イランの2大カリスマ、バハラミ&ハダディは不在
「FIBAバスケットボールワールドカップ2019 アジア地区 2次予選」にて最大の敵となるのがイランだ。日本が2次予選で戦うカザフスタン、カタール、イランの戦力を考えれば、9月17日のイラン戦こそが天王山ともいえる戦いになる。現在3連勝中の日本だが、グループ成績では4位。ホームで迎えるこのイラン戦は、何が何でも落とせない決戦だ。
イランは2007年にアジア王者に輝いて以降、高さと組織力を誇るバスケで常にアジアの強豪として君臨してきた。だが、9月17日に戦うイランはこれまでの顔ぶれとは違うメンバーが来日する。長年、イランを支えてきた元NBAプレーヤーのハメド・ハダディ(218センチ/33歳)と得点源でチームリーダーのサマド・ニックハ・バハラミ(198センチ/35歳)がロスターから外れたのだ。2人はイランではカリスマ的存在。9月13日にホームで迎えたフィリピン戦ではベンチ入りしており、バハラミは攻守の要となって活躍。ハダディは試合が決してから最後に56秒だけ出場しているが、両者ともに日本戦のメンバーには入らなかった。
その理由をイランのヘッドコーチは「ハダディはアジア競技大会前から続く負傷の治療のため。バハラミは新チームとの契約に向けて、Gリーグ挑戦のため渡米」と説明。イランはこの2人がいるといないとでは、全く別のチームになる。バハラミは2015年を最後に一時は代表から退いたものの、Window2で代表に復帰してからは、相変わらずのリーダーシップと得点力を見せつけており、ハダディに至ってはイランにおける戦術の起点である。218センチの高さを活かした攻防もさることながら、周囲を活かすアシストや駆け引きにも長けており、アウトサイドのシュート力もある本当に厄介な選手なのだ。
ただ、2人が大黒柱となった先日のアジア競技大会の決勝では、若き中国の3ポイント攻勢を抑えることができず、後半に失速して敗れている。ハダディはもともと負傷を抱えたままアジア競技大会に出場しており、準決勝の韓国戦で気迫を見せた以外は1試合をとおして走れずにいた。そんな状況でもハダディありきの戦術で戦っていたために、ベテラン2人への依存という欠点を露呈していた。すでにイランは1次予選終了後に、これまた長きにわたってチームを支えてきたパワーフォワードのオシン・サハキアンが代表から引退している。本格的な世代交代に差し掛かった中で2次予選を迎えることになった。
カゼミを筆頭にリバウンドとフィジカルの強さは健在
バハラミとハダディの不在により戦力ダウンは否めないイランだが、それでもここ数年、中堅どころの主軸には変動がない。2017年2月に札幌にて開催された国際強化試合では今回来日している6名のほか、若手育成のためにU18代表選手3名を起用しながらも、日本に1勝1敗の成績を残している。その要因となったのは持ち前のリバウンド力。ハダディの高さが抜けても、やはりカギとなるのはリバウンドとなる。
イランの主要選手を紹介しよう。身体能力が高く、リバウンドに強いのがアーサラン・カゼミ(41番/201センチ/28歳)。2013年のNBAドラフトでは2巡目54位でワシントン・ウィザーズに指名され、2015年にはアトランタ・ホークスのトレーニングキャンプ契約にこぎつけている。結局、一度もNBAの舞台は踏んでいないが、NBAにドラフトされた初のイラン人である。2010年の世界選手権では得点源として活躍しており、大舞台での活躍は実証済みだ。ただし、アジア競技大会準々決勝の日本戦で足首に重度のねん挫を負っている。その回復具合が気になるところだ。
攻撃型の司令塔を務めるのがサッジァド・マシャイエヒ(5番/183センチ/24歳)。18歳で代表入りし、10代の頃からリーダーシップを発揮。13日のフィリピン戦では19得点をマークして強気な攻めが目立った。得点面では昨年のアジアカップでベスト5を受賞したモハマド・ジャムシディ(13番/199センチ/27歳)が軸となる。好不調の波が激しい選手だが、外角シュートと走力を兼ね備えたスウィングマンとして躍動する。アグレッシブな攻撃力を持ち、時にポイントガードまでこなすのがベフナム・ヤクチャリ(8番/191センチ/23歳)。17歳で代表入りを果たしてから、毎年成長を見せている次世代のエース候補だ。
そして抜群のリバウンド力を誇るキーマンがモハマド・ハッサン(77番/201センチ/27歳)。アジア競技大会準決勝の韓国戦では18点11リバウンドを記録してハダディの負担を軽減させている。また忘れてはならないベテラン選手が、司令塔のアレン・ダバウディ(7番/186センチ/32歳)。2012年に日本で開催されたアジアカップ(現アジアチャレンジ)では日本の優勝を打ち砕く3ポイントを決めた選手。その時の会場は今回の舞台である大田区総合体育館。ゲンのいい場所でその経験値を期待されている。
さらに、今夏のジョーンズカップでB代表のエースとして活躍したヴァヒド・ダリザハン(10番/198センチ/23歳)が、A代表に引き上げられたことも注意しておきたい。次世代のシューターとして期待されている選手だ。
ここ数年、主軸が育ってきたにも関わらず、バハラミとハダディに依存して同じ戦い方しかできなかったイラン。カリスマ的存在が急に抜けて立ち向かわなければならないのが、Window4の日本戦である。エースが不在ならば、不在なりの戦い方を短期間で作り上げているのかどうかがポイント。新生チームながらも主軸は揃っているだけに、やはりイラン戦こそが最大のヤマ場となる。
文=小永吉陽子
■対イラン、国際大会での主な戦績
・2010年アジア競技大会
予選ラウンド:56-57 ●
3位決定戦:66-74 ●
・2012年アジアカップ
予選ラウンド:65-71 ●
決勝:51-53 ●
・2014年アジアカップ
予選ラウンド:56-66 ●
・2015年アジア選手権
予選ラウンド:48-86 ●
3位決定戦:63-68 ●
・2016年アジアチャレンジ
予選ラウンド:57-68 ●
・2017年国際強化試合
第1戦:85-74 ○
第2戦:68-73 ●
・2018年アジア競技大会
準々決勝:67-93 ●
※2016年よりアジアカップ=アジアチャレンジ、2017年よりアジア選手権=アジアカップに名称変更