2016.10.25

田中大貴が語る米国での武者修行、歴史的な開幕戦、意外なハマりもの

日本バスケ界の期待を背負うA東京の田中大貴 [写真]=山口剛生
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アルバルク東京の“顔”であり、Bリーグ開幕戦を迎えるにあたってはメディア露出がひと際多かった。その注目度からもわかるように、田中大貴は“レジェンド”田臥勇太(栃木ブレックス)に次ぐ、新たなスター候補として大きな期待を寄せられている。だが、まだ25歳になったばかり。伸びしろは大きく、まだプレーヤーとしての完成形は見えていない。思い描く理想像もとてつもなく大きい。「すべてにおいてトップの数字を出すことも可能」。真顔で言うからには信じてみたい。もっとも、あれだけ耳目を集めても浮かれることはない。自分のプレーには「全然納得できていない」。着実に勝ち星を重ねるA東京は「もっともっと良くなる」。生真面目に見えて、実際に生真面目。飄々とプレーしているイメージがあり、話す時も淡々としている。しかし、真剣にバスケを語るその一方で、意外な一面も見せてくれた。趣味やハマっていること、好きなスポーツ。ほほを緩ませ、「最近コーヒーにハマってます」なんてことも言う。ひた向きなスター候補にして、このギャップもまた彼の魅力だ。

インタビュー=安田勇斗
写真=山口剛生、Bリーグ

――ここまでのチームの出来についてどのように捉えていますか?
田中 昨年のチームからメンバーが大きく変わって、まだ選手間でお互いがやろうとしていることや、持ち味、特徴を完全に把握できていないところがあります。(伊藤拓摩)ヘッドコーチが求めていること、やろうとしていることができているかと言ったらまだできていない。HCはよく「まだ半分にも満たない」と自分たちに言っています。チームの完成度が50パーセントにも達していないと。自分たちもその感覚はありますし、今はまだそういう段階だと思っています。

――6試合を終えて5勝1敗とまずまずの成績を残しています(2016年10月13日取材)。
田中 そうですね。勝ってはいますけど、自分たちが納得できる内容ではないので。もっともっと良くなるとみんな思っているはずです。その中でも、勝ちがついてきているのは最低限良いこととは思いますけど。

――自分のプレーについて「得点にこだわる」と発言していましたが、ここまでのプレーをどう評価していますか?
田中 全然納得できていません。チームのシステムを全員が理解できていないところがあって、その中で自分が思うようにプレーできていない現状があります。昨シーズン終盤のような、チーム内での意思疎通ができていないので、モヤモヤした気持ちがありますね。

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――やりたいシステム、戦い方を具体的に言うと?
田中 うちは誰か1人の個人技というより、チーム全員でボールを動かしてできるだけベストショットにつなげようと考えています。なので、お互いの息が合っていないといいオフェンスが生まれないんです。それが今はうまくいかない方が多いですね。

――9月22日、琉球ゴールデンキングスとのBリーグ開幕戦(80-75でA東京が勝利)は大きな注目を集めました。改めてこの時の想いを聞かせてください。
田中 開幕戦のコートに立たせてもらったことは、本当に貴重な経験になりました。入場して周りを見た時は、今まで感じたことのない想いが込みあげてきて、幸せな気持ちを味わうことができました。

――プレッシャーはなかったですか?
田中 あれだけメディアから注目されて、あの試合の持つ意味、大きさは自分もチームメートも感じていましたし、もちろんプレッシャーがなかったわけではありません。でも自分は、どちらかというと楽しみな気持ちの方が大きくて、実際、翌日の試合(74-53でA東京が勝利)も含めて開幕戦はすごく楽しかったです。

――緊張はしないタイプ?
田中 いや、しますよ(笑)。試合が始まるまではいろいろなことを考えてしまうタイプなのでいい緊張ではないと思いますけど、始まって雰囲気に慣れると落ち着いてきます。

――注目されることで、自分の周りで変化などは感じましたか?
田中 ありがたいことに、たくさんのメディアに出させていただいて、地元の長崎の友達とかいろいろな方から連絡をもらいました。一番うれしかったのはお世話になった小中高大の先生方から連絡をいただいたことですね。

――LEDコートが話題になりましたが、選手からするとプレーするのが大変なのでは、という声もありました。
田中 自分は全く気にならなかったです(笑)。後から映像を見て、シュートが決まったらこう変わったんだって知ったぐらいで、やってる側は全然わかりませんでした。チームメートともちょっと話しましたけど、みんな気になったりはしなかったみたいで。もちろん違和感はありましたけど、気になるほどではなかったですね。

