大津祐樹(サッカー/横浜F・マリノス)×田渡凌(バスケ/横浜ビー・コルセアーズ)対談

 きっかけはSNSだった。2万以上のいいね!がついた田渡凌の“エアロビ動画”に、大津祐樹が反応。そして「何か一緒にやりましょう!!」とのメッセージから2カ月、対談が実現した。横浜F・マリノスと横浜ビー・コルセアーズ、ともに横浜を本拠地とするチームに所属。異競技アスリート同士のコラボから何が生まれるのか。
(2020年6月2日取材。6月5日に横浜ビー・コルセアーズは田渡の広島ドラゴンフライズへの移籍を発表)

取材・文=安田勇斗

以前、田渡選手がSNSに投稿した“エアロビ動画”に、大津選手が「相当面白い」とリアクションし、SNS上でのちょっとしたやり取りがありました。
大津 F・マリノスの中で『テラスハウス』がすごく流行っていて、僕もよく見ていたので、凌くんのことは前から知っていました。ただ、『テラスハウス』ではそこまでキャラクターがわからなくて。そんな中で、あの動画をチームメートの誰かがリツイートしたのを見て、率直に面白い人なんだなと。それでコメントしました。

かなりインパクトのある映像でしたが、田渡選手はなぜあの動画を投稿したんでしょうか?
田渡 アメリカのコメディアンがああいう感じのふざけたショートムービーを出していて、めちゃめちゃ面白かったので、シーズンが終わったらやりたいなと思ってたんですよ。でも新型コロナウイルスの影響でシーズンが途中で終わってしまって、じゃあ家でできるエクササイズみたいにやれたらなと、自分でアレンジしてやりました。ある程度反響はあるかなと思ってましたけど、大津選手のようなこれまで接点がなかったところまで広がるとは思ってなかったのでビックリしましたね。

ともに横浜のチームに所属しています。お互いのチームの印象は?
大津 僕はDAZNでバスケの試合をよく見ていて、同じ横浜のチームなので注目していました。
田渡 F・マリノスは去年リーグ優勝しましたよね。横浜にはDeNAベイスターズ、F・マリノスと強くて有名なチームがあって、でも自分たちは強くなくて、うらやましいなと。ああいうチームになりたいなと憧れの目で見ていました。

では自分のチーム、ファンについてどう感じていますか?
大津 サポーターがすごく熱くて、応援してくれる方々が多くて、本当に大きなクラブだなと感じます。
田渡 自分はプロキャリアのスタートが横浜なので他のチームを知らないんですけど、大津選手のおっしゃったとおり、熱狂的なファンが多い印象があります。街をあげて応援してくれていると感じるので、すごくうれしいです。

お互いの競技を見たり、やったりしたことはありますか?
大津 僕は中学生の時に『スラムダンク』を見てバスケにハマって、よく休み時間にバスケをしていました。ルールは詳しくはわからないですけど、すごく面白いスポーツだと思います。サッカーをやっていなかったらバスケをやりたいぐらい、すごく好きです。バスケって展開が早いじゃないですか。サッカーの練習で、狭いエリアでゲームをしたりするんですけど、狭いと動く時にすごく負荷がかかるし、その上、バスケは前に行ったり後ろに行ったり展開が早くてすごいなと。よくあんなに走れるなと思いますね。
田渡 僕もサッカーが好きで、リーグ戦が中止になってからは誰もいない公園でリフティングの練習をしています(笑)。他の競技をやるのもいいと聞いていて、野球は1人じゃできないのでサッカーをやってみようかなと。今車にサッカーボールを2個積んでいます。1カ月かかってようやく20回ぐらいできるようになりました(笑)。サッカーは見ていて、運動量がすごいなと感じます。バスケは交代ができるし、タイムアウトもあるし、10分ごとに休む時間があるんですけど、サッカーは45分間ずっとプレーしていますよね。あと集中力。バスケはシュートを打つ回数が多いですけど、サッカーは一瞬のチャンスで決めないといけない。その瞬間にかける集中力はすごいだろうなと。
大津 確かにバスケと違って、あまり得点が入るスポーツではないので、一瞬一瞬の集中は大事な要素だと感じます。さっきタイムアウトの話がありましたけど、今Netflixでマイケル・ジョーダンの『ラストダンス』を見ていて、タイムアウトっていつでも取れるものなんですか?
田渡 得点が入ったり、ファウルで時間が止まったり、ボールがラインから出たりした時は基本的にいつでも取れます。ただ取れる回数は決まっています。
大津 1チーム何回とか?
田渡 そうです。なので、試合の終盤まで残すことは結構あります。作戦が練りやすくなるので。タイムアウトは監督にとって大事な采配の一つですね。
大津 なるほど。確かにタイムアウトは最後の方に取ってますね。『ラストダンス』は全部見ましたけど、めちゃめちゃ面白かったです。
田渡 僕も毎回新しい話が楽しみで、出るその日に見てました。

