日本バスケット界でトップを走る選手たち。彼ら、彼女たちの今の活躍の礎となっているのが『高校時代』と言っても過言ではないだろう。そんなトッププレーヤーたちが母校の高校生プレーヤーと対談し、アドバイスを送るとともに交流を深める企画。第1弾はENEOSサンフラワーズと日本代表のエースとして奮闘する渡嘉敷来夢と桜花学園高校のキャプテン江村優有。前編に続いて後編でも渡嘉敷のリードのもと、会話は進んだ。
取材・文=田島早苗
江村が出場したジュニアオールスター(中学)で初対面
バスケットボールキング編集部(以下BBK) 小学生の頃から渡嘉敷さんを知っていたという江村さんですが(前編参照)、中学ではジュニアオールスターで活躍。実はこの大会で2人は会っているんですよね。
江村 はい。
渡嘉敷 4年前ぐらいかな。
江村 中1の時です。
渡嘉敷 覚えてた?
江村 はい。
渡嘉敷 自分はね…忘れてた。
BBK 渡嘉敷さん、いろいろな大会で解説やプレゼンターをしていますからね。江村さん、当時、優秀選手に選ばれて渡嘉敷さんから直接、表彰されています。
江村 うれしかったです。
渡嘉敷 頑張ってきた結果があって、表彰式に立てたってことだしね。その時、チームには違う学校の選手もいたんだよね。
江村 はい。
渡嘉敷 その中でスタートだったの?
江村 1年生の時はスタートではなかったのですが、2年生の時はスタートでやっていました。
渡嘉敷 2年連続で(優秀選手に)選ばれるなんてすごくない?私は2年生の時しか選ばれていない。
それに1年生の時、緊張しなかった?それこそ中学(ジュニアオールスター)で1年生から出ていて、高校の時も1年生から試合に出てるじゃん。(学年が)上の人とかに対して緊張しないのかなと思って。(ポジション的に)指示を出す側だし。私は(高校で)1年生から出ていたけど、指示をもらう側だったので、言われた通りにやればいいというか。何か心掛けていることがあれば、ちょっと聞きたい。それこそENEOSは年下の選手がポイントガードだから参考になれば、教えてもらいたい。
江村 自分がやるべきことを考えています。中学の時はセットプレーとかがなくフリーランスで、得意なのは点を取りに行くことだったので、中学の時は点を取りに行っていました。高校に入ってセットプレーをたくさん使うようになって、最初は全然コールとかもなかったんですけど、(先輩から)『思い切ってやりな』と言われてからは、上級生とか考えずに指示を出したり、みんなでコミュニケーションを取ったりして、できるようになりました。
渡嘉敷 じゃあ慣れっこだ。普段は緊張しない?コート上とかだと。
江村 バスケットでは全然緊張しないです。
渡嘉敷 すごいな、今度一緒にやろうね。指示出してね。
江村 (笑)
渡嘉敷 『らむっち』って言ってパス出してね。※編集部注:前編にて互いのニックネームが『らむっち』『えむっち』に。
BBK 江村さんは緊張しないんですよね。
江村 はい。なんか逆に楽しくなっちゃう。
渡嘉敷 うわー、それ言いたい。楽しくなっちゃいますって言えるって、本当に強いというかすごい。根性あるね。すごいなー。
私が高校1年生の時は3年生にペコペコしてたな、ずっと。自分が邪魔しちゃうんじゃないかとか、失敗したらどうしようとかをすごく考えてた。先輩たちの代に関わっていると、自分がミスしたらどうしようとか思わなかった?
江村 ミスしたらどうしようとかは思わないんですけど、どのセットプレーを選択したらいいのかは分からなくなる時はあります。
渡嘉敷 でも普通の高校生は多分、「自分のせいでミスして負けたらどうしよう」とか考えると思うよ。私はENEOSに入ってから、やっと少しずつそれがなくなった。
最初の1、2年目とかは先輩たちが代表クラスですごい選手たちばっかりだったから、ミスしたら「あ、すいません」という感じだったんだけど、(大きな)ケガをしてから、『どうせやるなら楽しくやろう』と思うようになって。だから高校生というか、学生の内にそう思えるのって、環境もそうかもしれないけど、本当に『自分がこういう風になりたい』とか、強い気持ちが無いと出来ないから、すごいね。普段もそんな感じ?何事も緊張しないとか?それともバスケットの時にスイッチ入って変わる?
江村 取材とかみんなの前に立つときは結構緊張します。
BBK 試合よりインタビューの方がダメですか?
江村 全然ダメです。
渡嘉敷 もうね、そのコツを言うとね、思ったことを大きい声ではっきり言えば大丈夫!優勝した後だと、みんな「きっと舞い上がってるな」と思ってくれるから、思ったことをバッといえば大丈夫。うれしいことを大きい声で表す!
昨年ウインターカップ決勝でのプレーを江村本人と渡嘉敷が解説
BBK さて今回は、江村さんにこれまでの高校でのベストプレーをあげてもらっています。昨年のウインターカップ決勝での1シーンですが、これを選んだ理由は?(第3クォーター残り38秒で決めたドライブからのシュート)
渡嘉敷 あ、聞きたかったそれ。
江村 3クォーターの残り1分を切ったぐらいで、(あの時は)1点差で負けていたんですけど、そこでドライブで点を取って逆転したところを選びました。
渡嘉敷 (ドリブルで)ビハインドしてね。すごいなと思いました。こういう3クォーターで競っているタイミングでましてや2年生であのシチュエーションでしっかりと決め切れる、リングにアタックできるという姿勢がすごいなと思いました。
BBK あの時の心境は私が行くという感じでしたか?
