3シーズン目の開幕を目前に控えたBリーグ。過去2シーズンで得た成果、反面浮き出てきた課題、その両者を昇華していくことでクラブはさらに進化を遂げていく。今シーズン、まさにその真価が問われるのが東京八王子ビートレインズだ。昨季はB3リーグのファーストステージ、レギュラーシーズン、ファイナルステージの全てで優勝を果たし、昇格を懸けた入れ替え戦でも大差で勝利。見事完全優勝を成し遂げ、満を持してB2へ乗りこむ。今回、バスケットボールキングでは2017年1月に指揮官に就任し、クラブをBリーグのステージへ導いた石橋貴俊ヘッドコーチに、昇格までの道のりと今シーズンの意気込みをうかがった。(取材9月10日)
インタビュー・文=小沼克年
写真=東京八王子ビートレインズ
開幕前から「全て優勝する」と意気込んで臨んだ昨シーズン
――B3優勝、B2昇格を達成した昨シーズンはどのようなチームを目指していましたか?
石橋HC 昨シーズンはチームが1つになり、激しいディフェンスで相手を60点台に抑えるディフェンスを目指していました。オフェンスではインサイドに起点を置いて、速い展開からインサイド、外の選手はアグレッシブにシュートを狙っていくというスタイルでした。
――就任当初や就任前は、チームにどんな印象を持っていましたか?
石橋HC 前のコーチ(フランソワ・ペロネット氏)は、非常に厳しくやっている印象でした。なので「選手は少しストレスを感じているのかな」という風に見ていましたね。
――そこからチームをどう変えようとしましたか?
石橋HC ストレスの軽減を考えて、選手一人ひとりが伸び伸びとプレーできるようにしました。どちらかというと就任前は各プレーの制限を細かく持ちながらやっていましたが、僕はカゴを大きくしたというイメージですね。
――ある程度の制限を決めて、その中で自由にプレーしてほしいと。
石橋HC そうですね。「ここをこうしなさい」ではなくて、「こことここは2つの選択肢があるから、選択したい方を選びなさい」という手法で指導してきましたね。
――就任後、選手たちのストレスをなくすことはできましたか?
石橋HC ストレスの部分では就任したシーズンからできていたと思います。ただ、僕がやりたいバスケがしっかり浸透していったのは昨シーズンからです。
――昨シーズンのどのあたりからですか?
石橋HC チームバスケットができるようになったのは後半からですかね。後半最後のファイナルステージあたりから、全員が意識せずとも目指すバスケットが自動的にできるようになったと思います。
――昨シーズンは見事完全優勝を果たしました。やはり開幕前から意識していたのでしょうか?
石橋HC はい。開幕前から『全て(のステージで)優勝する』という目標は立てていました。最初のミーティングで、それを達成するための図を描いて「こういうプロセスで今シーズンやっていきましょう」と伝えて、それが達成できたという形ですね。
――ファーストステージで優勝できた要因は何だと思いますか?
石橋HC そのときは正直、埼玉(ブロンコス)や東京エクセレンスに負けたりして、チーム全体があまり機能していなかったです。でも、最後の大塚商会(アルファーズ/現越谷アルファーズ)戦に勝てば優勝できるというときに、「必ず勝つんだ」という強いメンタリティーが発揮されました。そのとき、最初にこのチームが本当の意味でまとまった2戦だったかなと思います。
――やはりファーストステージ、レギュラーシーズン、ファイナルステージの全てで優勝するのは難しいのでしょうか?
石橋HC うーん……。そうですね。レギュラーシーズンは長いので、やっぱり力の差がしっかり出ます。でも最初のステージは10試合なので、正直運もあると思っています。そういう意味では、ファーストステージを獲れたことは結構大きかったですね。
――B2に昇格できた一番の要因は何だと思いますか?
石橋HC チームもそうですけど、会社自体も、それから応援してくれる方々も試合を追うごとに良くなっていったことだと思ってます。会社の人たちも以前よりもスムーズに色んなことができるようになっていく、ファンもワクワク度が増してくるという三位一体で流れに乗って、いいスパイラルで成長していけたシーズンでしたね。それが最後の入れ替え戦の勝利につながったんじゃないかなと。
――会社は具体的にどのような変化がありましたか?