昨シーズンはリーグ戦23試合に出場し、横浜F・マリノスの15年ぶりのJリーグ制覇に貢献した[写真]=兼子愼一郎

プロフィール
大津祐樹(おおつ・ゆうき)
1990年3月24日生まれ/茨城県出身/180センチ/フォワード
2008年に柏レイソルでプロキャリアをスタート。11年にはボルシアMG(ドイツ・ブンデスリーガ)に海外移籍を果たすと、12年にVVVフェンロ(オランダリーグ)へ移籍した。15年からは柏に復帰し、昨シーズンからは横浜FMでプレー。巧みな技術を持ち味とするアタッカーとして活躍してきたが、近年は泥臭く献身的な守備でチームに貢献している。

新型コロナによる自粛期間中に、お2人を含めて多くのアスリートがオンラインで活動していました。どんな想いで取り組んでいたのでしょうか?
大津 サッカーが見たくても見られないサポーターがたくさんいるので、そうした方々のために選手たちができることを積極的にやるのはすごく大切かなと。実際発信し続けて、喜んでいただけたかなと思います。
田渡 バスケでは2試合だけ無観客試合をやったんですけど、その時にファンの方々が自分たちに与える影響、それによるモチベーションアップはすさまじいものがあるんだなと痛感しました。逆にファンの皆さんも、試合を楽しみにして、中には生活の一部として応援しに来てくれた方もいると思うので、何かできないかなと。どうしたら一番喜んでもらえるかと考えた時にやっぱり顔を見せることかなと思って、それがやれる場であるSNSを使ってできることをやっていました。

ファンの皆さんは喜んでいたと思いますが、SNSでの活動を含め、競技外の活動を好意的に捉えていない方々もいます。そうした批判的な声をどう感じていますか?
田渡 おっしゃるとおり、競技に集中しろ、という声もたくさんありますが、でもプロ選手である以上、応援してくれる方々がいる以上、憧れられる存在でいなければいけないと思うし、競技外の部分を見せることも大事だと思っています。そうした考えは海外のアスリートを参考にしている部分もあります。彼らがどういうふうに自分をプロモートしているのかというのを、よく見ていますね。自分はもちろん競技ありきの人間ですけど、いろいろと発信していくことは大切だと思いますし、こうした自粛期間は特に大事なんじゃないかと感じました。
大津 サッカーをやること、自分の仕事をすることは当たり前のことで、選手それぞれが他に何をやるかはあまり気にしていなくて。僕自身、酒井宏樹(マルセイユ)と一緒にいろいろな事業をやらせてもらっていますけど、それは若い世代のためになると思ってやっています。同様にクラブのため、チームのための活動であれば、サッカー以外のことにも協力します。競技以外の活動について批判する人は、僕らのことを想って言っているとは思えなくて、だから気にせずにやっています。ただ自分の中で線引きはしっかりしています。正しいこととダメなことのラインを引いて、人に迷惑をかけないように考えながらやっています。

今回初めての対談になりますが、お互いに聞いてみたいことはありますか?
田渡 僕からいいですか? シーズンをとおして調子がいい時、悪い時があると思います。悪い時は次の試合に向けてどのようにアプローチしていますか? 技術面もそうですし、精神面もそうですし、教えていただけたらうれしいです。
大津 それアスリートあるあるですよね(笑)。自分は常にポジティブに考えているので。調子が悪いかなと思っても、次があるからという考え方に持っていきます。日々の練習で自信をつけられますし、練習でのパフォーマンスが試合でのパフォーマンスにつながっていくので。自分の中でネガティブな要素が出た時は、排除するような仕組みに、そういうマインドコントロールをしています。プレーが悪かったとしたら、その原因を探って修正したり、逆に良かったところを見つけたり、ポジティブに考えながらやっています。
田渡 ありがとうございます。
大津 さっきバスケットの話をした時と少しかぶるんですけど、バスケって瞬発系の動きが多くて、しかも芝生のサッカーとは違って足への負担も大きく、よくケガをするんじゃないかっていうイメージがあるんですけど、1試合をとおしての疲れとか、ケガ人とかってどうなんですか?
田渡 結構しんどいです(笑)。長い時間プレーできるようにペース配分などいろいろとマネジメントするんですけど、大変ですね。コンディション調整はすごく大事にしています。僕たちは土日に2日連続で試合をするんですよ。土曜日19時に試合をやって、日曜日お昼の12時にやったり、という時はさっき終わったばっかりなのに、と思いますね(苦笑)。そういう時は試合直前までオフモードにして、一気に集中力を上げるようにしています。ケガで言うと、2日連続で試合がある時などは疲労もたまるのでケガのリスクも高いと思うんですけど、その分ケアや、シーズン前の体作りは気をつけるようにしています。ケガをする選手、しない選手ってはっきりと分かれるんですけど、そういうケアの部分で差が出ているかなと思います。

