【連載】“破天荒Bリーガー”川村卓也の「意趣タク逸」Vol.02-1 憧れのNBAを語り尽くす

日本人初となる高卒のトップリーグ選手で、リンク栃木ブレックス(現栃木ブレックス)時代には3度の得点王に輝き“オフェンスマシーン”の異名を取る。2005年、10代で日本代表に初選出され、以降日の丸を背負って長年活躍。バスケット界に身を捧げてきた川村卓也とはいったいどんな男なのか。直言居士な彼の言葉からすべてを解き明かしていく。連載第2回目のテーマはNBA。前編では、小学生時代からマイケル・ジョーダン(元シカゴ・ブルズ)を崇め、以降のキャリアでも常に憧れ続けた本場のバスケットについて語ってもらった。

インタビュー=安田勇斗
写真=山口剛生、Getty Images

――小4でバスケットを始めて、学生時代はマイケル・ジョーダンに夢中だったとのことですが、NBA自体はいつ頃から見るようになったのでしょうか?
川村 その時から見てましたよ。ちょうどブルズが2度目のスリーピート(3連覇)を達成する頃(1996年~98年)で、ミニバスの練習がなかったり、空き時間があったりした時は録画した『スラムダンク』と並行して、マイケル・ジョーダンのビデオを見てました。ジョーダンのフェイダウェイを真似してみたり、ジョーダンみたいに舌を出すと集中力が上がると聞いてやってみたり、子供ながらに尊敬してました。

――他の試合や選手を見ることもありましたか?
川村 あまりなかったです。小学生の時はずっとブルズのゲームを見てました。

――中高生になってからは?
川村 中学校に上がってからは上下関係などに悩んだりして、バスケから気持ちが離れつつある時期もあって。高校時代もNBAより遊んでる方が楽しいなと思って(笑)、あまり見てなかったですね。

――上下関係に悩む様子が想像つかないですね(笑)。
川村 先輩が厳しかったんですよ(笑)。中学1年生と3年生ではパワーが全然違うし、経験値にも差があるから歯が立たないんですよね。そこで反抗というか、その場から逃げようとする自分がいて。敬語を使うとか、挨拶をするとか、当たり前のことをやることに苦しんでて(笑)。投げやりな気持ちで、だったら先輩だけでバスケやればいいじゃんってふてくされてました。……ああ、でもユニフォームは着てましたね。

――私服で?
川村 そうです。中学生の時に、アレン・アイバーソン(元フィラデルフィア・76ers)のユニフォームを着てました。当時流行っていたB系のファッションしか知らなくて(笑)、それに合わせて。あとデニス・ロッドマン(元シカゴ・ブルズ)の顔がプリントされたTシャツも着てましたね。白いTシャツに顔が大きく入ってるんですけど、髪の毛の色だけが違う同じデザインのものがいくつかあって、僕は黄緑とオレンジと赤の3色を持ってました(笑)。

――NBAへの憧れは少なからず持ってたんですね。
川村 そうですね。だからバッシュも意識してましたよ。ラトレル・スプリューウェル(元ゴールデンステート・ウォリアーズ)とか、ヴィンス・カーター(メンフィス・グリズリーズ)とかのモデルはよく憶えているし、ロッドマンの『コンバース』のモデルも履いたりしていました。高校時代からはカッコつけたい時期に入って(笑)、そこからはずっと『ナイキ』なんですけど、最初はジェイソン・キッド(元ニュージャージー・ネッツ)と田臥(勇太)さんが着用してた『エアーズームフライト5』を履きました。まあそういう憧れはありましたけど、当時のNBAの知識はほとんどないですよ(笑)。

――では18歳でオーエスジーフェニックス(現三遠ネオフェニックス)に加入してからはいかがですか?
川村 当時の中村和雄監督から教育されましたね(笑)。DVDを与えられてよく見ましたし、NBAのプレーを元に根本的なところから指導してもらいました。

――特に意識して見ていた選手はいますか?
川村 同じシューターのレジー・ミラー(元インディアナ・ペイサーズ)です。

――もう引退間際ですよね(2005年に39歳で引退)。
川村 そうですね。こういう選手が長い間活躍できる、というのを教えてもらいました。その時のオーエスジーは、ポイントガードとセンターと、3人のシューターでチームを構成していたんです。シューターは自分でクリエイトしてチャンスを作るのではなく、与えられたチャンスを確実に決めることが求められていました。そこでレジー・ミラーやレイ・アレン(元ボストン・セルティックス)のプレーを参考にするようにと。当時のチームには朝山正悟広島ドラゴンフライズ)さん、堀田剛司(現新潟アルビレックスBBアシスタントコーチ)さん、北郷謙二郎(元オーエスジー)さんと自分もいて、2ポイントの倍ぐらい3ポイントシュートを打ってましたよ(笑)。

――実際にレジー・ミラーのプレーで参考にしている部分はありますか?
川村 トラッシュトーク(言葉で挑発して、相手の調子を乱すこと)。マイケル・ジョーダンもそうなんですけど。

――どんなことを言うんですか?
川村 相手をけなすというより、メンタルを削っていくような言葉ですね。フリースローの場面で「さっきのフリースローはこうだったけど、今度は……」とか、「さっきあいつエアボールだったけど大丈夫?」とか無駄に話しかけて、いかに相手を緊張させるかを意識しています。ただ、こういうことを言う以上は、自分が一番やらないといけないと思ってますよ。