石橋HC 一番大きいのはB2ライセンスをしっかり取ってくれたことです。あと、シーズン最後の方はイベントの実施より「試合に集中したい」という僕の意見を聞いてくれたことですかね。やっぱり会社としてはイベントを多めにやって「もっとPRしなきゃ」と思いますよね。それは僕も賛同してたんですけど、最後は勝たなきゃいけない状況だったので。
――ブースターの熱はどうですか?
石橋HC もうどんどん上がっていますね。元々熱かったんですけど、赤い炎が大きくなって、それに選手たちも乗せられたところもあったと感じています。
今季スローガンは『SHOW TIME』、もっとバスケの楽しさや素晴らしさを伝えていきたい
――では開幕に向けてもお話をお願いします。現時点での調整具合はいかがですか?
石橋HC うーん……。まだちょっと何とも言えないところですね。全てが順調というわけではないというのが現実です。まだ新しい外国籍選手がフィットしていなかったりなどもありますが、チームのまとまりは昨シーズンに引き続きあるので、そこを活かしながら開幕に向けてチームをいい方向に持っていきたいです。
――外国籍選手との連携以外に具体的な課題はありますか?
石橋HC インサイドの外国籍選手、そのバックアップを担う日本人選手の使い方ですね。オンザコートルールの変更で、(今季は)外国籍選手が各クォーター2人出場できますよね。日本人のバックアップメンバーがいますが、うちはやっぱり高さの面で不利が生じるので、そうなると外国籍選手が長い時間プレーしないといけない。昨シーズンのように外国籍選手4人(外国籍選手3人:帰化申請中選手1人)で回しながらディフェンスもしっかりやるとなるとスタミナが持たないと考えています。
――現時点でその解決策は考えてらっしゃいますか?
石橋HC 外国籍選手を出しすぎてケガされても困るので、やっぱりバックアップで出る選手の意識を高めたり、彼らが出たときにどういうバスケットをするかの追求になってくるかなと。これは僕だけでなくて多くのチームが直面している問題とも思っています。
――今シーズン、八王子はどのようなバスケット目指しているんですか?
石橋HC 今シーズンは『SHOW TIME』というスローガンなので、昨シーズンよりもオフェンス寄りなバスケを展開していきたいです。ただ、ディフェンスを粗末にするわけではなくて、シュート確率、本数を上げるというバスケを目指していきたいです。
――よりお客さんを楽しませられるような?
石橋HC そうですね。そこが一番です。
――具体的に強化している部分はありますか?
石橋HC マイケル・オルソンがアソシエイトコーチに就任して一緒にやっているので、彼がメインで指揮する形になると思います。でも一番大きな違いは、ルブライアン・ナッシュという新しい選手ですね。bjリーグ時代に1試合54点取ったこともある恐ろしい選手なので、彼のプレーを見てもらうのと、彼をいかにチームにフィットさせるかというところを見てもらいたいです。
――マイケルアソシエイトコーチとの役割分担は明確に決まっていますか?
石橋HC そうですね。お互いでいつも話しながらやってますが、僕がビデオ編集やプランを練って、マイケルが実践するという形をとっています。昨シーズンまでのスタイルと新たなスタイルを融合し、お互いの良さをチームに落としこんでコーチングしています。
――現状、コーチ間の連携で不安はありますか?
石橋HC ないですよ、全然。密にコミュニケーションを取りながらできています。
――HCから見て、年間MVPを受賞した大金広弥選手はどう見ていますか?
石橋HC 昨シーズン一番成長した選手ですね。和歌山(トライアンズ)時代から一緒にやっていますが、能力も得点力もあってバスケをよく理解しています。和歌山時代はどちらかというと末っ子キャラというか、周りから可愛がられる選手でした。僕が八王子に来たときにも、その感じがまだ残っていましたが、昨シーズンは「自分が中心」という強い思いがあって、「勝つも負けるも自分が責任を持ってやる」という長男キャラになりました。そこのメンタルが変わったので、MVPを受賞する活躍ができたのかなと思っています。
――具体的にアドバイスしたことはありますか?
