正直、もううんざりしている。「ずっと同じことを聞かれているんで、ちょっと……聞かないでほしいと思います」。記者会見後の囲み取材で、兄は心底嫌そうな様子で本音を打ち明けた。
11年ぶりの冬の栄冠に輝いた福岡第一高校(福岡県)の中心にいたのは、間違いなく重冨周希(4番)、友希(5番)の双子だった。ともに坊主でポーカーフェイス。見た目もプレーもなかなか見分けがつかないが、話してみると一発で違いがわかる。
キャプテンを務める弟の周希は少し声が高く、キャプテンらしいコメントを明確に発する。一方の兄の友希はハスキーボイスでボソボソとしゃべり、コメントは上記のとおり良くも悪くも素直だ。井手口孝コーチも「バスケット以外は全くの別人です。兄の方が気が強いのかな。弟はすぐ泣くし、試合中もよく悲しそうな顔をしています」と説明してくれた。
西福岡中学時代から全国の舞台でその存在を大きく知らしめてきた。しかし、いかんせんサイズには恵まれていない。ガード2枚が170センチ台になるというリスクを踏まえて、いずれか1人だけを勧誘するチームもあった。しかし、井手口コーチは2人両方を求めた。「2人がそろったプレーを見たら、すごいんですね。適当に投げているけどナイスパスになるというか、ほとんどターンオーバーみたいなプレーがナイスプレーになるという『息が合った』をとおり越したプレーがあったので、僕は2人一緒にお預かりしました」(井手口コーチ)
今大会も身長のハンデなどなんのそのと、スピードを活かして縦横無尽に駆け回った。「(サイズの大きな相手に)いじめられると嫌だったんだけど、意外と大丈夫でしたね」(井手口コーチ)。決勝の東山高校(京都)戦では持ち味の速攻を封じられたが、そこでも2人がチームを救った。夏から練習してきたというアウトサイドのシュートを効果的に沈め、ここぞというタイミングで3ポイントを決めた。勝利が見え始めてきた終盤も勢いに任せてプレーせず、時計と点差を見ながら的確にゲームをコントロールしたことも素晴らしかった。井手口コーチは2人を獲得する時に「1+1が3にも4にもなる」と感じたそうだが、今大会はそれ以上の貢献度をもって、インターハイに続く日本一の立役者となった。
家を出る時間を微妙にずらし、コート上ではほとんど目も合わさない。福岡第一に2人で進学した理由も「親に勧められたから」(友希)と積極的な理由ではない。しかし、大学でもまた2人同じチームに進むことになる。兄弟だから切れることはないが、「腐れ縁」という表現が実にピッタリくる2人。本人たちはますますうんざりすることだろうが、“双子ストーリー”はまだまだ続いていくのだ。
文=青木美帆