4月末にスタートする「B.LEAGUE CHAMPIONSHIP」に向けて各クラブがラストスパートをかけ、つばぜり合いを毎節のように繰り広げている。それは名古屋ダイヤモンドドルフィンズも同様だ。激しい戦いが続く今、メンバー一人ひとりに今シーズンの戦い、そしてチャンピオンシップへの思いを聞いた。
取材・文=三上太
写真=名古屋ダイヤモンドドルフィンズ
#8張本天傑「コンバートの苦しみはジャンプアップの原動力」
名古屋ダイヤモンドドルフィンズのキャプテンであり、一方でチーム唯一の日本代表選手として、シーズン中におこなわれてきたワールドカップのアジア地区予選も戦ってきた。さまざまな重責を背負ってきた張本天傑だが、その分、彼の顔つきは非常に精悍なものとなっている。
もっともチームにおける自分自身のパフォーマンスには、あまり納得していないと本人は語る。特に今シーズンはパワーフォワードからスモールフォワードへとポジションをコンバートしたことで、まだそこにうまくフィットできていないらしい。自分のできることをやろうとも考えるのだが、そう簡単に結果は現れてくれない。
「まずは自分の長所をどれだけスモールフォワードでいかせるか。それはこれから自分自身が伸びていくうえで必要なことだと思っています。あとは日本代表で積み重ねてきた経験をこのチームに還元してやっていくことも個人としての責任だろうし、キャプテンとしての責任でもあると思っています。でも、まずは自分の長所をたくさんいかせるようにやっていくことですね」
言葉の端々に彼が背負う重責がにじみ出てくる。
197センチ100キロ。速攻の先頭を走れて、跳べて、フィジカルコンタクトにも強い。さらには3Pシュートを決められるなど、類まれな身体能力、運動能力こそが張本最大の武器だ。しかしその長所を生かして、相手とのミスマッチを突くばかりではゲームが重たくなってしまう。全体のバランスを考えながら、状況に見合ったプレーを選択する。張本は今そんなことに気を配っている。
難題である。しかし張本はそうした状況をけっしてネガティブに捉えていない。
「自分としてはうまくいかないと言っていますが、これをマイナスではなく、プラスに捉えているんです。今年1年間これだけ苦しめば個人として成長できるんだと考えているので、そこはうまく乗り越えようとしています」
たとえどん底まで苦しんでも諦めなければ最後に道は拓ける。それは他ならぬ張本自身が日本代表で目の当たりにしていることだ。張本のジャンプアップもここから先、シーズンの終盤に出てくるはずだ。
#9安藤周人「心技体を成長させた若きスコアラー」
B.LEAGUEに参戦した2016-17シーズンから実質3年目の今シーズン、安藤周人は名古屋ダイヤモンドドルフィンズの若きスコアラーとして、その才能を開花させつつある。
平均得点は昨シーズンに比べて6点以上も伸び、3Pシュートを含めたフィールドゴールの確率も上げてきている。そうした成長と実績を評価されて、今シーズンは日本代表候補にも選出された。
しかし本人は至って冷静だ。
「できすぎの部分があると思うし、これに満足しているようではまだまだダメだと思っています。この数字が出ているのも自分だけの力じゃなくて、チームメイトのパスや、自分を生かすためにノーマークにさせてくれるなど、周りにも感謝しなければいけません。また任せられたからにはそれを結果で残さなければいけないので、現状に満足せず、もっともっと自分を出せるようにしていけたらいいなと思っています」
インタビューに同席していた広報担当やマネージャーさえ舌を巻くほどの意識の変化が今シーズンの安藤にはある。本人もそれを堂々と認める。
「昨年と違って任せられる部分が多いので、ミスを怖れずに自分のやれると思った部分はとことんやろうと思っています。そうした気持ちの変化だとか、ポイントガードにああしたい、こうしたいだといった要望はできる限り伝えるようにしています」
大学時代からそのシュートセンスは抜群で、同じシューターだった梶山信吾ヘッドコーチが「一目惚れをした」逸材は、「大学時代は何も考えずにシュートをバンバン打っていただけ」と振り返る。
今は違う。自分のスタッツ(成績)をこまめにチェックし、シュートの確率にも気を配る。チームが勝つために自分が何をすべきかをとことん考えているのだ。
「もう0.1%でも確率を上げていたら勝てていた試合もあったかもしれないですし、本当に自分のせいで負けた試合もあると思うので、そうした細かい部分はプロになってから貪欲になったんじゃないかと思います」
年齢的にはまだまだ若手だが、意識はすでにその殻を破ろうとしている。安藤が目指すゴールはまだまだ先にある。
#12中東泰斗「今季の目標『ホームでチャンピオンシップ』は譲れない」
B.LEAGUEが開幕して3年。名古屋ダイヤモンドドルフィンズの中東泰斗のシーズン別スタッツ(成績)を見比べてみると、平均出場時間も、平均得点も、平均リバウンドもほぼ同じ。安定しているといえば聞こえはいいが、横ばいは成長の鈍化も意味する。
しかし中東はそれを真っ向から否定する。むしろ昨シーズンよりも成長しているし、もっともっとやれるところがあると自らの伸びしろを認めているのだ。
「リバウンドを取ってからのボールプッシュであったり、味方を生かすアシストの部分ですごく自分の中では成長しているなと思います」
スタッツに残らないシーンとしての”ボールプッシュ”、すなわちリバウンドを取ってからそのままドリブルで速攻に持ち込むことは、これまでの名古屋Dにあまり見られなかったシーンだ。チームとして速い展開を標榜する名古屋Dにとって、中東のボールプッシュはチームそのものの進化を意味する”武器”である。
アシスト数も増えている。