石橋HC いや、特にないですね。もう3シーズン一緒にやっているので僕のやりたいことも分かっていますし、自分がやらなきゃとことも分かっています。「こういう場面で誰を入れたらやりやすい?」とか、あまり選手に聞かないようなこともこっそり聞きますね(笑)。そこはコーチとポイントガードの信頼関係なので、逆に「こういう時はこうしてほしい」とか言ったりもしてます。
――他に期待している選手はいますか?
石橋HC はい。大城(侑朔)選手です。大城は入れ替え戦で大金が出れないときに活躍して、そこで一皮むけた感があるんですよ。今シーズンの練習もここまで非常にいいので、どこまでその流れを持っていくのか楽しみではあります。「ポイントガードは結果を出したあとに成長する」と言われてますので、(入れ替え戦で)チームを勝たせることができたということで、彼自身もプレーの質がちょっと変わってきてますね。
――大城選手の特徴は何ですか?
石橋HC ドライブもできるし、当初はシュートが上手くなかったですが昨シーズンとおしてシュート確率も上がりました。
――岩手ビッグブルズとの「B2・B3入替戦 2017-18」では、83-55という大差でB2昇格を決めました。この点差は正直予想外でしたか?
石橋HC いや、想定内でしたね。最初から力が勝っていると思っていましたし、岩手が劣るわけではないですがビデオを何本も見ていました。チームというよりは個人で攻めてくるチームだったので、タイムアウトのタイミングも個人が乗らないように取っていました。大城があんなに活躍するとは思っていなかったですが、少なくとも15点差では勝てるだろうなと踏んでいましたね。
――アーリーカップではその岩手の奮闘もありました。そういった意味でも「B2でもやれるぞ!」という感触はありますか?
石橋HC そうですね。僕は八王子に来たときから選手の質はB2のレベルにあると見ていました。B3の実業団にいる選手は、プロにいくよりも安定を求めて仕事と両立している選手もいるので「この子しっかりやればB1だよね」という選手もいたりするんですよ。なので、そんなに大きな差はないと思っています。
――では、B2参戦1年目は、どういうシーズンにしたいですか?
石橋HC やっぱりB2のチームとしての基礎固めですかね。もちろん勝つこと、プレーオフ進出を目標としてますけど、まずは基礎固めをしっかりしていくシーズンになるかなと思います。「Bリーグでどう戦っていくのか」、レギュレーションも違いますし、新しい選手が多いので僕自身もスカウティングをしっかりやっていきたいです。
――個人的に注目、警戒しているチームはありますか?
石橋HC 信州(ブレイブウォリアーズ)ですね! 僕も以前は信州にいましたし、今シーズンいい選手を獲ってどうなのかなと思って見てたらアーリーカップもすごかったので。(アンソニー)マクヘンリーと(ウェイン)マーシャルの2人が、プレーヤーとして素晴らしいことに加えて賢いんですよね。だからチームとして崩れづらいですし、ガードも良くなってきてシューターもそろってます。同地区のチームはどこもしっかりやっているなという印象ですが、特に信州はなかなか強いなという感覚です。
――信州との対戦も楽しみですね。開幕戦はホームでアースフレンズ東京Zとの“東京ダービー”です。
石橋HC ホームで開幕を迎えられるのはやはり大きいですね。ファンの方にも早くナッシュのプレーを見てほしいです。
――わかりました。では最後に今シーズンの意気込みをお願いします。
石橋HC 優勝してB2に上がった昨シーズンよりも魅力的なチームを作りたいですし、もっとバスケットの楽しさ、素晴らしさを勝つことも含めて伝えていきたいと思っています。そのためには、また皆さんの熱い応援が必要ですし、もっともっと楽しませられると思うので、今シーズンも応援よろしくお願いします!