【インタビュー】驚異のスコアラー“サンダース・ベイダー”がBリーグを震撼させる

彼がベンチから出てきた時、アリーナ内の空気が一変する。ライトアップされたコートが突如として暗闇に包まれるような、そしてダース・ベイダーの登場曲が聞こえてきそうな、そんな錯覚を起こす。互角以上に渡りあっていた相手は勢いを削がれ、またビハインドを背負った相手は戦意喪失に陥る。その圧倒的存在感に敵チームの選手たちは恐怖におののく。2メートル10センチの背番号22はNBA経験者にしてBリーグ最高のスコアラーだ。川崎ブレイブサンダースでは在籍5年目を迎え、日本のバスケットボールも熟知する。誰がこの大型センターを止めるのか。“サンダース・ベイダー”ニック・ファジーカスを抑えなければ川崎を倒すことはできない。

インタビュー=安田勇斗
写真=山口剛生

――ここまでのチームの出来をどのように見ていますか(2016年11月11日取材)?
ファジーカス 開幕節で2連敗してしまいましたが、そこから調子は上がってきています。この調子で行けば、良い成績を残せると思います。

――すでに地区首位に位置していますが、さらにチームを良くしていくには何が必要だと思いますか?
ファジーカス 今の調子を保つことが最も重要です。その上で少しずつパフォーマンスを上げる。ピークを今に持ってくると、長いシーズンを乗りきれません。今シーズンは60試合ありますが、今の良い状態をキープしながら、徐々に調子を上げていくことができれば、最後にはとても良いチームになります。

――自身は得点ランクを独走しています(11月20日時点で1試合平均29.1点。2位に8点差以上をつける)。
ファジーカス いいスタートを切ることができました。今年の夏にシューティングの練習をした効果が出ているのだと思います。3ポイントの成功率もいいですし、フリースローもよく決まっています。実は今年は練習のルーティンを若干変えたんです。そのおかげでシュートが安定しているんだと思います。

――そのルーティンとは?
ファジーカス 一つはフィットネスバイクのトレーニングを採り入れたことです。NBAでも取り組んでいる選手が結構いて、自分の妻もバイクを使ったエクササイズを気に入っているんです(笑)。それでアリゾナでのオフのトレーニングに採り入れたのですが、おかげで下半身が強くなり、足の関節にも良い効果を与えています。成果が出ているのでシーズン中も続けています。

――多くの外国籍選手がいる中で、どうしてこれだけ多くの得点が挙げられると思いますか?
ファジーカス 自分が一番努力しているからだと思います。特にシーズンオフはとてもハードなトレーニングをしました。自分はシーズンオフの間に何をするかでうまくなれるか、うまくなれないかが決まると思っています。もっともっとうまくなりたいですし、そのためにはもっと練習しないといけない。その積み重ねが結果につながっているんだと思っています。

――参考にしている選手、目標にしている選手はいますか?
ファジーカス 真似したい選手や、なりたい選手はいません。一番うまい選手になりたい、それだけです。ただ、他の選手のプレー以外の部分、例えばコービー・ブライアント(元ロサンゼルス・レイカーズ)のメンタルの強さやバスケットへの情熱、そういう生き方の部分では参考にしているところはあります。

――得点を挙げ続けることで、相手チームからは恐れられ、毎試合のように警戒されています。プレッシャーは感じますか?
ファジーカス 感じません。自分がやれることをやれば、自ずと結果がついてくると思っていますし、チームメートやスタッフの、自分を支えてくれる気持ちを強く感じているので。

――一度ベンチに下がって、また出てくる時、相手チームの選手は「うわっ、出てきたよ」と強い恐怖感を覚えると思います。それこそ『スター・ウォーズ』のダース・ベイダーが登場するような(笑)。
ファジーカス ハハハ(笑)、ダース・ベイダーは好きですよ。以前マイク・タイソンのドキュメンタリーを見た時、相手選手が試合前に「もう終わりだ」という表情をしていたんです。実際、相手からそう思われる時があることは感じています。自分もそういう存在に、それぐらいうまい選手になりたいですし、ダース・ベイダーやマイク・タイソンの役を務めることに嫌な気持ちはありません。

――そのプレッシャーを感じない、メンタルの強さはどうやって手に入れたのでしょうか?
ファジーカス いい質問ですね(笑)。それはベストを尽くしたい、一番いい選手になりたいという気持ちが強いからだと思っています。小さい時から、高校時代、大学時代、そしてNBAと、自分がプレーした場所で一番うまい選手が誰だったかはわかっていました。それを知るたびに、自分はその選手にチャレンジしたい、その選手よりうまくなりたいと思って練習していたんです。今もその気持ちは変わりません。試合を見に来た方々に「やっぱりニックが一番うまい」と思ってもらえるように一生懸命プレーしています。

――来日して5年目、日本に対してどんなイメージを持っていますか?
ファジーカス みんな親切で優しいし、お互いをリスペクトしているので、とても好きです。あとどこに行っても安全で、危険なところがないので住みやすい国だと思います。

――文化にはすぐになじめましたか?
ファジーカス はい、すぐになじめました。苦労していることを強いて挙げるなら言葉の問題だけです。ヨーロッパでプレーしている時は、書いていることが読めたのでどのお店にも入れましたけど、日本では文字が読めないので何が売っているお店かわからないんです(笑)。

