豪州で貴重な経験を積んだ比江島慎…栃木ブレックス、日本代表をけん引する存在へ

26日の川崎戦、22分の出場で9得点2アシストの比江島 [写真]=B.LEAGUE

 2019年、日本バスケ界のエースと評される一人の男が主戦場を再び日本に戻すことを決断した。シーズンオフの栃木ブレックスへの移籍、そしてオーストラリアでの人生初の海外挑戦を経て、再び栃木でのプレーを選択。比江島慎という男は今シーズン2度の大きな決断をしたことになる。

 天皇杯明けのレギュラーシーズンからコートに立ち、ここまで4ゲームプレーした。1月26日の川崎ブレイブサンダースとのB1リーグ第21節第2戦ではベンチから22分出場で9得点2アシストを記録。まだまだこれからと言った様子だが、ノールックパスでのアシストや独特のリズムからドライブで得点を取るなど、流れを変えるプレーを随所に見せた。ただ、彼自身はまだまだ満足できていないようだ。

チームに慣れてきてプレーでの手応えも感じている[写真]=B.LEAGUE

「しっかりチームとしてディフェンスして、勝利できたことが良かったと思います。フィジカル面は問題ないのですが、やはりチームのルールやプレースタイルなど含めて試合勘というのがまだまだ戻っていない感じです。日本でのワールドカップ予選(Window5)の際は練習を経てのゲームでしたが、今回はタフなスケジュールのため練習時間があまり多くなく、ゲームが続いているため試合の中で様々なことをアジャストしないといけない状況です。それでも自分の中ではチームに慣れてきて、プレーでの手応えも感じているので、徐々に良くなっていくと感じています。今日も自分らしいドライブでの得点や勝負所でのアウトサイドシュートも決めることができていますが、まだまだ満足はできていないですね」

 安齋竜三ヘッドコーチはゲーム後に「現状、そんなにフィットしていない感じがして、まだプレーの波が激しい。ディフェンスの部分でまだ結構不安があります」というコメントを残したが、比江島自身は少しずつではあるが手応えを感じている様子。「ディフェンス面は結構手応えを感じています、そういう意味でオフェンス面でのチームへのアジャストの方が問題かなと思っていますね。まだまだ100パーセントではないんですけど、しっかり自分のマークマンへのプレッシャーだったりポジショニングだったりは最初に比べたらできていると感じていますね」と語った。自身の手応えを、あとはしっかりとチームに還元できるようになれば指揮官の印象も変わり、プレータイムも増えてくるのではないかという印象を感じた。

オーストラリアでの経験や成長を語った比江島[写真]=B.LEAGUE

 オーストラリアと日本のバスケットの違いによってレフェリーの笛に少し戸惑いながらも、それをしっかりと受け止めて前向きな考えを口にした。

「正直全然違いますね。オーストラリアはタフでしたし、少しの接触ではファウルコールされませんでした。その部分では難しいですけど、合わせていかないとチームに迷惑が掛かりますので。栃木はしっかりとディフェンスでプレッシャーを掛けていくチームなので、その部分はアジャストしていかないといけないと思っています」

 そしてなんと言ってもオーストラリアでの経験は彼を一回りも二回りも大きくさせていた。

「フィジカルと高さがあるリーグなのでプレーの判断能力が上がり、研ぎ澄まされたかなと。シュートも一瞬のズレで打たなくてはいけないので、そういうところも身についたと感じています。あとは英語が話せなくて苦労したんですけど、コミュニケーションの部分が大事なスポーツだということも改めて実感しました。自ら積極的にコミュニケーションを取るタイプではないんですけど、日本に帰ってきてそういう部分も前向きにやっていきたいなと思います。高校や大学の先輩、過去に一緒にプレーしていた選手もいるので、コミュニケーションを取る部分ではそんなに心配せずに仲良くチームで過ごさせてもらっています」

 生活面でも少し話を聞いてみた。オーストラリアでは自炊を少しやっていて「人間力が上がったのはありますね」と自信を持って笑顔で語った比江島。それでもやはり日本のご飯は美味しいと断言した。

「もう本当に美味しいです、ついつい食べすぎてしまうので少し太ってしまう部分はありますよね。もうコンビニに行けば何でもありますし、24時間オープンしているじゃないですか。向こうはお店が夜すぐに閉まってしまうので。デザートも売っているし、飲み物も売っているし、アイスも売っているなんて……日本は誘惑が多くて至れり尽くせりでダメですよね(笑)。日本に帰ってきた時は食べてしまったんですけど、もう今は制限してやっています」

2月のWindow6では自分自身のすべてをぶつけてプレーすると意気込む[写真]=B.LEAGUE

 そんな彼は栃木のファンだけでなく、日本代表を応援するすべてのバスケファミリーの期待も背負う。いよいよ2月には日本バスケ界の運命を懸けた2連戦、アウェイでの「FIBAワールドカップ2019 アジア2次予選(Window6)」を控えている。「国を背負うとか今までの歴史などすべて理解して、自分自身のすべてをぶつけてプレーしますし、今はそこの2連戦にピークを持っていかないといけないと感じています。そのためには、この栃木で自分の感覚だったりプレーだったりを再び呼び覚まさないといけないので。そこからまずは自分自身が代表に選ばれることが大切です。今回も八村塁(ゴンザガ大学)や渡邊雄太(メンフィス・グリズリーズ)がいないかもしれません。Window5にニック・ファジーカス川崎ブレイブサンダース)があれだけ得点を取ったのでマークが厳しくなると思いますし、もっと自分が得点を取る意識を持ってプレーしたいと思っています」と力強く語った。

 人生初の大きな挑戦を経て、よりパワーアップして日本に帰ってきた比江島。彼が栃木を、そして日本代表を、歓喜の瞬間へ導く伝道師としての役割を果たすことになるだろう。

文=鳴神富一

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