「自分に足りないところを、技術で補おうと思って練習してきた」。自身の特長について深く考えこみながらそう語ったのは、チャンピオンシップ(以下CS)で優勝候補の一つに挙げられるシーホース三河の比江島慎だ。日本代表としても活躍する若きエースは、自分自身をどう分析し、どのようにプレーを選択しているのか。自身によるプレー解説に加え、チームメートの金丸晃輔、桜木ジェイアール両選手からも印象を聞いた。
インタビュー=武藤仁史
写真=黒川麻衣、Bリーグ
――連載第4回目は、プレーの自己分析がテーマです。比江島選手自身の最大の強みはどこにあると考えていますか?
比江島 ドライブが得意、ですかね。シュートよりもドライブが好きです。ドライブの中でも特にステップワークには自信を持っています。
――「比江島ステップ」と呼ばれる独特なステップワークは、どのように完成させたのでしょうか?
比江島 誰かに教わったわけではなく、元々自分で持っているリズムなので、説明が難しいですね。意識しているのは、相手の状況をしっかり見極めながら仕掛けること。NBAだったらマヌ・ジノビリ(サンアントニオ・スパーズ)が独特ですよね。そういった海外選手のステップを参考にしていて、見よう見まねで練習しているんです。
――相手の逆を突いてかわしている印象が強いです。
比江島 そうですね。僕がこう動いたら相手がこう動くという予測ができるので、相手の動きに対応しながら逆を突くことを意識しています。そういうプレーが得意だとは思っています。
――ボールを受け、まず第一に考えることは?
比江島 いやあ……何だろうなあ。
――それでは、ボールを受ける前はどのようなことを考えて動いていますか?
比江島 ボールをもらう前に、僕と相手にズレが生まれてたら楽なんです。自分とディフェンスの選手、もしくはゴールとディフェンスの選手がちょっとでもズレていたら、楽に勝負できますね。
――そのズレを生じさせようと、比江島選手自身はアクションを起こしている?
比江島 僕はあまり受ける前のアクションが多くありません。少しは意識しているんですけどね。そういう場合はピックを使うことが多いです。
――ボールを受ける時に相手とズレが生まれている場合、最初の選択肢はシュートになりますか?
比江島 そうですね。一番最初にシュートを意識します。状況に応じて、フェイクをかけながらドライブに移ります。
――マッチアップする相手として、やりづらい選手はどういうタイプですか?
比江島 あまりフェイクに引っかからない選手です。あとは僕にクイックネスがないので、フェイクに引っかかってもディフェンスに入ってこられる選手はやりづらい。正面に入られるとやっぱり嫌ですね。そういう意味では俊敏性のある選手が苦手かもしれません。
――そういう選手とマッチアップする際は、どのように対処しようと考えますか?
比江島 もう本当に、自分の力だけだとほとんど抜けないですよね(苦笑)。それこそもらう前にズレを作ることを意識します。あとは味方の選手にピックに来てもらうしかないと思います。bjリーグに所属していた選手は初対戦になるので、試合中に相手に合わせてプレーを調整していきます。NBLで対戦したことのある選手は情報もあるので、試合前からある程度の想定をして試合に臨みますね。
――1対1に対する考え方は、学生時代と現在で変わってきていますか?
比江島 仕掛ける方法やタイミングは、大きく変わっていないと思います。ただ今だと、外国人選手をはじめ、自分より大きい選手がゴロゴロいるので。2人目、3人目のディフェンスを見ながら、状況に応じて仕掛けるように変化してきていると感じています。
――自身の身体的な特長はどこにあると思いますか?
比江島 足にしっかり筋肉が付いていると思っています。お尻も人より大きいですね。足は“強い”と思っています。
――足から臀部に掛けての強度はトレーニングによって備わったものですか?
比江島 元々強かったと思っています。加えて、普段から足をより強くしようと意識もしています。筋トレでもしっかり鍛えていますね。
――スポーツ界で体幹トレーニングが流行しているように、他競技のアスリートを参考にすることはありますか?
比江島 いやあ、ないですね……。本当に恥ずかしながら、特に意識したことはなかったです(苦笑)。ただスポーツは大好きなので、よく見ていますよ。サッカーと野球は大好きで、サッカーは国内ではなく海外の試合をよく見ています。野球は地元の(福岡)ソフトバンクホークスの試合を見ることが多いですね。会場に行って見ることもあります。
――比江島選手をカテゴライズするとどういう選手になると思いますか?
比江島 スピードで抜くタイプでもないし、身体的な特長があるわけでもないし……、カテゴライズしづらいですね(笑)。ただ、スピードを補うステップワークには自信を持っています。
――日本では比江島選手に特長が似ている選手が少ないように感じます。
比江島 いや、そうなんですよ。僕もいないと思っています。誰が一番近いんですかね……。日本代表に行っても、みんなクイックネスがありますし。正直思い当たらないですね。どこに行っても独特な動きをするって言われると思います。
――しかしそこに自身の強みがあると感じていますか?
比江島 本当はクイックネスがあればいいんですけどね(笑)。でも、クイックネスがないからこそ、ここまで成長できたと思っています。ステップを工夫して、フェイントの数を増やしていった。自分に足りないところを、技術で補おうと思って練習してきました。それが実を結んだので、今では良かったと思っています。クイックネスがないことが、今の僕を作ってくれたんです。
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■チームメートが見た比江島慎
◎“日本屈指のシューター”が語る比江島慎
金丸晃輔
比江島と言えば、あの独特な緩急のピック&ロールじゃないですか。フワッとしたフィニッシュまでのあの一連の動きは、コート内で見ていても、うまいなと思います。彼いわく「相手の逆を突くようにやっている」らしいです。相手の足の動きを見て、常に逆を狙っていると。とにかく彼のバスケットは予測が不可能なんです。動きが独特ですよね。チームメートとしては役割がはっきりしているので、彼は僕にないことをやってくれる。逆に言えば、彼もキャッチ&シュートはしないですよね。そのように役割がしっかり分かれているので、いいバランスでプレーできていると思います。
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◎在籍年数チーム最長のベテランが語る比江島慎
桜木ジェイアール
オフ・ザ・コートで言えば、今までよりもチームメートと話をしたり、ジョークを言い合ったり、誰かをからかったりと、彼を中心としたコミュニケーションが増えてきていますね。彼は優れた選手で、多くの注目を浴びています。チームの一番うまい選手がそういう役割をすることによって、チームにいいムードができあがっていく。チーム内の交流が多くなっているという点は、彼の成長している部分だと思います。プレー面で言うと、1on1にスペシャルなスキルを持っています。彼がボールを持って1on1を仕掛ける場面を見るのは、個人的に大好きです。時々ギャビン(エドワード)や(アイザック)バッツが、それを邪魔しているんですけどね(笑)。一つ注文をつけるとしたら、「もっとアグレッシブにシュートを打っていけ」と言いたいです。というのも、彼は50点を取ろうと思えば取れる選手です。誰にもパスをしないというつもりで、どんどんシュートを狙ってほしいと思っています。
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