輝かしい歴史を誇る日本屈指の強豪クラブ、三河を支える戦術“桜木ジェイアール”

川崎戦で20得点を挙げた桜木ジェイアール [写真]=B.LEAGUE

 Bリーグ第24節は屈指の好カード、川崎ブレイブサンダースシーホース三河の対戦。5月に控えるBリーグ初のチャンピオンシップでも相まみえる可能性のある強豪同士の試合は、三河の圧勝という予想外の展開に終わった。この勝利の立役者となったのが三河の絶対的な存在、桜木ジェイアールだ。

 物憂げな表情で、小首を傾げながらプレーする姿が印象的な203センチのパワーフォワードは、遡ること22年前の1995年、当時1年生ながらカレッジバスケットボールの名門UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)のメンバーとしてNCAAトーナメントを制覇した経験を持つエリートだ。その3年後の1998年、ドラフト2順目全体の56位でバンクーバー・グリズリーズに指名されNBA入りを果たす。ドラフト同期には、“エア・カナダ”ビンス・カーターや、先日NBA史上6人目の通算3万得点を達成したダーク・ノビツキー、エルボーパスなどのトリッキーなスキルで人気を博したジェイソン・ウイリアムスなど多才な面子がそろっている。

 NBAを経験した後に、フランスリーグ、ベネズエラリーグを経て、2001年に助っ人外国人JR・ヘンダーソンとして、シーホース三河の前身であるアイシン精機アイシンシーホースに加入。2007年7月2日に帰化申請が認められ、桜木ジェイアールとして北京オリンピック予選に参戦した実績もある。ちなみに桜木と言えば、『スラムダンク』の赤い髪の暴れん坊をついつい想起するが、桜木の由来は花道とは全く関係なく、「日本人にとって希望と明るさの象徴である桜の木にちなんで」ということらしい。「スキンヘッドと赤い坊主頭じゃ全然違う」とか「プレースタイルも漫画と違う」などの意見や感想は、全くのお門違いということだ。

『スラムダンク』の桜木花道がデニス・ロッドマンを彷彿させるようなリバウンドマシーンだったのに対し、桜木ジェイアールのプレースタイルは昨年7月に惜しまれつつ引退した元サンアントニオ・スパーズのスーパースター、ティム・ダンカンに近い。シュート、ディフェンス、リバウンドとペイントエリアの仕事をすべて高次元でこなし、特に広い視野から繰りだされるパスは秀逸だ。三河の攻撃の起点は桜木であり、三河の戦術が桜木と言っても過言ではない。

 川崎市とどろきアリーナで積年の好敵手、川崎を撃破した3月17日の試合でも、チームトップの20得点に加え、6リバウンド3アシストとマルチな活躍を見せ、チームとしても92点を奪う強力なオフェンスの原動力となった。試合後のミックスゾーンで取材に応じた桜木は、NBL最後のファイナルの雪辱を期する気持ちはあったかと問われると「全くなかった。0パーセントだ。あのファイナルから10カ月以上も経っており、今の川崎は全く違うチーム。新しいチームと対戦しているつもりだ」と冷静に語った。

 一方で、5月に控えるチャンピオンシップに話が及ぶと「最近は、チャンピオンシップのことをよく考えている。今までとは全く違う新しいチャンピオンシップであり、ファイナルになる」と、Bリーグ初代王者に向けての戦いをすでに見据えている。

 桜木はプレーでチームを引っ張るだけではなく、今シーズンは特に、チームメートへアドバイスを送る姿が目立つようになった。キャプテン橋本竜馬の負傷離脱により、スタートのポイントガードを務めた狩俣昌也が、ゴール下でフリーになった桜木の動きを見落とすシーンがあった。桜木はその後、プレーが切れた後に、狩俣の元へ駆け寄ると一言、二言声を掛けた。そうした姿に、桜木は「自分から見て、もっと良くした方が良いと思うことははっきりと言わないと、良いチームメートとは言えない。意識してアドバイスしている」と語る。実力、実績ともにリーグ有数のベテランの財産は、脈々とチームの若手へと受け継がれていることを感じさせた。日本屈指の強豪クラブの座を長きにわたって守り続けるシーホース三河。このあたりがまさに、クラブの強さの源泉なのだろう。

文=村上成

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