「2020年こそは『辻の年』に」…苦境の時を過ごした辻直人が明かすリーグ制覇と五輪への思い

2019年を「本当に辛かった」と振り返る辻(写真左)[写真]=鳴神富一

 新たな年となった2020年、今年は日本バスケットボール界にとって重要なターニングポイントの1年になるだろう。それは東京オリンピックという世界最大のスポーツイベントへの出場が控えているからだ。特に男子日本代表は開催国枠として44年ぶりの出場となる。日本代表に名を連ねる可能性がある選手たちはBリーグの舞台で自身の成長を図りつつ、目の前の勝利に向けて必死に戦っている状況だ。昨年夏に行われたFIBAワールドカップ2019中国では5戦全敗。そこからステップアップして、東京オリンピックの舞台で世界の強豪たちを相手に勝利を掴み取るためにも、Bリーグでの日々の戦いが非常に重要になってくる。

 川崎ブレイブサンダース辻直人は、昨シーズンの終盤に負った左肩関節脱臼という大ケガの影響でワールドカップの舞台に立つ事ができず、2019年を振り返って「本当に辛かったです」という言葉を口にした。治療のために人生初の大きな手術を経験し、その手術後に感じたさまざまなもどかしさが一番の苦しみだったという。

「長い目で見たらワールドカップがすべてではないと思って手術をして、ワールドカップの時は悔しさというよりは純粋に応援していました。ただ、自分としては復帰してから思い描いている通りにいかず、更に自分らしいプレーも忘れていて……もうどうしたらいいのか? ということが続いたのが一番苦しかったです」

 しかし、そんな状況でも辻は前を向き続けていた。自分自身を成長させてチームを勝たせ、その先にある代表復帰というシナリオを描き、今シーズンはコーチ陣と話し合いをしながら日々戦っている。現在、チームの司令塔である篠山竜青をケガで欠く中、川崎のコーチ陣は時折辻にポイントガードの役割を担わせている。これは辻を成長させる1つの要素になるかもしれない。チームを率いる佐藤賢次ヘッドコーチも辻のさらなる飛躍に期待を寄せる。

「元々、ポイントガードをできると思っていてシーズン前に話はしていました。ポイントガードの役割になっても辻らしいプレーをしてほしいと伝えています。彼自身もまだまだ成長できる部分はたくさんあると感じているようで、ディフェンスやシュートを打ち続けるメンタル、そして激しいマークの中でも我慢することなどを成長させていこうと本人と話し合っています」

 辻自身、その期待をしっかりと受け止めている様子だった。

「篠山さんが抜けてしまっているので、賢次さんからも『ポイントガードやるよ』と言われていて。今まで篠山さんに助けてもらっていたので、その分を今度は僕がお返ししたいなと思っています」

川崎のベンチには負傷離脱中の2人のユニフォームと顔写真付きうちわが並ぶ[写真]=鳴神富一

 前を向き続ける中で迎えた2020年。篠山に加えてマティアス・カルファニもケガと、主力が離脱している中で、辻は強い決意を口にした。

「2人が帰ってくるまで簡単には負けられないですし、チームとしても成長するチャンスだと感じています。(今シーズンの)Bリーグが始まって、僕が何度もケガで離脱した時に、個々もチームも成長していました。今回は僕が積極的にチームの先頭に立って、プレーで引っ張っていかないといけない。今年はもう一度、辻直人という存在を周囲に見せつけたいと思っています。今までケガをして、何度も『おかえり、おかえり』とばかり言われ続けていたので、今年はそう言われないようにしたいです。そして本当に優勝しか考えていないので、それに向かってプレーします」

 目標とする優勝という二文字をかなえた先には東京オリンピックが待っている。

「手術の決断をしたのには東京オリンピックを見据えてという思いがありました。もう言い訳なしで万全の状態で代表合宿とかに挑みたいですし、しっかり選考してもらえるように結果を残して、胸を張って日本代表に戻れるようになりたいと考えています」

 最後に辻らしい言葉で2020年という年への思いを語ってくれた。

「昨シーズンの開幕戦で千葉ジェッツに2連勝した時に『今年は辻の年にしたい』と言ったのに、その後すぐケガをして調子も崩してしまいました。2020年こそは『辻の年』にしたいですね。昨年は本当に苦しい思いをいっぱいしたから、あとは這い上がっていくだけかと。もう2020年は辻の年、川崎の年ですよ。川崎に関わっているすべての皆さんがHappyになるような年にしたいです」

 昨年は苦しみ続けた孤高のシューター、辻直人。苦しみ続けた分、乗り越えた先に栄光が待っているはずだ。天皇杯とBリーグ制覇、そして先にある東京オリンピックへ。「辻の年」は始まったばかりだ。

写真・文=鳴神富一

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