5月6日、琉球ゴールデンキングスとのB1リーグレギュラーシーズン最終戦を勝利で飾り、千葉ジェッツは46勝14敗という堂々の成績で、東地区王者として「B.LEAGUE CHAMPIONSHIP 2017-18」に乗りこむ。その最終戦では、先だって現役引退を表明した伊藤俊亮が移籍後初めてスターター出場。コートに立った14分26秒の間、いつものようにチームメートを活かす動きに専念して勝利に貢献した。そして試合後には、船橋アリーナに集まった5519人の大観衆を前に引退セレモニーに臨んだ。
最初に、島田慎二代表から花束とともに、ブースターによる寄せ書きで埋まったフラッグが贈られた。続けて長女と長男がコートに登場すると、伊藤は涙を拭うフリを見せながら満面の笑顔で迎え入れる。2人による手紙の朗読が終わり、最後はチームメートとブースターへのあいさつのためにマイクを持った。
伊藤がまず感謝の言葉を向けたのは、自身を先発起用する粋な計らいを見せた大野篤史ヘッドコーチ。「最後までチームのためにこの試合を使うと思っていたので、自分のために使ってもらえると思っていなかった」と、伊藤にとってスターター起用は想定外だったようだ。それに対して大野HCは試合後の会見で「まるで自分に人の心がないみたい」とジョークで応じている。
チームメートにも「頼りない先輩だったが、すごくいい思い出ができた」と感謝を述べたあと、伊藤は引退に際しての思いを次のように語った。
「2016年に島田代表に声を掛けていただいた時は『10年やるぞ』という気持ちだったが、この2シーズンはプレー的には厳しかった。自分の役割も今までと変わったが、このチームは若手が生き生きとプレーしていて支えがいがあった。サポート側に回って見られた景色はかけがえのないもの。これからフロント側に回るが、ここで皆様にたくさん支えていただいたことを胸に、少しでも恩返しができるように、100年続く千葉ジェッツのために働いていきたい。最後まで、てっぺんまで一緒に戦ってください」
ホームゲーム恒例の“ジェッツ締め”を経てチームメートから胴上げされた伊藤は、試合後の囲み取材でその感想を聞かれて「下から『ンウッ』って声が聞こえました」と取材陣を笑わせた。激しく体をぶつけ合うプレースタイルとは対照的に、セレモニー以降は笑顔を絶やさず、アリーナを穏やかな空間に一変させてみせた。その人柄を表すように、湿っぽさを微塵も感じさせない、温かい空気に包まれた時間はあっという間に過ぎた。
文=吉川哲彦