新型コロナウイルスの感染拡大を防止すべく、世界最高峰のエンターテインメント、NBAは3月13日(現地時間12日、日付は以下同)より2019-20レギュラーシーズンを中断することを余儀なくされた。6月に入り、7月31日からフロリダ州オーランドで22チームが参戦し、シーズンを再開することが決まった中、65試合前後を消化した各チームならびにその主要選手たちを振り返っていきたい。
※データは日本時間3月12日終了時点、%=パーセント、評価は上から順にS、A、B、C、D、Eの6段階
2019-20シーズンNBA通信簿選手編25 ブランドン・イングラム
所属:ニューオーリンズ・ペリカンズ(ウェスタン・カンファレンス10位)
総合評価:A
■プロフィール
生年月日(年齢):1997年9月2日生まれ(22歳)
ポジション:フォワード
身長/体重:201センチ/86キロ
NBAキャリア:4年目
<今季ここまでの功績>
オールスター選出(初)
週間最優秀選手:1度
<2019-20シーズン 個人成績>
平均出場時間:34.3分
平均得点:24.3得点(リーグ13位)
平均リバウンド:6.3本
平均アシスト:4.3本
平均スティール:1.0本
平均ブロック:0.7本
フィールドゴール成功率:46.6%
3ポイント成功率:38.7%
フリースロー成功率:85.8%
■主要項目におけるシーズンハイ(相手チーム名は略称)
出場時間:41分25秒(20年3月5日/対マーベリックス)
得点:49得点(20年1月17日/対ジャズ)★
リバウンド:15本(19年10月27日/対ロケッツ)★
アシスト:11本(20年1月9日/対ブルズ)★(キャリアハイタイ)
スティール:3本(3度)
ブロック:3本(19年10月26日/マーベリックス)★(キャリアハイタイ)
フィ―ルドゴール成功数:17本(19年11月5日/対ネッツ)★
3ポイント成功数:7本(19年12月26日/対ナゲッツ)★
フリースロー成功数:16本(20年1月17日/対ジャズ)★
★=キャリアハイ
ショットの精度が上がり、スコアラーとしてひと皮むけてオールスターへ
キャリア3年目の昨季、ロサンゼルス・レイカーズでプレーしていた細身のフォワードは、右腕に静脈血栓塞栓症を負い、一足早くシーズンを終えて右腕の血栓を除去する手術を行った。
昨夏アンソニー・デイビスが絡んだ大型トレードで新天地ペリカンズへ加入も、7月中旬に行われた入団会見でシュートフォームの確認やボールハンドリングのドリル、下半身のワークアウトこそできているものの、シューティングの練習はできていないと明かし、「もう少しで通常のワークアウトができるようになる」と話していた。
その後順調に回復したイングラムは、プレシーズン5試合で平均22.3分14.4得点4.4リバウンド2.2アシストを残し、先発パワーフォワードとしてキャリア4年目をスタート。
得点源として開幕から高得点を叩き出したイングラムは、ペリカンズのトップスコアラーとして奮戦。昨季までの2シーズンではいずれも平均1.8本だった3ポイント試投数を今季は同6.3本まで増やし、積極果敢に攻め立てた。
フリースロー成功率も昨季までいずれも70.0%未満だったものの、今季は自己最高の85.8%という高確率で決めたことも、平均得点が20の大台を突破した要因の1つと言っていい。1月17日のユタ・ジャズ戦ではフリースローを20投中16本(いずれもキャリアハイ)沈め、自己最高の49得点をたたき出した。
チームは11月下旬から12月にかけて、フランチャイズワーストとなる13連敗を喫したものの、1月中旬に大型ルーキー、ザイオン・ウィリアムソンがデビューを果たすと徐々に息を吹き返し、イングラムは先発スモールフォワードへとスライドして活躍。
ペリカンズで飛躍を遂げたイングラムは、ヘッドコーチ投票でオールスターのリザーブに初選出され、2得点1リバウンド1アシスト1スティールをマーク。オールスター期間中に行われた会見の中で、オールスターの一員になることができたターニングポイントについて、イングラムはこう話している。
