2018.08.01

志村雄彦×大神雄子対談<3> GMとして、指導者として、これからのバスケ界に伝えたいこと

現役生活に別れを告げ、すでに新たな分野で挑戦を始めているという2人[写真]=小永吉陽子
スポーツライター

 昨季限りで現役を引退した志村雄彦大神雄子。『W雄』対談<3>は、2人の新しい職での役割と今後のバスケットボール界に伝えたいことを聞いた。プロの世界で常に自己表現し、意見を発信し続けた2人だからこそ、次なる道での動きが注目されている。

選手だからこそ発信できる特権がある

「選手だから言える特権がある」と、現役時代は選手の代弁者の役割を果たした大神雄子[写真]=加藤誠夫


――2人はキャリアを重ねるごとに、自分の意見を述べる機会や、行動で示すことが増えていきました。大神さんなら海外挑戦やWリーグの登録制度の問題定義。志村さんだったら企業とプロチームの両方を知る存在としての発信や、震災復興については当時も今も活動しています。その発信力はとても影響力がありましたが、どういう思いで行動し、声を上げているのでしょうか。

大神 バスケットは自分たちの代で終わりではなく、20年後、50年後と続いていくものなので、もっと良くなれるという思いで、自分の経験をもとに発信していました。自分としては、チームに所属できなかった辛い経験があったので、Wリーグの登録期限や移籍の件で意見を言わせてもらい、だんだんと変わってきたことは良かったと思っています。<※> そういうのは選手だからこそ言える特権なので、選手みんなの代弁として言わせてもらいました。

<※>Wリーグの選手登録期限=2014年以前、選手登録は5月末で締め切っていたが、2015-16シーズンより、5月末と8月末の2段階でエントリー締め切りを設けることになり、移籍を伴う場合の選択肢が広がった。また2016-17シーズンからはアーリーエントリー制度が開始した。

志村 情報発信のしかたは時代の違いもあるかもしれません。今は主にSNSで発信するじゃないですか。それだと選手は周囲の反応が怖いと思うので、なかなか言い出しにくい面もあるかもしれません。やっぱり、選手というのはチヤホヤされるもの。特に男子はそうでよすね。自分のネームバリュー以上に、勝手にイメージが作られているところがあり、正直、そこに選手の行動や意識が追いついていないです。

 シンも言ったように、選手には選手の特権がある。選手だけが唯一リスクをとって、そこで大きなリターンを取れる可能性がある。それが選手の醍醐味。それはプレーでも言えることで、コーチがこうやりなさいと言っても、「自分はこうやりたい」と思うプレーをしたら、コートの中ではそれが正解になります。プレーをするのは選手ですから。だから、リスクばかりを考えると発信もできなければ、自分が思ったプレーもできないですよね。

 そこで、これからは選手自身がどう行動していくかの教育をしなければならないと思っています。今は新体制になってチームのカルチャーを作っているところなので、そうした面を伝えていくためにも、選手時代にたくさん経験できたことはよかったです。

「人と人のつながり」を大切にするGMとコーチに

仙台のGMとして、今後は「ナイナーズがあることでみんなの生活が豊かになってほしい」と志村雄彦[写真]=B.LEAGUE


――すでに忙しく飛び回っている2人ですが、今はどのような日常を送り、新しい道を踏み出した感想は?

志村 数カ月前まで選手だったことを忘れるくらい忙しいのですが、オン・ザ・ジョブで鍛えられています。何より人と出会って交わるのがめちゃめちゃ楽しいですね。この数カ月でたくさんの人と会って話しましたが、人と人とのコミュニケーションこそが大切だと改めて感じています。ナイナーズの会社にいる皆さんが常に動いていることも改めて分かりました。それはうちの会社だけではないと思いますが、僕一人がコートに立つまでにどれだけの人が関わり、こんなにも動いていたのかと思うと、感謝の気持ちしかない。そんな気持ちで毎日仕事をしています。

大神 私もすごく忙しくて「シンは今どこにいる? どこに行けば会える?」とよく言われるんですけど、いろんなカテゴリーでコーチングの勉強をしたり、イベントでバスケを広めることをしています。雄彦も言ったように、とにかく人との出会いがめちゃめちゃ面白くて刺激を受けています。バスケットに対してアプローチのしかたがいっぱいあることが、この数カ月でも本当に勉強になりました。

――選手時代の経験を生かして、新しい職ではどのようなアプローチで手腕を発揮していきたいですか?

志村 ここまで話してきて感じたのは、シンと僕は『グローカル』だということ。シンは日本協会のアンバサダーという大きな役職があるし、世界のコーチたちから勉強しているので、これからもバスケット界を広く見て人材を育てていってほしい。僕は仙台から日本一、世界へと発信していきたい。シンは大きな枠でグローバル。僕は地方でローカル。だからグローカル。でも目指すところは「バスケットを盛り上げたい」という思いは一緒ですね。

 僕はバスケで人々を、そして地域社会を豊かにしたい。そしてバスケがある生活を仙台や東北の人たちの文化にしたい。それが僕のやりたいことであって使命。そのためには、チームが強くならないといけない。でも強いだけではだめ。ファンから応援されるチームでありたい。男子のリーグはさんざんいろんなことがあったけど、こうして改革して一つになった今、地方からの発信も盛んにしていきたい。地域にナイナーズがあることがみんなにとって誇りになり、ナイナーズがあることでみんなの生活が豊かになってほしいし、それがスポーツクラブの目指すべきところ。そこで、僕がJBL、bj、Bリーグの3つのリーグを経験したことが生かせると思っています。

大神 日本の女子はもっと発展していけるし、国際舞台で結果を残しているので、強化の方向性は間違ってはいない。でも2020年の東京オリンピックを迎える勢いの中で、Wリーグはもっと改革できる、いや変革できると思っています。自分は指導者になるビジョンは変わってませんが、今はトヨタのデベロップメントコーチになったように、『発展・進化』という意味で、周りから得たものを取り入れたり、どう生かしていくかの提案をして、女子バスケが成長していく手助けがしたいです。

――大神さんは将来的にどんなコーチを目指しているのでしょうか?

大神 今はライセンス取得を含めてあちこちで勉強中なのですが、5年後、10年後のビジョンとして考えると、自分は現場でチームを指導したいです。その中でもどちらかというと、戦術というよりは人を育てたい。自分の人生がバスケットで成長できたように、選手にとってそういう場所を提供したい。選手での経験をしっかりとプラスにできるようなコーチになりたいですね。

志村 Bリーグ初の女性ヘッドコーチとしてやってみない?(笑)

大神 おお!志村GM、私を雇ってくれますか?(笑)。なーんて、そういうオファーがくるくらいの力をつけたいですね。今、“学びたい欲”がすごいんですよ。コーチングもそうだし、栄養学とか、もうたくさん勉強がしたいです。

志村 それは僕も同じ。現場で人に会って、たくさんのことを吸収して、動き続けます。これからも仙台から発信していきますので、仙台の試合をぜひ見に来てください。

取材・文=小永吉陽子

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