――開幕戦を終えてしばらく時間が経ち、周囲も少しずつ静かになっていると思います。今はどういう精神状態で試合に臨んでいるのでしょうか?
田中 チームができあがってなくて、自分もスムーズにプレーできていないですし、そこにフラストレーションを感じる部分があります。それを早く改善して、自分はこれだけできるんだ、というのを見せていきたい気持ちが強いです。そうするにはチームでプレーを重ねないといけないので、今はとにかく試合をどんどんやりたいです。

――個人としての目標得点などはありますか?
田中 具体的にはないですけど、1試合でチームが攻める回数であったり、自分がシュートを打つ回数であったりは大きな差がないんです。それを計算すると全部決めて20点台前半ぐらいなので、20点前後をコンスタントに取れればと思っています。

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――7月に1週間、アメリカのラスベガスでトレーニングをしたそうですね。
田中 以前からオフシーズンに海外でトレーニングをしたいと思っていました。でも代表活動などでなかなかタイミングがなく、今年ようやく時間ができたので行きました。

――ラスベガスには特別な施設などがあるのですか?
田中 いや、たまたまラスベガスだっただけで。練習を見てくれたコーチが、NBAのサマーリーグを見に行くという話だったので、人づてにコンタクトを取ってもらってそこに合わせてラスベガスに行きました。

――何名か集まってのキャンプだったのですか?
田中 今回はマンツーマンでした。昨シーズン、ブルックリン・ネッツのスキルコーチを務めた方に指導していただきました。自分が来る前に、ちょうどNBA選手のカイル・コーバー(アトランタ・ホークス)を見ていたそうで、ポジションが同じですごくシュートがうまい選手なんですけど、その後に見てもらうのはいい経験になりました。

――どんな指導を受けてきたのでしょうか?
田中 自分の昨シーズンのプレー動画を送っておいて、それを見てもらい、ここを直した方がいいとか、映像を見ながら練習していました。

――具体的にどんなプレーに対して指摘を受けたんですか?
田中 専門的なことになりますけど、まずはゴールへのアタックがないと。もっともっとゴールにアタックできるし、ドリブル一つにしても弱いと……。

――ドリブルが弱い?
田中 映像で見るとわかりづらいですけど、NBA選手のドリブルは全然違うんですよ。日本人はもともとドリブルが弱いと言われていて、そういう基本的なところから指導してもらいました。世界トップの選手たちを指導している方なので、本当に勉強になりました。

――その指導を受けて、今の練習に採り入れているものはありますか?
田中 シュートに関してはいろいろと意識しています。自分の前に、NBAでベストのシューターと言われている選手を教えて、その後に同じメニューを与えられましたたけどやっぱり確率の差がありました。「あの選手は何本決めた」とか言われましたし(苦笑)。シュートは普通に打つだけじゃなくて、ボールをキャッチする時に自分で反転して受けたり、バランスを変えて受けたり、いろいろなパターンを練習できたのですごくタメになりましたし、今に活かしている部分もあります。

――憧れている選手はいますか?
田中 特別に誰っていうのはないですけど、NBAの試合は結構見ますね。自分はガードなので、ガードの選手はよく見てます。

――3ポイントを打ち、中に切れこむプレーもできる、マルチな選手だと思います。自分では一番の武器は何だと思いますか?
田中 判断だと思います。他の選手と比べていろいろなシチュエーションでいい判断ができているかなと。周りもよく見えていて、味方が無理に行くところを、自分だったら、というのも瞬間瞬間で考えられているので。

――その判断力はどう培われたのですか?
田中 どうなんですかね(笑)。大学3、4年ぐらいからそう感じています。3年の時に初めて日本代表に入って国際大会を経験しました。やっぱり大学とは全然レベルが違いますし、そういう場に身を置けたので、帰ってきた時は気持ちに余裕を持てるようになったんです。それから周りがよく見えるようになった感覚はありましたね。

――では逆に、一番の課題は?
田中 自分はさっき言われたとおり、「何でもできる選手」って言われてきました。シュートが打てるし、パスも出せるし、ディフェンスもできると。でも全部の技術がリーグでベストかと言ったらそうじゃない。平均的にいろいろなことはこなせるけど、突出したものがないんじゃないかと思ってて。自分は、シューターだからシュートだけはすごいものを持ってるというのは嫌で、何でもやりたいタイプなんですけど、その「何でも」のレベルを一つずつ上げなきゃいけないと思っています。

――そうなるためには、これからどう取り組んでいくべきと考えていますか?
田中 一番わかりやすいのは数字ですよね。数字を残すこと。プレータイムが少ないわけじゃないし、すべてにおいてトップの数字を出すことも可能だと思っています。そこにこだわってプレーすることも大事かなと。

――難しい目標だと思います。
田中 そうですね。シューターとして生きている選手は絶対そこが欲しいわけで、すべての項目にそういう選手がいる中で勝つのは難しいですけど、でも自分は欲張りなので狙っていきます。

