10月21日、愛知県体育館でBリーグ第4節第1戦が行われ、名古屋ダイヤモンドドルフィンズは三遠ネオフェニックスと対戦。名古屋Dは第1節から続いた他地区との対戦で、開幕戦勝利の後に5連敗を喫し、中地区5位と低迷。好スタートを切った昨季とは異なり、極めて厳しい船出となった。対する三遠は開幕節で京都ハンナリーズに連敗を喫するも、その後に4連勝と波に乗る。名古屋Dにとって、同地区内の難敵となるが、この“愛知ダービー”を制し、悪い流れを断ちきりたいところだ。
腰椎の疲労骨折で全治未定と発表されている大宮宏正、腰痛で急遽欠場を余儀なくされた張本天傑の2人を欠く名古屋Dは、船生誠也と中務敏宏を今季初スタメンで起用。しかも、チームとしては練習をしたことがないという2-3ゾーンを第1クォーターから敷く奇策に出る。ゾーンディフェンスは、個々の選手にマッチアップするマンツーマンディフェンスとは異なり、それぞれの担当の“持ち場”を守るディフェンス方法。その中でも2-3はゾーンディフェンスは最も一般的で、バスケットボールプレーヤーなら誰しも経験をしたことがあると言っても過言ではないゾーンの基本形だ。アウトサイドシュートを守るには隙が多いデメリットの反面、ゴール付近を3人で守ることで、相手のビッグマンを防ぐのに有効なディフェンスと言える。
このゾーンディフェンスが功を奏し、名古屋Dは試合開始直後から一気に11-0と三遠を突き放す。オフェンス時にボールが止まってしまう三遠はなかなかリズムを作ることができず、カルティエ・マーティンが無理に1on1に持ちこむも、“背水の陣”とも言える名古屋Dの急造ディフェンスは思いのほか硬い。名古屋Dはしっかりとリバウンドを抑えると、ゾーンの特性を活かした速攻と、思いきりの良いアウトサイドシュートで得点を重ねて、大事なゲームの入りで優位に立った。
結局、名古屋Dは序盤につかんだリズムと流れを活かし、48-25と23点の大差を付けて前半を終える。名古屋Dの3ポイントシュートは前半だけで6本成功の46.2パーセント、三遠は3本成功の23.1パーセント。アウトサイドシュートの精度に加え、ターンオーバーも名古屋Dの5つに対し、三遠は11個と、前半はシュート精度とターンオーバーの数がそのまま得点差に現れる形となった。
前半で勝負があったかに見えたこの試合、梶山信吾ヘッドコーチが「練習もやっていなかったし、攻略されることは想定していた」と語ったとおり、三遠にゾーンの急所を的確に突かれ、田渡修人に第3クォーターだけで3本の3ポイントを許すなど、このクォーターで一気に詰め寄られる。名古屋Dは、最大26点差あったリードを後半吐き出す形となり、一気にシーソーゲームに突入した。
田渡、川嶋勇人のアウトサイドとマーティンの力強いドライブを中心に猛追を見せる三遠に対し、名古屋Dは笹山貴哉が要所で難しいシュートを決め、簡単に三遠に流れを渡さないしぶとさを見せる。粘る名古屋Dだったが、第4クォーター残り1分7秒、好調の田渡にこのゲーム6本目となる3ポイントシュートを決められてついに81-81の同点に。連敗中、試合の終盤にゲームの主導権を渡してしまい苦杯を喫していた名古屋Dに、「またしても……」という空気が流れかけたが、同点直後に笹山からオープンになっていたジェロウム・ティルマンにボールが渡ると、ティルマンはお返しとばかりに3ポイントを沈めてみせて、相手に傾きかけた流れを引き戻した。
息を吹き返した名古屋Dは、タイムアウト直後に笹山からのパスをジャスティン・バーレルがド派手なアリウープ(空中でパスをキャッチしてそのままダンクシュートを決めること)で決めて勝負あり。最終スコア89-81で名古屋Dが連敗をストップ、9月29日の開幕戦以来の勝利を収めた。
張本の緊急欠場というアクシデントを見事乗り越えた梶山HCは「急遽、(張本)天傑が出れないという中で、中務や藤永(佳昭)などのベンチメンバーが良くやってくれた。彼らの頑張りに感謝したい」とチームの危機を救ったいぶし銀のメンバーへの賛辞を口にし、「大宮、張本がいない中、太田(敦也)、スコット・モリソンというビッグマンを擁する三遠を抑えるには2-3ゾーンしかないと判断した」と語った。また、「連敗中でチームの雰囲気も決して良くない中、練習でもやったことがない2-3ゾーンを使うことは勇気がいることだった」と述べるとともに、最大26点差を詰められた試合展開には「急造のゾーンでは三遠さんもアジャストしてくるとは思っていた」と予測の範囲であったことを明かした。一方で試合を決定づけた笹山からバーレルへのアリウープについては「笹山とバーレルに重要な場面を託したのは指示どおりだったが、思っていた以上のアリウープが決まってビックリした」と、派手な決着は予想外であったことを笑顔で語った。
チーム一丸となって連敗をストップした名古屋D。得意の早い攻撃は見るものを興奮させ、テンポの速い攻防に魅力を感じた観客も多いはずだ。一方で安定的に成績を残すためには失点の多さが気になるところ。不用意にボールを奪われた後や、リバウンドをもぎとられたあとに、あっさりと失点を重ねる場面も目立つ。今季のスタートダッシュに失敗した分を取り返していくために、チームをどう構築していくのか、梶山HCの手腕に期待したい。
文=村上成