2021.02.11
志村雄彦と大神雄子――。ともに35歳を迎えた同級生で、学生時代から刺激しあってきた2人。お互いに高校で日本一を経験し、U18代表ではキャプテンを務め、いつの時代も強烈なリーダーシップを発揮し、アンテナを張り巡らせては情報を発信する存在だった。
そんな一時代を駆け抜けた2人の『雄』が、昨季かぎりでユニフォームを脱いだ。お互いに力が尽きたわけではない。「仙台89ERSのチーム体制が新しくなる中で、新しく社長になる渡辺太郎さんに『一緒にチームを強くしよう』と言われて、次の道はこれだ! と思ってフロントに入りました」(志村)、「指導者になるセカンドキャリアを考えた時にいつか辞める日が来ますが、逆算するとそのタイミングが今だと思った」(大神)と、それぞれに新しい道に進むことを決意しての引退だった。
現役時代にリーダーであり続けた2人の『雄』がバスケ界に残したこと、そして今後は支える側として伝えていきたいことは何か。時同じくして引退し、新たな道に進んだからこそ実現した『W雄』対談を3回にわたってお届けしたい。
――高校時代からリーダーシップを発揮してきた2人が同じタイミングでの引退。自身のキャリアで印象に残っていること、バスケ界に伝えられたと思うことは何ですか?
志村 僕のキャリアではBリーグができたことが一番良かったことだし、Bリーグを経験したことがいちばんの出来事ですね。大学を卒業してJBLの東芝に入団し、次にbjの仙台に移籍。そしてリーグが一つになったことで、僕は3つのリーグを経験できたんですね。それぞれが過渡期だったので、バスケット界の移り変わりを体験できたのはかけがえのない経験でした。それは、これからのポジションに生かせると思います。
正直なことを言うと、もっと早くに引退すると思ってたんですよ。でも周りがどう思うかわからないけど、僕自身は年々成長できている手ごたえがあって、ここまで続けることができました。とくに仙台に移籍してからはプレータイムが長くなったので、年を重ねてからのほうがバスケットは面白かったですね。若い頃は勢いある中でやっていたけど、年々、ゲームメイクやゲームを支配していくのが楽しくなっていきましたね。自分はサイズがない中でどこまでやれるのかが永遠のテーマだったので、その中でキャリアを積めたことが自信になっているし、やれることを見せられたと思う。そうした僕のキャリアが誰かに影響を与えられたのならいいな、と思っています。
大神 雄彦が3つのリーグを経験したと言いましたけど、私自身も3つのリーグを経験しました。日本のWリーグ、アメリカのWNBA、中国のWCBAです。アメリカと中国は挑戦するのはワクワクした半面、生き残るためには不安もありました。その中で自分のパフォーマンスを上げていくための工夫をしたり、体作りや食生活を学んだりすることは日々発見の連続でしたね。
あと、誰も経験したことがないことでいえば、自分は所属がないシーズンを1年送りました。中国と再契約しようとしたところで急にアジア人枠が撤廃になり、Wリーグの登録期限に間に合わなかったんです。これはもうあってはならないこと。そんな辛い思いを唯一自分が経験したからこそ、Wリーグの登録問題では、自分しか言えないことだと思って意見を言い続けてきました。
選手としては、本当にいろいろなことがありました。日本代表も経験してオリンピックや世界選手権(現ワールドカップ)に出場したし、日本代表から外れる経験もしました。選手であるうちは、勝ったり負けたりの感情が行ったり来たりでしたが、それも含めて、このバスケットボール人生は楽しかったし、今も楽しいです。ありがたいことに、自分はこれからも表現できる場所をいただいているので、そういう意味では、これからもバスケット界で発信していきたいですね。
――引退しても休む暇なく動き出していますが、今後の仕事は具体的にどのような内容になりますか?
志村 僕は新会社の取締役になりました。チームではGMとして主に強化を担当していますが、講演もイベントも何でもやっています。GMとしては選手との契約交渉をして、外国人選手の選定もします。クラブのビジョンやフィロソフィーをフロントと選手が共有し、B1昇格という目標に向けて覚悟を持って戦い抜くことをチームに植え付けていくのが仕事です。
大神 自分は3年お世話になったトヨタ自動車アンテロープスでデベロップメントコーチになりました。デベロップは発展、進化という意味があり、様々なところで勉強していく中で得たものをチームや選手に伝えていく役割になります。これまでも、WCBA時代のヘッドコーチであるルーカス(・モンデロ)が指導しているロシアリーグのプレーオフも見に行きましたし、中国のナイキキャンプでコーチングの勉強もしました。今はJBAのコーチ研修も受けています。また先日、日本協会のアンバサダーに就任したのですが、バスケットが大好きな皆さんの思いや意見を日本協会の中に伝えることが自分の責任だと思っています。
※対談〈2〉に続く。
取材・文=小永吉陽子
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