「動き出した高校バスケ」――自粛期間も課題克服に取り組んだ桜花学園高校

バスケットができる喜びを感じているという江村優有(左)と前田芽衣(右)[写真]=バスケットボールキング

 高校スポーツの夏の祭典といえばインターハイ。だが、今年は新型コロナウイルス感染症の影響でインターハイは中止となった。それどころか、一時は自粛により部活動ができない時期も――。

 インターハイ優勝、そして国体、ウインターカップと今年も3冠獲得を目指していた桜花学園高校も同様。目下、インターハイ2連覇中の常勝軍団はどのような思いで春の時期を過ごしたのか。今後に懸ける思いとともに井上眞一コーチ、江村優有キャプテン、前田芽衣副キャプテンの3人に話を聞いた。

取材・文=田島早苗

井上眞一コーチ「今は個人技のスキルアップやトレーニングを中心とした練習」

――2月16日に東海新人大会が行われ優勝。しかしその後、新型コロナウイルスの感染が拡大され高校の試合も中止。練習も自粛のために中止となっていきました。桜花学園高校ではどのように過ごしていたのでしょうか。
井上 自粛期間は寮から外出禁止。ただ、うちは寮と体育館がつながっているので、部屋や体育館のフロアなどを使ってトレーニングだけは行っていました。時間で人を分けるなど、人数を少なくしながら行っていました。

 寮からは一歩も出ていない状態だったのでむしろ保護者の方は安心していました。ただ、さすがにインターハイが中止と決まった時には、選手たちのモチベーションも落ちていましたし、気分転換も含め選手たちは一度帰省。新幹線や飛行機を利用するのは感染のリスクが高いので、保護者が車で送り迎えできるという条件ではありましたが。そして選手たちが戻ってきてから、6月上旬には学校側から練習のOKが出たので、ウインターカップに向けて練習を再開しました。

――チーム作りといった点ではプランが大きく変わります。
井上 これからですね。今は個人技のスキルアップやトレーニングを中心に練習をしています。

――井上コーチは、高校の先、大学やWリーグ、または世界でも通用する選手を育てることに重きを置いて指導していますが、その考えはこの状況でも変わらないでしょうか。
井上 そうですね、変わらないです。バスケットを理論的にしっかり教えて、大学に進んでも、Wリーグに進んでもそのチームの監督の言っていることを理解できるような選手を育てたいと思ってます。

江村優有「バスケットができることに感謝して一日一日を大事に」

――(6月末時点で)練習はだいぶいつも通りになってきたのでしょうか?
江村 はい、いつも通りです。私自身はコンディションも変わっていません。

――長崎には帰省しましたか?
江村 していないです。チームメイトの中には寮に残る人もいたので、一緒に残りました。父が車で迎えに行くとは言ってくれたので、帰ろうと思えば帰れましたが、こっちで残るメンバーと一緒に頑張ろうと思いました。

――それはキャプテンとして?
江村 そうです。結果的には桜花に残っていた方がトレーニングもできて良かったのかなとは思います。

――インターハイ中止を知った時はどのような心境でしたか?
江村 ショックで残念、…悔しかったです。

――自粛期間を含めチームとして一番苦しかったのはいつですか?
江村 インターハイが無いと決まった時です。私の意識はそこまで変わらなかったのですが、その頃は、みんなに声をかける事を一番心がけました。

――仲間にはどのような言葉を掛けたのですか?
江村 インターハイがなくなったのは残念だし“3冠”を目指して新チームからやってきてたからショックは大きいと思うけど、これで終わりじゃないから、ウインターカップに向けて、次に向けて頑張っていこうと話しました。

――モチベーション維持が難しい中、キャプテンとしての役目もあり大変だったのではないでしょうか。
江村 大変でした(苦笑)。結構みんなのモチベーションが下がっていて、いつもより練習の質が落ちて雰囲気が悪い時もありました。でも、それじゃ進んでいかないから、率先して声を出して盛り上げました。

――バスケットのできない時間はどのように過ごしていましたか?
江村 NBAの試合などを見ていました。見て学べる部分もたくさんあるので試合やスキルトレーニング(の動画)を見て勉強しました。