「今年の夏、アシスタントコーチとずっとピック&ロールからのパスの練習をしていたので、その成果がすごく出ているんじゃないかと思います」
一方で「もっとやれる」と感じるのは得点面だ。パスの精度が高まった分、ついそちらに気を捉われてしまい、目の前のゴールを見落とすことがあるという。ただし本人もそれに気づいていて、解決は時間の問題だろう。
1月に足を負傷して以来、少しリズムを崩しているという。チーム同様、まさに今が中東にとっての正念場である。だからこそ、中東は前を向く。
「今シーズンは自分たちのホームでチャンピオンシップをやることを目標に掲げてきました。それを実現するために残りの試合、本当に負けられない試合が続くので、しっかり勝っていきたいと思います」
そしてチーム随一のスラッシャーはこうも宣言する。
「今シーズンはまだ6本しかダンクシュートをしていないので、あと6本くらいしたいと思います」
チームのラストスパートに中東のダンクシュートは欠かせない。
#13笠井康平「絶対に変わらない真骨頂の『泥臭いプレー』」
笠井康平の口から「泥臭いところを」という言葉が出てくると、彼の経歴を思わずにはいられない。
彼を初めて見たのは香川・丸亀市立東中学のとき。中学生ながらディフェンスやルーズボールといったスタッツ(成績)に表れないところで頑張る、熱い選手だった。むろんエースとしての得点力も頭抜けていたのだが、それ以上に熱い男という印象が強かった。それは尽誠学園高校に進んでからも変わらず、むしろより熱くディフェンスやルーズボールへの執着心を強めていた。それらはともにコーチによる指導の賜物だが、大学、社会人を経て、今シーズンから加わった名古屋ダイヤモンドドルフィンズでも、彼のベースは変わっていないようだ。
チームに加入して約1年、その間にチームがどう変化したかと尋ねたとき、笠井はこう答えている。
「まずは球際……ルーズボールやリバウンドを含めて、そうしたところは自分が入団してきたときよりも、みんなの意識がすごく上がってきています。自分としてはそうしたところで頑張ろうとしていたんですけど、みんなのレベルが上がってきているので、自分としてアピールすることが、いい意味で難しくなっています」
どちらのチームのボールでもないボールをいかに自分たちのものにするか。いわゆるポゼッションを多くできれば、その分攻撃の回数は増え、得点の確率も上がってくる。ひいてはそれが勝利にもつながる。そのことを笠井は身をもって知っているのだ。
むろんプロと学生、社会人とではさまざまなところに大きな違いはある。
「初めてのシーズンなので、アウェーではその会場の雰囲気に呑まれたこともありましたし、ホームでも気持ちが上がって、いいパフォーマンスにつながった試合もありました。ただコートに出たときは常にディフェンスを頑張って、球際で体を張ることは大前提として頑張ってきたので、そういうところはしっかりできているんじゃないかと思います」
泥臭く、熱く――プロの世界に入っても自分が築いてきたスタイルは変わらない。ひとつの勝利が明暗を分けるシーズンの終盤にこそ、笠井の真骨頂はチームの助けになる。
そう書いている最中に笠井負傷の報告が届く。ケガに関しては熱くならず、冷静に対処してもらいたい。ドルフィンズファンは一日も早いカムバックを待っている。
#18中務敏宏「ベテランが貫き通すプロフェッショナルとしてのこだわり」
これがベテランのなせる業(わざ)なのか。そう感じたのは中務敏宏に最後の質問――というよりも、ファンへのメッセージを求めたときだ。彼ははっきりとした口調でこう答えた。
「いつも応援ありがとうございます。これからもぜひ応援しに来てください。僕たちは勝ちます! 成長し続けます!」
上に立つ者の力強い言葉はチームに対する揺るぎない自信でもある。
今シーズンの名古屋ダイヤモンドドルフィンズは梶山信吾ヘッドコーチ体制2年目だが、5人の選手が入れ替わるという”変化”のシーズンでもあった。開幕当初は外国籍選手を含めて”長兄”となった(現在はヒルトン・アームストロングが最年長)中務も、キャプテンなどの肩書がなくても、よりチームに目を向けざるを得ない。
中務はベテランとしての矜持、プライドをこう語る。
「誰よりもプロフェッショナルではあろうと思っています。どういうことがプロフェッショナルかというのは人それぞれ考え方が違うと思うんですけど、とにかくチームの規律を徹底することと、判断基準としては子どもたちが見て『あ、いいよね』と思えるような爽やかな行動は心がけています」
プロという競技者の頂点に立ちながらも、目線はそれを仰ぎ見る子どもたちに合わせる。若いチームメイトはそれを「トシさんらしい」と見るのだが、一方で「だからといって彼らが『(トシさんがやっているから)僕たちはやらなくてもいいよね』とならない空気は作れているので、僕としてはやってきてよかったなと思っています」と語る。
むろんベテランならではの苦しみもある。特に”長兄1年目”の中務にとっては、プレーヤーとして悩む時期に相談する相手がいないことが「ここまできついのかと初めて知りました」と言う。今シーズンの序盤で襲ったシュートの絶不調はその最たる例である。長いバスケットキャリアのなかでもここまでシュートが不調に陥ったことはない。そうした苦しみを共有する年上の選手が身近にいないことは、不調の中務をさらに苦しめた。
それを乗り越えられたのは、チームのリズムでシュートを打ち続けることと、最後はやはり見てくれている子どもたちの存在だったと中務は明かす。
「子どもたちが見て『あ、いいね』と思えるようなプレーをし続けるようにしていました」
力強さとやさしさを兼ね備えたベテランがいる。それこそがチームが苦境に陥ったときに名古屋Dの大きな推進力になる。