江村 点を取りに行ってやるという気持ちで行きました。
渡嘉敷 大事、その気持ちがね、大事。競っている時とか、ミスが続いた時にそういう気持ちになれるってすごく大事だと思います。しかも相手が少し大きい選手が付いていたよね?
江村 はい。大きかったです。
渡嘉敷 あれも良かったなって。普通に(シュートに)行ったらブロックされるところを角度もいい感じで。(相手は)ブロックできないんだろうなって思いました。
江村 ありがとうございます。ブロックされないように角度を変えて(打つ)というのは、いつも考えてやっているので、自然と出ました。
渡嘉敷 もう身に付いているってことだね。すばらしい。
BBK 渡嘉敷さん、あのプレー見て、他に何か技術的な印象は?
渡嘉敷 ハンドリングがすごくいいなと思いました。ビハインド(のドリブルを)してから行くとか、トップ選手でもそんな簡単にとっさにビハインドしたり、レッグスルーとかできる選手はいないと思うので。ハンドリングは結構得意?
江村 はい。
渡嘉敷 全力選手権でもすごかったよね。(渡嘉敷が審査員を務めた日本テレビの『高校生全力30秒選手権』)。試合のあの場面で普通にハンドリングしていくから、自信あるんだなと思って。
江村 いつもルーティンでボール2個のドリブル練習、ハンドリングをやっていて、それは小さい時からずっとやってきたことです。
渡嘉敷 それがあの場面で出せるというのは、小さい時からというかずっとやってきているからだと思いますね。自分もやろうかな?今からでも遅くないかな?(と江村に問いかける)
江村 はい(笑)
渡嘉敷 OK、やるわ。
BBK 江村さん、パソコン越しではありますが、直接話をしての渡嘉敷さんの印象は?
江村 面白いです。
渡嘉敷 なんでも買ってあげる。次会った時。
BBK どういったところが面白かったですか?
江村 会話が楽しいというか。
渡嘉敷 何言っても大丈夫だよ。
江村 バスケに関してもためになることをたくさん教えてもらったし、普通の会話でも楽しく会話できたので、面白かったです。
渡嘉敷 本当に楽しいと思ってた? 大丈夫?
江村 はい(笑)
渡嘉敷 見た目ほらちょっと怖そうだなと思われること多いの、本当に。あんましゃべらない方がいいよと言われることも多いんだけど、でも割と、こういう感じだから、次会った時は『らむっち』『えむっち』でね。あだ名をつけ合った仲だから。
BBK 渡嘉敷さん、江村さんの印象は?
渡嘉敷 ちょっとまだね、緊張気味なんで、堅いから。これは直接会った時にひたすらいじって、嫌がれるぐらい、しゃべり倒したいなという印象ですね。
桜花学園に行く機会もあると思うので、卒業する前に絶対に行って会って、たくさんしゃべって、『この先も頑張れよ』『いつか一緒にやろうぜ、いえい』っていうノリでしゃべれたらなと思いました。
ウインターカップも今年、開催されれば会場には行くと思うので、その時に喝を入れて、逆に『お前も頑張れよ、らむっち』と言ってもらえるように(笑)
BBK 最後、江村さんは今後に向けての意気込みを。それを受けて渡嘉敷さんからエールをお願いします。
江村 1年生の時からずっとスタートでやってきて、高校最後の年で最後のウインターカップで絶対に優勝できるように。今の課題と個人の課題を改善して、精度を上げて優勝できるように頑張ります。
渡嘉敷 心強いお言葉を聞けたので、母校でもありますし、こうやってほんとに一緒にね、しゃべったり、いろんな話をできた『えむっち』を全力で応援します。
ウインターカップまで期間も長いし、新型コロナウイルスの影響で本当に大会がどうなるかわからないからモチベーションを保つのも大変だけど、一日一日、えむっちが言ったように、自分の課題やチームの課題を解消して。今の仲間と一緒に協力しながら、先生とも仲良くわいわいして、最後いい形で終われたらなと思います。絶対に優勝してね。
江村 はい。頑張ります。
渡嘉敷来夢(とかしき・らむ)
1991年6月11日生まれ/埼玉県出身/193センチ
桜花学園高校時代は1年生から主力を担い、3年間での全国大会優勝は8回。高さに加え、強さと走力を兼ね備え、ENEOSサンフラワーズでも幾多の優勝をけん引。シュートエリアも拡大し、日本代表でもエースとして活躍を見せている。2015年から3シーズン、WNBAでプレーした。
江村優有(えむら・ゆうあ)
2002年12月4日生まれ/長崎県出身/160センチ
中学時代はジュニアオールスターで2年連続の準優勝。抜群の得点力でチームをけん引した。桜花学園高校入学後も、1年生からスターターを担い、得点を量産。またポイントガードとしてもゲームを組み立てる存在で、3年生となった今年はキャプテンの責務も担っている。