにと祈っている身としては、もしかしたらBリーグは「敵」なのではないかという疑念もあった。
土日を中心に営業するスポーツ興行であり、お客さんや地域の支持を取り合う関係になると考えると「敵」ということになってしまうかもしれない。しかし、バスケかサッカーかいずれかを選ぶ必要はないのだ。そのため、双方とも楽しむことで、スポーツ観戦という文化がより厚みを増していくという効果も見込めるかもしれない。
どうなるかは始まってみないとわからないし、地域の事情によっても異なるだろうが、良い機会なので考えてみよう。
■バスケとサッカーはどちらが面白いのか
まずは、観戦する上でどちらのスポーツが面白いのかについて、結論が出ないのを承知で考えてみたい。
バスケとサッカーは全く違うスポーツである。バスケは屋内で、少人数で行う、得点が多く入る球技。サッカーは屋外で、大人数で行う、得点があまり入らない競技である。こう並べてみると、正反対にすら感じられる。
一方で、共通している部分も多い。比較・対照しながら付き合ってみると互いの競技がより深く理解できるという側面もあるのだ。
バスケットボールは「個の力」が強く求められるスポーツである。漫画『スラムダンク』に登場した流川楓のようなエーススコアラーがシュートを決め続ける。しかし、「個の力」だけでは勝つことはできない。だから、ディフェンスやリバウンドをしつつエースを活かすための動きをし続けるプレーヤーが必要で、そのためには厳密に組織を組み立てていく必要がある。「個の力」でフィニッシュするが、「組織の力」が不可欠なのだ。
サッカーでも全く同じことが言える。サッカーは、第一義としてはフォーメーションを組んで対峙する「組織vs組織」のスポーツである。しかし、勝負を決めるのは美しい布陣ではなく、一つひとつの局面で「個の力」が相手を凌駕するかどうかなのだ。つまり、サッカーも「組織の力」によって組み立て、「個の力」でフィニッシュするスポーツなのである。
サッカーのストライカーには、周囲との連係を使ってゴールを狙う選手もいれば、自分勝手でわがままな選手もいる。同じ傾向がバスケのスコアラーでも見られる。そして、大抵の場合は「連係型」の方が良い選手だが、時折突き抜けた「わがまま型」が天下を取ることもある。そういう意味でも同じである。
バスケとサッカーは、全く違うように見えて、同じものを目指しているとも解釈できる。だから、そこには多くのヒントが見つかる。サッカーではできないバスケのプレーがある一方で、明日にも応用できる知恵が見つかることもある。そのせいなのか、サッカーファンを公言するバスケ選手は多いし、その逆も多い。
バスケとサッカーを心から愛する著者としては、ぜひこの機会にBリーグをのぞいてみて欲しいと思っている。サッカーへの愛が強い人ほど、多くの発見が得られると確信しているからだ。
ルールやセオリーがよくわからないという人もいるかもしれないが、オフサイドがよくわからない初心者でもサッカー観戦を楽しむことができるように、細かいことは気にせずに見ていればわかってくるものだ。バスケとサッカーは、世界的に同程度の競技人口を持ったスポーツである。それだけの広がりがあるのは、誰にでもわかりやすいスポーツだからなのである。もちろん、両者とも奥が深いことも付け加えておく。
■Bリーグの広がりとレギュレーション
ところで、Bリーグとはどういうリーグなのだろうか。
日本における男子バスケのトップリーグは、2005年にbjリーグが立ちあがって以来2つに分裂している状態を続けていた。そこで唐突に現れた(ように見えた)川淵三郎氏が、豪腕をふるって分裂状態であった男子バスケのトップリーグを統一し、2016年9月のBリーグ開幕までこぎ着けたのである。Bリーグは、チームの名前に地域名を入れることが義務づけられていて、企業スポーツよりも地域密着のプロスポーツを志向していることが感じられる。この流れには、懐かしさを覚える古いJリーグファンも多いのではないだろうか(川淵氏はJリーグの立ちあげを主導した人物)。
Bリーグの最大の特徴はチーム数の多さである。リーグはB1、B2、B3の三部構成となっていて、B1とB2は18チームずつ、B3は9チームである。つまり、開幕時から45チームが所属していることになる。これは、プロ野球が12チーム、開幕時のJリーグが10チームであったことを考えると非常に多い。
Bリーグのクラブが現状で存在しない都道府県を数えてみると15カ所である。つまり32の都道府県でBリーグを観戦することができる。ちなみに現在、Jリーグがない都道府県は9カ所であった(J1~J3)。Jリーグ開幕時には10チーム(8都道府県)しかなかったのである。開幕したばかりのBリーグは、現在のJリーグに近い、全国的な広がりを持っている状態で誕生したのである。
