大ケガで2年半、コートから遠ざかり苦渋を味わった。だからこそ、プレーできる今この時を、この瞬間を誰よりも楽しんでいる。昨年、京都ハンナリーズに加入してコンディションは回復途上にあり、今シーズンはキャプテンを託された。4つのチームを渡り歩き、NBLとbjリーグの両側面からバスケット界を見てきた経験と、最前線で体を張って戦い続けるその姿は味方を勇気付けていることだろう。チームのためなら、リーグのためなら、とストレートに口に出さずとも、話していればその想いは伝わってくる。こちらの質問に対して、チームの良さを語りつつ何人ものチームメートの名前を挙げ、一方でリーグ発展を願い、9月22日の開幕戦は「演出にプレーが追いついていないなと感じた部分はある」とあえて苦言を呈した。京都は「ディフェンスをがんばる」チームスタイルで、捉え方によっては地味に見えるかもしれない。しかし、武器は豊富だ。岡田優介の3ポイント、村上直のドライブ、そして攻守における激しいフィジカルコンタクト。会場で見る大柄選手のぶつかり合いは迫力満点だ。そして、その中心には“闘将”佐藤託矢がいる。
インタビュー=樋口隆太朗
写真=京都ハンナリーズ
――今シーズンのチームの特徴を教えてください。
佐藤 うちのスタイルは、まずはとにかくディフェンスをがんばること。バスケットは、点数がたくさん入るスポーツですけど、だいたい60点台前半に抑えられたら、うちの強みが出せたゲームになります。今年は岡田(優介)選手や川嶋(勇人)選手、ローレンス ヒルとかアウトサイドが上手な選手が加入して得点を取れるチームにも変わってきたので、ディフェンスをがんばって、スピーディな展開、外を使う展開に持っていければと思っています。
――チームのキャプテンとして、ここまでの出来はどう見ていますか(2016年10月12日取材)?
佐藤 今シーズンここまでは毎試合タフなゲームで、簡単には勝てないなというのを実感してます。少しでも手を抜くとやられてしまいますし、その分毎回毎回100パーセント、120パーセントの力を出せないと勝てないなと。得意なディフェンスも全然機能していないですし。ただ、その分伸びしろはあると思うんで、これからもっともっと面白いチームになるという可能性を感じています。
――ご自身のプレースタイルを改めて教えてください。
佐藤 個人的には、そういった点数の取れる選手にうまいことパスを回したり、体を張ってリバウンドを取ったり。大きな外国籍選手相手に体を張る仕事、プレーが特徴です。僕は前に大きなケガをして、以前はケガをする前の状態になかなか戻せないなと思っていました。でも、このチームに来ていいトレーナーにも巡りあえたし、浜口炎ヘッドコーチもすごく理解してくれているので、年々コンディションが良くなってきて、今ではもっとできるかなという希望が見えています。
――目標にしている選手、憧れの選手はいますか?
佐藤 カーメロ(アンソニー/ニューヨーク・ニックス)と、ボリス ディアウ(ユタ・ジャズ)が好きですね。カーメロはそんなに身長はないですけど、インサイドも強いし、アウトサイドもうまいところがすごい。ディアウもガタイが良くてそんなに大きくはないけど、パスとかステップインとか、器用なプレー、体を使ったプレーがうまいので、すごく勉強になる。ゴリゴリのインサイドというよりは、ちょっと小さいけど、ビッグマンをうまくかわしたり、体の使い方がうまかったりという選手が好きですね。
――Bリーグが開幕する前と後で、想像と違っていた部分はありますか?
佐藤 いや、僕はbjリーグもNBLも両方経験しているので、そこまで対戦相手にギャップを感じることもなかったですし、敵わへんなと思うこともなかったです。ただ試合以外のところで言うと、これまでよりメディアに多く取りあげてもらってるので、注目度が上がっていると思います。だけど、京都府内でもまだ認知度はそこまで高くないし、もっともっとがんばらないといけないなと、選手としてもチームとしても思います。
――今年はチームの雰囲気がすごく良くなっているとうかがいました。
佐藤 そうですね。アホなやつが多いというか、アホなやつが入ってきてしまったというか(笑)。
――川嶋勇人選手のことですか(笑)?
佐藤 そうですね(笑)。まあ、すごくいいことなんですけど、あいつがおるだけで場の空気が和むんですよ。誰とでも仲良くなれるし、そういった意味ではチームのいい活性剤というか、潤滑油かなと思います。
――Twitterではよくペットの写真などプライベートの様子もアップされていますが、ファンとのコミュニケーションで意識されていることはありますか?
佐藤 僕はSNSを選手個人の宣伝ツールだと思っているので。自分の意志もそこで言えるし、チームのオフィシャル(アカウント)だけだとプライベートまではみんな見られないので、オフシーズンなどはファンの方もそういうのを見たいかなということでやっています。あとは、ちょっとアパレルもかじっているので、そちらのPRも(笑)。
――なるほど(笑)。ちなみにバスケットの他に好きなスポーツはありますか?
佐藤 することはないですけど、ラグビーは好きですね。あとは格闘技とか、コンタクトの激しいスポーツが好きで、逆に野球とかサッカーとかはあまり見ないです。血が沸くような肉弾戦が好きですね。
――9月22日のBリーグ開幕戦(A東京対琉球)はどこで誰とご覧になっていましたか?
佐藤 自宅で嫁さんと見ていました。純粋に演出がすごいなと思って……逆に少し不安になったのが、演出はいくらすごくても、選手としては試合を見ていて「おもんないな」と思われたら嫌でしたね。そのへんをしっかりやらなあかんなと思いました。
――周りの反応はいかがでしたか?
佐藤 周りはバスケしている人ばかりなので、やっぱり分かれますよね。とにかく演出がすごかったという声と、バスケ自体はミスも多かったという声と。自分もやっぱり演出にプレーが追いついていないなと感じた部分はあります。
――最後の質問です。バスケットが「する」スポーツから「観る」スポーツになるためには何が必要だと思いますか?
佐藤 まずは面白いバスケットをする、というのが第一。僕ら選手は9割、試合で表現することしかできないので、とにかく試合を観に来てもらって、また来たいと思ってもらえるように100パーセントの力を出す。うちのチームはみんなファンサービスをたくさんする選手ばかりですし、試合の展開がスピーディだと思うんですよね。8番の村上(直)選手なんかはすごい速くて、一人で持っていって、見ていてもすごいなと思います。そういうプレーはやっぱり会場も湧くし。岡田選手のような大事なところでビッグショットを決めるような選手もいるので、そういった各選手の個性を発信する、キャプテンとしても他の選手にスポットを当てていくということをSNSでもやったり。あまりうちのチームはSNSをやっている選手がいなくて、オフシーズンの活動とかは知らないと思うので、そういったことも伝えていくとか、プラスになることであればどんどんやっていきたいですね。
1983年8月25日、大阪府出身
198㎝/102㎏
青山学院大学から三菱電機(現名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)に加入。2009年に重傷を負い長期離脱を強いられるも、2012年に復帰。昨年から京都ハンナリーズでプレーする。恵まれた体格を活かし、ゴール下で圧倒的な存在感を見せる。