――ちなみに、オフはどのように過ごしていますか?
ファジーカス よく妻と外食しています。いろいろな食べ物に挑戦しましたよ(笑)。お好み焼きはすごくおいしかったですし、ラーメンも大好きです。お寿司は苦手ですけど、餃子、牛丼、天ぷらもおいしいですね。この辺だと、ラゾーナ(川崎プラザ)によく行ってますよ(笑)。

――店名が出るとブースターも親近感が沸くと思います(笑)。趣味はありますか?
ファジーカス スポーツをよく見ています。NFL、野球、NBA、あとBリーグの試合も見ますね。それと『ロゼッタストーン』というサービスを使って日本語も勉強しています。あとは料理が好きです。得意料理などはないですけど、パスタなどを作ったりしています。

――では、日本のバスケットについてはどんなイメージを持っていますか?
ファジーカス 徐々にレベルが上がってきていますが、まだ世界のレベルには届いていないと思います。よく周りの人とも話すんですが、何が足りないかは自分も答えを見つけられていません。ただアメリカと違う点として、日本はいろいろな競技を経験していない選手が多い印象があります。例えば自分は、ゴルフ、テニス、バスケット、野球、(アメリカン)フットボール、ローラーホッケー、サッカーといろいろなスポーツを経験してきました。でも日本人の多くは、子どもの頃からずっと同じスポーツを続けています。自分はサッカーをやってフットワークが磨かれましたし、テニスをやってクイックネスが良くなり、ゴルフをやって集中力がつきました。アメリカ人全員というわけではありませんが、少なからずこうした経験は運動能力を高める上で、とても良い影響を与えていると思います。

――バスケット1本に絞ったのはいつ頃ですか?
ファジーカス 確か14歳の時だったと思います。5歳でバスケットを始めて、いろいろなスポーツをやりつつ、野球は13歳まで続けていました。ゴルフを続けなかったのは少し後悔しています(笑)。ゴルフは今も大好きで、シーズンオフにアメリカに帰ったらすぐにゴルフをやっています。

――これだけ長く日本にいると帰化の話も出てくると思います。
ファジーカス 何度かそういう話もありましたが、最近はあまりないですね。まだ真剣に考えたことはないですけど、可能性は否定しませんし、チャンスがあればと思うことはあります。

――日本代表はサイズで劣るところがあり、5番の選手は待望されていると思います。
ファジーカス サイズもそうですけど、それよりチームを引っ張る存在がいないかなと。確実に点を取ってくれるとか、絶対にリバウンドを取ってくれるとか、そういった存在感のある選手が必要だと思います。

――お世辞抜きで、日本人でNBAでも通用しそうな選手はいますか?
ファジーカス 来日した時、川村(卓也/横浜ビー・コルセアーズ)はそのレベルにあると思いました。最近はケガもありましたけど、他の日本人選手と違ってサイズがありながらスキルもあるので、NBAでもプレーできると感じました。

――やはりサイズは不可欠ですか?
ファジーカス そうですね。川村のように190センチ以上あって2番ができるような選手でないと難しいと思います。180センチ前後の小柄な選手もいますけど、そういう選手は驚異的なクイックネスを持っています。日本にはそこまで速い選手はいません。

――ではヨーロッパはいかがですか?
ファジーカス それはたくさんいます。チームメートの辻(直人)、比江島(慎/シーホース三河)、古川(孝敏/栃木ブレックス)、竹内兄弟(公輔/栃木、譲次/アルバルク東京)、田中(大貴/A東京)……。ただヨーロッパは国によってレベルが違いますし、行くことで多くのことを犠牲にしないといけないので、移籍することが良いか悪いかは難しいところですね。自分は日本になじめましたけど、言葉が通じないところ、知人もいないところで生活するのはとても大変です。日本より良い環境の国は少ないですし、プレーに悪影響が出ないとも言えないですしね。

――「うまくなりたい」と何度も口にしていますが、自分が考える最終目標、プレーヤーとしての理想像は?
ファジーカス 1年目から言い続けていますが、川崎ブレイブサンダースでずっとプレーしたいです。そして、できるだけ多く優勝を経験したい。このチームなら常にタイトルを狙えると思いますし、自分が結果を出した上で優勝できたら最高ですね。

――何歳までバスケットを続けたいですか?
ファジーカス 一番仲がいい友人には「永遠にプレーできるんじゃない?」って言われますよ(笑)。でも実際、運動能力に頼ってプレーするタイプではないので、36歳、37歳、38歳、39歳、もしかしたら40歳までプレーするかもしれません。体の調子によりますけど、できるだけ長くプレーしたいですね。今はコンディションがとてもいいんです。シーズンオフのトレーニング、シーズン中の自己管理のおかげでいい状態を維持できています。このままコンディションを保って、まずは今シーズン、いい結果を出したいですね。


■プロフィール
ニック・ファジーカス川崎ブレイブサンダース 背番号22
1985年6月17日、アメリカ出身
210㎝/111㎏
NBAのダラス・マーベリックスでデビューを飾り、ヨーロッパとアジアの各国の渡り歩き、2012年に東芝ブレイブサンダース神奈川(現川崎ブレイブサンダース)に加入。210センチの高さと正確無比なシュートを武器に得点を量産し続ける。


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