――また、制限がある中での練習で取り組んできたことなどはありますか?
江村 井上先生からは脚力が無いと言われてたので、走ることと、ディフェンス力を磨くための練習。それとガードなのでハンドリング、常にボールを触っていました。

――チーム練習が再開した今、意識していることは?
江村 キャプテンなので全体を見て、選手一人ひとりに声をかけていく事と一番声を出す事を意識してます。それと、声だけでなく、プレーでも先頭に立って、お手本になれるように意識しています。

――自粛期間で改めて感じたこと、考えたことはありますか?
江村 バスケットができる環境に感謝して、一日一日をもっと大事にすること。毎日、個人としてもチームとしてもスキルアップに取り組んでいかないといけないなと考えました。

――愛知県は7月末から支部大会の開催も予定されていますし、冬にはウインターカップ開催が臨まれるところです。実際に試合が行われた時にはどのようなプレーを見せたいですか。
江村 前よりも粘り強くプレッシャーかけて、自分達の流れに持っていけるようなディフェンス。それとオフェンスでは以前はアシストが多かったので得点を取りにいくこと。後は一番声を出してコミュニケーションを取っているところを見せたいです。

前田芽衣「コロナのせいと言い訳にしたくない。精神面、プレー面で強くなれたと思えるように」

――部活動が再開するまでの長い期間、どのように時間を使っていましたか?
前田 実家の大阪に帰ったときはインターハイの中止が決まった後だったので、インターハイへの思いを切り替えるためにリフレッシュしていました。あとは体作りしかできなかったので、トレーニングなどをやっていました。

 それ以前、インターハイの中止が決まる前で、桜花にいた時でも練習には時間制限などがあったので、練習後はミーティングをたくさんしました。今までの試合を振り返って、今度練習が再開したらどういう風にやっていこうかなどをチームみんなで話したり、それでも時間が空いたらみんなでトランプをしたりして交流を深めていました。

――今までに無い時間の使い方でもありましたね。
前田 はい。でも、そういう遊びの中でも、こんなに明るい子だったんだとか気付いたこともありました(笑)。特に(4月に入学した)1年生とは関わる時間がそれまではあまりなかったので、自粛期間中にそういった時間が取れました。

――インターハイの中止を知った時は。
前田 ただただショックでしたね。3年生で一回集まった時にみんな泣いていて。なかなか気持ちの整理がつかなかったです。

 インターハイは今年最初、1冠目を目指す大会だったので、それが無くなった時点で目標にしてた3冠、それと井上先生の(全国大会優勝)70回も無くなってしまったので…それが悔しかったですね。※昨年度の時点で井上コーチの全国大会優勝回数は67回。

――インターハイ中止が決定した後、モチベーションを保つのが大変だったのではないですか?
前田 大変でした。目標が遠くなってしまったので、(当初は)1人ひとりが『何を目標にやったらいいんだろう…』となってしまいました。江村と一緒に、みんなを集めて大きな目標は無くなったかもしれないけど、自分たちで課題を作って、それを目標に一日一日やっていこうと言い、モチベーションを保つようにしました。

――自粛期間でバスケットを見つめ直す時間があったと思います。
前田 自分たちが当たり前のようにできていたことができなくなって、改めて自分たちは良い環境でバスケットができていたんだなと思いました。

――練習への取り組み方に変化はありましたか?
前田 過去の試合のビデオをいっぱい見返したのですが、私はまだまだできない事がたくさんあったんだなと思って。その自粛期間中に見つけた課題を一個ずつクリアしていこうとしています。

――そのような気づき含めて、新型コロナウイルス感染症の影響でマイナスの面が大きいとは思いますが、プラス面もあったのでしょうか。
前田 コロナのせいと言い訳にしたくないので、逆に自粛期間があったおかげでプレー面、精神面で強くなれたなと思えるようにしたいです。

 今はウインターカップがあることを願って、その大会に全力を懸けようと思っています。

――自身に課している課題は?
前田 ディフェンスでは足を使うこと、オフェンスでは個人技をやっています。個人技を練習ではできるのですが試合ではできないので、ゲームの中でどこまで使えるかというのがチャレンジだと思っています。

――気持ちも体もだいぶ上がってきましたか?
前田 はい、上がってきました!頑張ります!

 

一時は帰省していた選手も6月中には集まり、チーム練習が再開された[写真]=バスケットボールキング

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