9月16日、平成29年度 第70回全国高等学校バスケットボール選手権大会(ウインターカップ2017)代表校を決める平成29年度神奈川県高等学校秋季バスケットボール大会の決勝が行われた。男子は県立厚木東高校がアレセイア湘南高校を83-82で破り、初のウインターカップ出場を決めた。
残り0.1秒まで勝敗がわからない激戦の終わりを告げるブザーが鳴ると、コートに立っていた厚木東の選手たちは全速力でベンチに駆けだした。冬の新人大会、春季大会と優勝したものの、インターハイ(全国高等学校総合体育大会 バスケットボール競技大会)予選ではまさかの4位に沈んだチームの苦しみが、そこには凝縮されているようだった。永田雅嗣郎コーチはチーム初、そして自身初となる秋季大会での優勝とウインターカップの出場権に「執念です、もうそれだけ」と涙をぬぐった。
立ちあがりに主導権を握ったのは厚木東だった。今大会から導入したツープラトン(10人のメンバーを2つのユニットに振り分け、基本的にそのユニット単位で戦う戦術)で選手交代を盛んに行い、アレセイア湘南に的を絞らせない。
アレセイア湘南の2メートルのセンター、エマニエル・オヌアブチ(3年)のマッチアップは、これまでの対戦で担ってきた185センチの加藤樹(3年)に加えて、185センチの菊池允(3年)と187センチの小宮優大(2年)が志願して担当。第2ピリオド開始2分で3つ目のファウルを誘い、見事ベンチに追いやった。
しかし、アレセイア湘南は更科幹、キング開、畑遼平(いずれも3年)らの3ポイントシュートが高確率で決まり、第2ピリオドは27得点の猛攻でリードを奪った。
後半はつかず離れずのシーソーゲームがひたすら続いた。アレセイア湘南が更科のアウトサイド、杉山碧(2年)のミドルシュート、キングの1対1と自在な攻めを見せる一方で、厚木東は前半に効果的だった菊池や小宮のハイポストを起点とした攻めを見失い、アウトサイドシュートに固執。
「冷静さを欠いて気持ちだけでいってしまいました」。厚木東のキャプテン佐野龍之介(3年)はこう認めるが、「永田先生が『気持ちを抑えなくていい。行けるところまで行け』と言ってくれたので、全員でシュートを打って、全員でカバーのリバウンドにいきました」と話す。
指揮官の信頼に応えた選手たちはなんとか3ポイントで3、4点ビハインドをつなぎ、さらに菊池がアシスト、シュート、エマニエルを再びベンチに下げるテイクチャージと値千金の活躍を見せてチームに勢いを与えた。
とはいえ、残り2分に入ってもリードはアレセイア湘南。ここからの厚木東の戦いぶりは、冒頭の永田コーチが言うように「執念」だった。
小宮の3ポイントが決まって81-81。残り44秒、エマニエルのフリースローが1本入って81-82。菊池のドライブから佐野のミドルシュートが決まって83-82と逆転した上で、直後のアレセイア湘南のオフェンスを8秒オーバータイムとする。残り27秒、「ダブルチームにつかまる前にとにかく逃げろ」という永田コーチの指示に従ったが、アレセイア湘南のディフェンスにつかまった佐野が残り11秒で痛恨のトラベリング。
アレセイア湘南は更科から右45度でノーマークだった畑にボールが渡ったが、放った3ポイントは外れ、キングのリバウンドシュートもリングに嫌われた。このリバウンドを菊池ががっちりとキープしてタイムアップとなった。
インターハイ予選で多くの悔し涙を流した厚木東は、この夏、覚悟を持って熾烈な練習に励んできた。大原瑞生(3年)、齋藤仙太(2年)、大野航(2年)は6月のインターハイ予選までほとんど出場機会がなかったところから主力となり、責任感の強さからシュートが硬くなりがちだった佐野もこの試合は20点とチーム1の得点を稼ぎ、エースの東野恒紀(3年)は自分の得点が伸びなくてもディフェンスやリーダーシップでチームを支えられるようになった。
アウトサイドシュート一辺倒だった菊池はポストプレー、リバウンド、ディフェンス、ドライブと、プレーの幅が驚くほどに広がった。「今まで東野と佐野に支えられてきました。なんとしても自分もここで恩返しがしたいと思って、この2カ月間、自分に何ができるかをずっと考えてきました。インターハイ予選で負けて、本当につらい思いをした中で、どのチームより練習してきた自負がある。この2カ月の練習が一番の自信になりました」
新チーム発足当初からずっと夢に見てきた全国が、ようやく自分たちのものとなった。佐野は「もう一度ディフェンスの強さを高めていきたい」と抱負を語った。
取材・文=青木美帆