2019-20シーズンはコート外の活動も認められ、MIP(Most Impressive Player)賞を受賞した[写真]=B.LEAGUE

プロフィール
田渡凌(たわたり・りょう)
1993年6月29日生まれ/東京都出身/180センチ/ポイントガード
京北高校(現:東洋大学京北高等学校)卒業後渡米。オローニ・カレッジからドミニカン大学カリフォルニア校へ進み、キャプテンを務めた。卒業後、横浜ビー・コルセアーズに入団。2019-20シーズンはコート外の活動も認められ、MIP(Most Impressive Player)賞を受賞そして、来シーズンからは広島ドラゴンフライズでプレーすることになった。

この対談をきっかけに何かコラボができればと思います。
大津 運動会とかしてみたいですね。
田渡 面白そうですね。

みんなガチになってケガしそうですね(笑)
大津 それがあるから、できないんですよね(笑)。やったら面白いと思いますけど。
田渡 「どの競技の選手が一番運動能力が高いの?」って聞かれるんですけど、自分も気になりますね。
大津 なかなか戦う機会がないですからね。
田渡 僕はサッカー選手がどういうトレーニングをしているのか知りたくて、コラボって感じじゃないかもしれないですけど、一緒にトレーニングしてみたいです。違う競技だとトレーニングの仕方も結構違うと思うんですよね。僕たちは結構重いものをバンバン上げたりするんですけど、サッカー選手はアジリティ系が多いと聞いていて。
大津 やってますね、スプリント系は。重りをガシガシ上げるようなトレーニングはプレースタイルによりますけど、今の時代はほとんどないです。僕がプロになった頃はベンチプレスもやりましたけど、最近はやり方が変わってきて。スプリント系のトレーニングも、今はiPadなどを使って説明してもらったり、自分のパフォーマンスが伸びるものは積極的に採り入れています。トレーニングはいろいろな形があるので、一緒にできたら面白そうですね。
田渡 すごい気になるんですよ。食事とかサプリとか、ケアの仕方とか。最近はサッカーを参考に有酸素トレーニングをやっていたり、僕自身、他のスポーツから採り入れていることも結構あります。自分だけでなく中高生が活かせることもたくさんあると思うので、いろいろ知りたいです。
大津 バスケのトレーニングも、サッカーに役立つことはたくさんあると思うので、そういう交流ができたらいいですね。
田渡 ファンと一緒に、オンラインではなくリアルで、サッカーとバスケのクリニックなんかできたらいいですね。
大津 俺も教えてもらいたいなあ。
田渡 僕が大津選手にですか?
大津 そう(笑)。

2020年も残り半年です。Jリーグが間もなく再開され、Bリーグは秋に新しいシーズンを迎えます。近い将来を見据えての目標は?
大津 昨シーズン優勝することができて、また今シーズンも優勝できるように、全力でタイトルを狙っていきます。あと半年しかないのでスケジュールがタイトになりますし、総力戦での戦いになってくると思いますけど、絶対にチャンピオンになれるようにがんばっていきたいです。僕はサッカーに育ててもらっているので、いろいろなことを通じてサッカーに恩返ししていくことが今後の目標です。
田渡 バスケは今オフ期間、トレーニング期間です。今までで一番いいコンディションでシーズンを迎えられるように準備していきます。それと、いつも考えていることなんですが、バスケ選手としても、アスリートとしても、唯一無二の存在になりたいなと。今世界でいろいろな事件が起きている中でバスケができることに感謝しながら、世の中に何かを伝えられるような存在になりたいなと思っています。

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