「ハーデンのすごい点は、より良い選手になるべく、努力を惜しまないこと」
9月24日。今季のメディアデーとトレーニングキャンプが間近に迫る中、ヒューストン・ロケッツのマイク・ダントーニHC(ヘッドコーチ)が日本のメディアとの合同電話インタビューに応じた。
ダントーニHCは2000年代中盤に、フェニックス・サンズでアップテンポかつ超攻撃的なバスケットボールを展開。スティーブ・ナッシュ(元サンズほか)やアマレ・スタッダマイヤー(現未所属)、ショーン・マリオン(元サンズほか)といった選手たちを中心にリーグ屈指の強豪として君臨したサンズの指揮を執っていた。
その後、ニューヨーク・ニックスとロサンゼルス・レイカーズで指揮を執り、ロケッツの指揮官として今季で就任4シーズン目を迎える。
ロケッツの指揮官に就任後、ダントーニHCは「ピック&ロールの使い手としてリーグ屈指の実力を持つ」と評したジェームズ・ハーデンをポイントガード(PG)に任命し、ボールハンドラーとしての役割を与えると、16―17シーズンにハーデンはアシスト王に輝くなど存在感を増した。
一昨季は平均30.4得点で自身初の得点王に輝いたほか、ロケッツをリーグベスト、フランチャイズ史上ベストとなる65勝17敗へと導く殊勲者となり、シーズンMVPも獲得。昨季はウェスタン・カンファレンス4位の53勝29敗を残す中、ハーデンは歴史的なスコアリングショーを演じ、平均36.1得点という驚異的なパフォーマンスを見せていた。
ハーデンを間近で見てきたダントーニHCは「彼のすごいところは、彼自身の『もっとうまくなりたい』という思い。自分に満足することなく、常にそれよりもさらにいい選手、うまい選手になるべく、努力を惜しまないことだと思っています」と絶賛。
ハーデンとウェストブルックは「自分たちで解決策を見出すでしょう」と言及
ロケッツは直近2シーズン、クリス・ポールというリーグ有数の司令塔を擁していたのだが、今夏ポールを複数のドラフト指名権と共にオクラホマシティ・サンダーへ放出。代わりに3シーズン連続で平均トリプルダブルを記録中のラッセル・ウェストブルックを手に入れた。
ダントーニHCは「クリス・ポールを失ってしまったことは私にとって非常に残念なことです」と語るも、ウェストブルックについて「リーグ内で、ほかの選手にはないレベルの身体能力を持っています。チームとしてもっと速くプレーしたいという思いがあったので、彼が加わったことで、それが実現できるのではないかと思っています」と語っていた。
ロケッツといえば、ハーデンに続くイメージとして、3ポイントシュートを挙げる方がいるかもしれない。それもそのはず、このチームは過去3シーズン、いずれもリーグトップの試投数を記録しており、直近2シーズンでは全体のフィールドゴール試投数のうち、3ポイントが半分以上を占めるインパクト大の実績があるのだから仕方ないこと。
電光石火のごとく、リング下へ強行突破するウェストブルックが加わったことで、今季はファストブレイクの機会を増やし、3ポイントの多用から脱却することも考えられるのだが、ダントーニHCはポールがプレーしていた過去2シーズンを振り返りつつ、冷静に分析していた。
「やってみないと分かりませんが、そこまでは変わらないんじゃないかなと思っています。ラスの場合はドライブで切り込んだら自分でフィニッシュまで持ち込めますし、そこからキックアウトして(チームメートたちが)3ポイントを打てると思います。そこまで大きな変化にはならないんじゃないかなと思います。ポールはそこまで優秀な3ポイントシューターではありませんでしたが、それでもこのチームの3ポイント試投数は減りませんでしたので、(PGが)ラスになっても、そこは変わらないんじゃないかと思っています」。
今季のロケッツを語るうえで欠かせないのが、やはりハーデンとウェストブルックの連係だろう。「俺はオフボール(ボールを持っていない状態)でもゲームにインパクトを与えることができる」とウェストブルックが語っていたこと、そして両者は“優勝を勝ち取るため”に再びタッグを組んだこともあり、ダントーニHCもあまり問題視していないという。
「お互いの話し合いによって解決することが必要だとは思いますが、ポールとハーデンがそうだったように、これは起こることだと見ています。ですが今回は『お互いが一緒にプレーしたい』という思いが非常に強いので、そういう選手たちは自分たちで解決策を見出してくれると私は思っています。なので、そこまで問題になることではないと見ています」。
「ロッカールームでもいい効果をもたらす」と新加入チャンドラーに期待
また、ダントーニHCはシーズンMVPを獲得した経験を持つハーデンとウェストブルックだけでなく、既存の主力たちについてもこのように語っていた。
「ハーデンについては、もっと速いプレーをしてほしいということ。そうすることで、オープンコートで非常に驚異的な選手になることができると思うので、期待していますし、チームもより楽に戦うことができるんじゃないかと考えています。また、エリック・ゴードンも非常にいいシーズンを送るんじゃないかと思っていますし、クリント・カペラはキャリアベストのシーズンを送ることができるんじゃないかと期待しています。どうしても、ラスやハーデンに関する話になってしまいがちなんですけど、ほかの選手たちもしっかり貢献しているということを、我々は非常に高く買っています」。
ロケッツは今夏、フリーエージェント(FA)でベテランのタイソン・チャンドラーやタボ・セフォローシャ、若手から中堅ではベン・マクレモアやアンソニー・ベネットといった選手を獲得。
新加入選手の活躍も気になるところではあるものの、10月8日と10日にさいたまスーパーアリーナで開催されるジャパンゲームズは、トレーニングキャンプ直後と言ってもいいだけに、ダントーニHCは慎重に言葉を選んでいた。
「新加入の選手たちがどこまでプレーするかは分かりませんし、どこまでインパクトを残せるかも分かりません。ただ、マクレモアには非常に期待していますし、チャンドラーもとても期待しています。ただ、ジャパンゲームズはトレーニングキャンプが終わってすぐの段階ですので、どこまで仕上がっているかというのはちょっと分からないすね。ただ、(チャンドラーは)ロッカールームでもいい効果をもたらしてくれると思っており、期待しています」と指揮官は言う。
ハーデンとウェストブルックが健在な限り、ロケッツは今季も優勝候補の一角と目されるだろう。「期待値というのはいつも高くて、毎年のように優勝を期待されているんですけど、今シーズンは8チームくらい、優勝候補がいます」とダントーニHC。
今季をとおして、ダントーニHCは「我々としては、いいチームになるためには多少時間がかかるだろうと考えています。多少の運の要素も、どうしても入ってくると思います。健康でいられるかどうか、あとはビッグプレーをしっかりと遂行することができるかどうか、というところもあるんじゃないかなと思います」と語っており、一昨季のように主力選手たちがシーズンをとおして健康を保つことは今季成功を収めるうえで大きなカギの1つと言っていい。
そして、どこまでチームケミストリーを構築し、既存戦力と新加入選手たちがかみ合っていくことができるか。そういった点が、激戦のウェストで上位シードを獲得し、チャンピオンシップを勝ち取るために必要な要素となってくるだろう。
文=秋山裕之