――逆に言われることもあるんですか?
川村 よくありますよ。特に外国籍選手は言ってきますね。大事な場面で「お前はここで決められないよ」って言われたり、「集中してるね」って冷やかされたり(笑)。

レジー・ミラーはNBA屈指のシューターとして名を馳せ、1994年にはドリームチームの一員として世界選手権優勝を果たした[写真]=Getty Images

――その後はどんな選手を見ていましたか?
川村 25、26歳だとコービー(ブライアント/元ロサンゼルス・レイカーズ)がNBAを制圧していた時代で、僕自身はドウェイン・ウェイド(シカゴ・ブルズ)とか、カーメロ・アンソニー(ニューヨーク・ニックス)とかを見てましたね。

――この頃(2009年)に、川村選手自身はNBAに挑戦するため渡米しました。
川村 そうですね。その時はジョーダンやコービーのような何でもできる選手を理想としていました。そういう選手を目指してアメリカに行ったんです。でも実際に行ってみるとちょっと違って。僕らのような海外選手にそういうオールラウンドな能力は求めてないんですよね。それこそカイル・コーバー(クリーブランド・キャバリアーズ)のような、来たチャンスを確実にものにする選手になれと。だから現地では、3ポイントシュート、キャッチ&シュートの確実性を高めるために必死に取り組んでいました。

――中村和雄さんがおっしゃっていたことと同じなんですね。
川村 そうなんですよ(笑)。その時の僕は栃木ブレックスに加入して2年目で、オーエスジー時代のキャッチ&シューターからちょっと脱皮したというか、自分でクリエイトして点を取る選手でした。そこから初心に帰って、シュート練習をしました。カズさんに教わったことがすごく意味のあることだったんだと感じましたね。

――NBAの話に戻ります。現在はどの程度見ていますか?
川村 最近は多いですよ。ケータイで見られるんで、SNSでハイライトを見たり、フルタイムでも見たりします。普段あまりテレビを見ないので、結構見る機会はありますね。

――以前のインタビューで、参考にしている選手にラジョン・ロンド(シカゴ・ブルズ)を挙げていました。変わりないですか?
川村 そうですね。自分もああいう選手になりたいです。コート上で常に冷静さを保ちながら、相手のバスケットを完璧に封じるような。常に裏を読める選手でありたいなと思ってます。

――では現在のNBAでベスト5を選ぶなら?
川村 うわ、難しいな。ポイントガードが一番難しいから最後。2番(シューティングガード)は……。

――むしろ同じポジションのそこが一番大事じゃないですか(笑)?
川村 そうっすね(笑)。5番(センター)からいこう。いや、まずレブロン(ジェームズ/キャバリアーズ)を入れたいから……レブロンって何番ですか? 3番(スモールフォワード)?

――3番でいいと思います。
川村 じゃあレブロンを3番。(ステフィン)カリー(ゴールデンステート・ウォリアーズ)は2番ですか?

――1番(ポイントガード)か2番ですかね。
川村 これが難しいんですよ(笑)。カリーは1番ってイメージがないんですよ。僕としては1番はクリエイトする選手なので、アイザイア・トーマス(ボストン・セルティックス)ですね。うーん、でも(ジェームズ)ハーデン(ヒューストン・ロケッツ)と(ラッセル)ウェストブルック(オクラホマシティ・サンダー)も捨てられない(笑)。やっぱ選べない。

――ダメです、選んでください(笑)。
川村 じゃあ2番はカワイ・レナード(サンアントニオ・スパーズ)。

――2番?
川村 いやレブロンが3番なんで(笑)。で、1番はクリス・ポール(ロサンゼルス・クリッパーズ)。アイザイア・トーマスもウェストブルックもカリーもジョン・ウォール(ワシントン・ウィザーズ)も捨てがたいけど、ここはアシストがうまい選手で。誰でも活かせる選手ですから。

――では1番クリス・ポール、2番はレナード、3番がレブロンですね。
川村 4番はクリスタプス・ポルジンギス(ニューヨーク・ニックス)。ああ、でももう1人、すごくいい選手がいるんですよ、名前何だっけ? ……(ヤニス)アデトクンボ(ミルウォーキー・バックス)! うーん、でも最近の活躍ぶりもあるのでポルジンギスでいきましょう。

――最後に5番をお願いします。
川村 逆にここは意外といないんですよね。シャック(シャキール・オニール/元ロサンゼルス・レイカーズ)みたいな絶対的な選手が。アンソニー・デイビス(ニューオーリンズ・ペリカンズ)かな。

――改めて各選手について一言ずついただけますか?
川村 ポイントガードはアシストを量産してくれるタイプが好きなのでクリス・ポールにしました。2番のレナードは攻守のバランスがすごく良くて、日本代表が強くなっていくために見習うべき選手だと思います。3番のレブロンは“無双”(笑)。4番のポルジンギスはまさに“ストレッチ・フォー”で、サイズがありながら内外問わず点が取れる。5番のアンソニー・デイビスは……眉毛(笑)。いや、オールスターでMVPも取ったし、ゴール下の支配者になれる選手ですね。

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