2月22日、府中郷土の森総合体育館で行われたアルバルク東京vs栃木ブレックスの東地区首位決戦。激闘に終止符を打ったのはライアン・ロシターの逆転3ポイントだった。
この試合、外国籍のビッグマンを欠くA東京は、伊藤拓摩ヘッドコーチが「アシスタントコーチ陣が素晴らしいゲームプランを作り、それを選手が遂行してくれた」と語ったとおり、溢れる闘争心を前面に押しだし、高さに勝る栃木と互角の戦いを演じた。栃木の司令塔、田臥勇太も試合後のミックスゾーンで相手チームへ賛辞を送った。「アルバルクは、ああいう激しさが特徴のチーム。1on1能力が非常に高い選手に加えて、周りの選手がディフェンスをがんばって、地味なところをチーム全員でやっていたので苦戦した」。その上で「非常にタフな試合だった」と紙一重で手に入れた勝利に胸をなでおろした。
もっとも、栃木が苦戦を強いられた原因は、相手の闘争心溢れるプレーだけではない。外国籍のビッグマンを欠くA東京はフロントコートの台所事情が苦しく、ここを任せることができたのは、竹内譲次とザック・バランスキーの2名のみ。特に193センチのザックと、ともに206センチのサイズを誇るロシター、竹内公輔とのマッチアップは身長差13センチと、その差は歴然だった。高さのミスマッチを突くという常套手段に出た栃木だったが、これが自チームのペースを乱すきっかけになった。
実際にトータルリバウンドで51対37、特にオフェンスリバウンドでは23対12と栃木の戦略は一定の結果をもたらしたものの、攻守の切り替えのスピードやリズムなど失ったものもあった。田臥は「試合の序盤から圧倒的なミスマッチを意識し過ぎてしまって、ブレックスが得意とする速い展開に持ちこめなかった」と反省の弁を述べている。
いつもとは違う相手に、自分たちのバスケットを見失ってしまい、敗戦一歩手前まで追いこまれた栃木だったが、これを救ったのがロシターの一撃だ。74-76で迎えた残り17秒のラストチャンス。栃木のファーストチョイスは元日本代表でリーグ有数のシューターである古川孝敏だった。田臥から古川にボールを回したいところだったが、古川にはしっかりとマークが付いており、この選択肢は断念。田臥が個人技で打開しようと試みた瞬間、ゴール左でオープンになっていたのがロシターだった。ロシターは田臥からの矢のようなパスを受けると躊躇せずに3ポイントを放つ。これが決勝点となり栃木が劇的な逆転勝利を飾ることになった。
殊勲の3ポイントで栃木に勝利をもたらしたロシターだったが、この日は2ポイントシュートのフィールドゴールパーセンテージは21.4と大ブレーキ。3ポイントも、これまでの試合で11本しか決めておらず、今シーズンに関しては、決して優れたアウトサイドシューターではなかった。しかし、最後の最後をロシターに託したことについて田臥はこう語る。「まずフル(古川)を狙っていて、自分にチャンスが回って来て、一瞬打とうと思ったけど、ライアンが自分を呼ぶ声がはっきりと聞こえた。彼が自分を呼んだ瞬間に、ワイドオープンなのが見えたので、信じてパスを出した」
田臥は続ける。「練習中から、ああいうシュート練習はしていたし、あの状況のクラッチショット(ここ一番でのシュートのこと)は入れてくれると信じている。何よりワイドオープンで打つ準備をしていた。ライアンとはもう長いし、そこはもう信頼関係だけだった」。サッカーとは異なり“手を使うスポーツ”として戦略性が極めて高いバスケットボールは、事前のスカウティングやデータ、戦術が勝利を引き寄せる重要な要素となる。しかしこの日、栃木に勝利をもたらしたのは、大変人間臭い“信頼”という要素だった。
文=村上成