――アメリカだけでなくヨーロッパでのプレー願望もあるそうですね。
田中 はい。大学を卒業して、一度ドイツで2週間ぐらい練習に参加させてもらいました。石崎(巧/名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)さんが所属していたチーム(MHPリーゼン・ルートヴィヒスブルク)で練習して、試合も見たりして。Bリーグの開幕戦のような雰囲気が毎試合当たり前のようにあって、こういうところでプレーできたら楽しいだろうなと。レベルも高いですし、アメリカにこだわらず、ヨーロッパでもプレーしてみたい気持ちはあります。外国人枠などもあって行ける国、行けない国がありますけど、そういうチャンスがあればぜひ行ってみたいですね。

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――ちなみにオフはどのように過ごしていますか?
田中 あまり疲れることはしたくなくて(笑)、ずっと家にいることはないですけど……。

――趣味などは?
田中 食べることが大好きです。人気と言われるところ、おいしいと言われるところに食べに行くのが好きですね。それが唯一のリラックス方法かもしれないです。おいしいものを食べるためにがんばってるみたいな(笑)。

――行列に並んだりも?
田中 いや、待つのが嫌いなので、予約して行きます(笑)。

――最近ヒットした食べ物は?
田中 同じ東海大学出身で、リオデジャネイロ・オリンピックで銅メダルを取った柔道の羽賀(龍之介)とすごく仲がいいんですよ。その羽賀と一緒に行った阿佐ヶ谷の焼き肉屋さんは本当においしかったです。

――食事で気をつけていることはありますか?
田中 細かくこれを食べないというのはないですけど、基本的に体に良くないものは食べないです。甘いものも本当は好きなので食べたいですけど(笑)、体に良くなさそうだったら避けてます。

――今ハマってるものなどはありますか?
田中 最近コーヒーにハマってます。これも知り合いにおいしいコーヒー屋さんに連れて行ってもらったことがきっかけで(笑)。もともと詳しくないんですけど、そのお店は「違う」と自分でもわかって、そこから興味を持つようになり、いろいろなお店に行きました。それから豆を挽く機械を買って、自分で作ったりして。練習に行く時は車で移動しているんですけど、毎朝家を出る前にコーヒーを作って、車の中で飲んでます。

――意外な一面ですね。ではバスケット以外で好きなスポーツはありますか?
田中 格闘技が好きです。羽賀の試合を見ることもありますけど、一番見るのはボクシングですね。長谷川穂積さんがめっちゃ好きで。高校ぐらいから見始めて、長谷川さんのキレイなボクシングがカッコ良くてずっと応援してます。

――リオ五輪の予選では日本代表メンバーから落選してしまいました。代表についてはどんな想いを持っていますか?
田中 メンバーに入れなかったのは自分の責任です。自分の力が足りなかったので、もう一度アピールしていきたいと思っています。今はそれがモチベーションの大部分を占めていますし、本当に一からやっていくしかないなと強く感じています。

――これまで代表を経験してきて、世界と日本のどこに差は感じますか?
田中 うーん、何だろうな……すべて(笑)。よく日本の選手はシュートがうまいって言われるんですけど、全然そんなことはないと思います。今は大きくてもシュートがうまい選手はたくさんいますし。日本人は特にフィジカル面で劣っていて、そこをカバーするには相当な努力が必要ですし、現時点ではすごく大きな差があると思います。

――その差をどう埋めていきますか?
田中 一つは数をこなすこと。もっと試合をする機会を増やすのが大事かなと。

――国際試合を?
田中 そうですね。もし試合を一気に増やすことができないなら、さっきのラスベガスの話じゃないですけど、外に出ていろいろな経験を積むべきです。日本のリーグで日本人と試合をするばかりじゃなく、日頃からもっと高いレベルでもまれていくことも大事かなと。一番早いのは、やっぱりそういう環境に飛びこむことだと思うんです。

――まだ25歳と若いですが、3年後には中国ワールドカップ、4年後には東京五輪が控えており、将来的に日本バスケット界を引っ張っていく存在になってほしいという期待の声もあります。
田中 まだそういう感覚はなくて、まずはこのリーグでトップレベルの選手にならないといけないですし、それを証明したいと思っています。実際にそういうプレーができて、それを見た方々に「あいつが引っ張ってくれている」と感じてもらえたらいいかなと。自分が引っ張っていくぞ、というより自分が一番いいパフォーマンスをして、それをどう思ってもらえるか、今はそう考えてプレーしています。

田中大貴(たなか・だいき)/アルバルク東京 背番号24
1991年9月3日、長崎県出身
192㎝/93㎏
長崎西高校で全国大会を経験し、東海大学在学中の2012年に日本代表初選出。2014年、アーリーエントリー制度で現クラブに加入した。正確なアウトサイドシュート、絶妙なアシスト、堅実なディフェンスと多彩なプレーで攻守に輝きを放つ。

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