「ニューオーリンズに来たことだね。僕は1日1日、練習に励んでるんだ。最高のチームメートたちと、いい人たちが僕の周りにいてくれる。彼らが僕を成長させてくれたんだと思ってる。今の僕はものすごく調子がいいと感じてるんだ。毎日前進を続けてるし、ワークアウトもできているよ」。
イングラムの活躍もあり、ペリカンズはシーズン中断前の時点でウェスト10位まで上昇。8位のメンフィス・グリズリーズとは3.5ゲーム差となり、今月末から始まる第二幕に臨むこととなった。
スクリメージ初戦も上々の滑り出しを見せたイングラム
「練習してきたことを出し切れるように、僕らは前へと進んでいく」
NBAはオーランドで22チームが集結して8試合のシーディングゲーム(順位決定戦)を行い、通常のフォーマットでプレーオフを戦い、今季のチャンピオンを決める形で再開されることとなったのだが、7月上旬の時点でイングラムはこう話している。
「そのプランについて、僕は自信があるとは言えないね。新たなケースがオーランドであるかもしれないし、これまでとは異なることだって起こり得る。だから僕はすごく自信があるわけじゃない。でもリーグ側が僕らをオーランドへ向かわせることになったんだから、様子を見てみようじゃないか」。
フロリダ州オーランドにある“バブル”(リーグによって隔離された空間)でプレーすることにより、新型コロナウイルスの感染やケガのリスクもあるのだが、7月7日に行なわれたメディア会見で、イングラムは「ウイルスについて僕は心配していない」と語り、プレーすることを宣言。
「チームメートたちは僕が(プレーすることを)疑問に思ったりはしていないと知ってるからね。結局のところ、僕はバスケットボールをプレーしたかったのさ。コートに出て、チームメートたちに自分が110%の状態なんだと知らせるだけ。僕はバブルにいなきゃならないんだ。それを疑問に思うことはなかったね」。
開催地でチーム練習やワークアウトをこなしてきたペリカンズは、23日にブルックリン・ネッツとのスクリメージ(練習試合)初戦を行い、99-68で快勝。イングラムも約10分の出場で3本の3ポイント成功を含む12得点に2リバウンド2アシストとまずまずの成績を残した。
「練習してきたことが出せたと思うし、今夜は間違いなくいい戦いができた。ドライブやキックアウト、バスケットへのアタック、アウトサイドからのショットとか、練習でやってきたことを持ち込むことができた」と振り返ったイングラムは、約4か月ぶりの実戦についても「戻ってこれて良かったよ。この10日間くらいはずっと互いにやり合ってきた。誰かと戦うこと、プレーすることは僕らとしても楽しかったよ」と話している。
ペリカンズはシーディングゲームの対戦相手が比較的恵まれているものの、8試合を終えた時点で8位あるいはウェスト8位のチームと4.0ゲーム差以内の9位に入ってプレーイン・トーナメントを制さなければ、プレーオフへと進むことができない。
「僕らにはまだまだやることがある。皆が若いし、互いのことをもっと知っていかなきゃいけない。一緒にプレーして最初のシーズンという選手が多いんだ。今夜のディフェンスは良かったと思うけど、これからも練習してきたことを出し切れるように、僕らは前へと進んでいく」。
イングラムが試合後にそう話したように、ペリカンズは昨季からロースターの多くが入れ替わり、ザイオンがシーズン途中に加わったことで急造チームに近い状態でもあった。イングラムにとっても、「僕のゲームを楽にしてくれる」というロンゾ・ボールやジョシュ・ハートこそレイカーズでチームメートだったが、ドリュー・ホリデーやデリック・フェイバーズ、イートワン・モアといった選手たちと一緒にプレーを始めてからあまり時間が経っていない。
そんな中、17日に家族の緊急な健康問題を理由にチームを離脱したザイオンが、25日にオーランド入りしたことは朗報だろう。ザイオンは隔離期間を終えてチームに合流できる見込みで、シーディングゲームには間に合うというのが大方の予想。
イングラム、ザイオン、ボールというヤングコアに、ホリデーやフェイバーズ、JJ・レディックといったベテラン陣がうまくブレンドされたペリカンズが、2年ぶりにプレーオフへ返り咲くことができるのか。自身としては初のプレーオフ出場を目指すイングラムが、第二幕でも安定して高得点を稼ぎ出すことができれば、その可能性は高まると言っていいはずだ。