試合数は、B1とB2に関しては年間60試合で、ポストシーズンにはプレーオフが行われる。B1では8チームのトーナメントで優勝を競う。また、B1とB2は、昇降格による入れ替えが行われる。B2プレーオフでは4チームがトーナメントを競い、上位2チームが昇格し、3位のチームが入れ替え戦に臨むことになる。
当事者にとってはハードな「天国か地獄か式」のポストシーズンとなるが、大きな盛りあがりとなることは間違いない。もしかしたらとても残酷な結果が待っているかもしれないが、残酷性が強ければ強いほどニュースバリューが生まれるのも事実なのだ。
■Bリーグは本当に大丈夫か
懸念もある。僕が真っ先に思ったのは、「こんなにチーム数が多くて大丈夫なのだろうか」である。正直言って危うさを感じている。すべてのチームを維持することができるのだろうか、と。
少なくとも、Bリーグに大きなスポンサーがついているうちは問題ないだろう。各クラブには十分な額の分担金が渡ることになっているし、万一資金難に陥った場合でも1億円を限度にリーグから融資を受けることができる(ただし、5勝分マイナスされるペナルティがある)。
しかし、Jリーグの歴史も踏まえて考えると、スポンサーがいつか去ってしまうことも、十分に想定しておく必要がある。そうなった場合に、断固として全チームを維持するのか、あるいはうまくいかなかったチームの解散もやむなしと考えているのか。大きな分岐点である。
もっとも、サッカーに比べて、バスケチームの経営の方が、敷居が低いと感じられる側面もある。第1に「箱」である。屋外で天然芝を生やした大きなサッカー場を使うよりも、アリーナ(体育館)を使う方が、はるかにコストが低い。アリーナは、バスケ以外のスポーツにも利用することができる上、サイズも大きくないので都市の中心部のアクセスが良いところに建てられていることが多い。
実際にBリーグのアリーナは主要な駅から徒歩10分以内という極めてアクセスの良い場所にあることがほとんどだった。Jリーグでは、最寄りの駅からバスで30分行かないとスタジアムに辿り着けないこともあるのだ。「箱」については大きなアドバンテージがあると言える。
■BリーグとJリーグを繋ぐもの
Bリーグの一番の懸念は、地域に密着し、根づくことができるかどうかである。これは、Jリーグが20年以上かけて散々苦労してきたテーマでもある。成功例はあるが、多くのチームは地元の関心を得るために苦心し続けている。何かを文化として根づかせていくのは簡単ではない。
そういう意味では、BリーグとJリーグは、同じ志を持ち、同じゴールを目指している仲間だと考えることもできる。地域にサッカーだけを、バスケだけをと考えると「競合」してしまうが、地域にスポーツ観戦文化を根づかせると考えるのであれば「共生」することが可能である。
Bリーグ、Jリーグの双方が存在するケースはすでに多いし、これからも増えていくことだろう。お互い無関心で、それぞれの運営をしていくよりは、連携していくべきであろうと考えている。例えば、試合の開始時間をなるだけずらして、両方とも観戦できるようにすることや、地域へのPR活動を共同で行うことなど、様々なアプローチが存在する。
地元の人だけではなく、スポーツツーリズムとして地方都市を訪れようとした場合にも、バスケとサッカーが両方楽しめるように工夫されていれば、充実した国内旅行を楽しむことができる。
例えば、10月8、9日の土日を使って熊本へ旅行する。その場合、8日16時にロアッソ熊本vsザスパクサツ群馬の試合を観戦し、翌日9日の14時には熊本ヴォルターズvs島根スサノオマジックの試合を観戦することができる。14時に試合開始なら、日曜日のうちに帰宅することも十分可能であろう。
このケースで一番もったいないのが、8日の試合時間がかぶっていることなのである。サッカーは16時から、バスケは17時からで、片方しか見ることができない。試合のスケジュールは簡単には決められないものなのは承知の上であるが、サッカーを1時間早め、バスケを2時間遅らせることができた上で、競技上間の移動方法さえ、県外の人間でも把握できるならば両方とも楽しむことができるのだ。
その上で、2試合の通しチケットの販売や、直通バスなどを整備すれば、非常に便利になる。言葉で言うのは簡単であるが、実施しようとなると、クラブ間あるいはリーグ間の密な連絡と連携が求められる。
日本にスポーツ文化を根づかせていくという意味においては、我々観客も「外野」ではないのだ。バスケとサッカーがどうやって連携していくべきかを考え、声を上げていくことが重要だし、その声こそが「文化」であるとも言える。
文=中村慎太郎