手応えを感じた「2019アジアオセアニアチャンピオンシップス」
「今年はチームとしてすごく成長したと思います」
キャプテンの藤井郁美は2019年をそう表した。
11月29日~12月7日、タイ・パタヤで開催された「2019アジアオセアニアチャンピオンシップス」。この大会は東京パラリンピック予選会を兼ねたもので、日本はすでに開催国枠でのパラリンピック出場は決まっていたのだが、“アジアオセアニアチャンピオン”として来年のパラリンピックを迎えるために「優勝」を目標に掲げて大会に臨んだ。
結果は6試合を戦い1勝5敗の銅メダル。しかし、優勝こそ成らなかったが、女子日本代表にとっては大きな手応えを得た大会となった。
予選ラウンドでは世界4位の中国と2回対戦し、勝利を手にすることはできなかったものの、岩佐義明ヘッドコーチは、日本の「ディフェンス力」が向上していることを1年前の対戦時との違いに挙げた。加えて、「トランジションからのアーリーは日本の武器になっています」と手応えを感じたのは山﨑沢香アシスタントコーチ。速い切り替えから相手ディフェンスが整わないうちにシュートまで持ち込む攻撃は、アウトサイドだけではなくカットインして得点するシーンを作り出した。
それらは、イージーなシュートを相手に打たせないためにディフェンスラインを高くすることに取り組んだことや、「走るバスケット」を追求する中で走力を鍛えるなど地道な努力の賜物だった。その結果、中国に対して『全く歯が立たない』という感覚は払拭され、『フィジカルでも行ける』『思っていたよりスピードはない』と感じるまでになったのだ。
オーストラリア戦でも同様、大会全体を通してディフェンスでの成果をあげた。一方で、課題はシュート力と指揮官は語る。高さに対する恐怖心を無くし、どんな状況でも打ち切る力を持つ「シューター軍団」を作っていきたいと先を見据えた。
大会を経験するごとに自信を付けていった
今年、日本で開催された国際大会を振り返ると、そこには大会ごとに成長していく姿があった。
2月に開催された「2019国際親善女子車いすバスケットボール大阪大会」。昨年の世界選手権でのチャンピオンであるオランダから前半リードを奪い、日本が世界の脅威になりうる存在だということを示した。また、イギリス戦では攻守ともにアグレッシブなプレーが光り54-60と世界選手権準優勝のチームに対し6点差に迫る好ゲームを演じた。試合ごとに選手から「自信」という言葉が聞かれ、とても印象的な大会となった。
そして8月29日~9月1日に東京で開催された国際強化試合「日本生命WOMEN’S CHALLENGE MATCH 2019」。“自信”ではなく“勝利”を手にすると臨んだオーストラリアとの3連戦では2勝1敗と勝ち越しただけではなく、最後の最後までもつれた最終戦では大逆転劇を演じ、チームに「勝ち切る」という大きな経験をもたらしたことも記憶に新しい。
さらに今回の「2019アジアオセアニアチャンピオンシップス」では、自らの力を発揮できない初戦の難しさや悔しさ、これまで積み上げてきたハードワークへの手応えとともに明確な課題を知ることができた。
自信、喜び、勝ちへの執念、悔しさ、はがゆさ…。すべての経験が財産となり、来年に向けて前進するための推進力となる――。
キャプテンの藤井が語るもう一つの成長、それはチーム力にある。“コミュニケーション”を積極的に取り、本当にいいチームを作るためにどうしたら良いか、みんなでいろいろなことを話し合った一年だったという。
藤井自身、キャプテンとして意識しているのは、毎日一人一人とコミュニケーションをとること。チームメイトが何を思っているのか、何を考えているのかなどしっかりと向き合い、互いを知ることでチーム全体をまとめることを心がけてきた。
今年最後の試合を終えた日、「すごくいいチームになってきているので、だからこそ勝ちたい。来年もっと強くなるためにみんなで頑張っていきたいです」と言葉に力を込めた。
車いすバスケットボール女子日本代表が東京パラリンピックで目指すのは“銅メダル”。ロンドンとリオデジャネイロと2大会連続でパラリンピック出場を逃した現状を踏まえ、地に足が付かない高すぎる目標ではなく堅実に狙いに行ける目標を据えた。
もうすぐ、パラリンピック本番の年が明ける。来るべき時に向け、成長スピードを上げていく。
文・写真=張理恵